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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第十章 ~戦闘兵器「サイクロンD」、反逆巨人「モー・ド・レッド」登場~
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「悪魔」

 トト達と話をした次の日、亮とエコーの二人は町の外れにある空き地の一つの中にいた。彼らがここにいたのは空中に浮かぶレッドドラゴンの戦艦に赴いて彼らが町を閉鎖した理由について直接聞くためであり、そしてそのために自分達を戦艦まで連れていってくれる仲介役をここで待っていたからであった。


「やあ、お待たせしました」


 その仲介役をあらかじめ買って出ていた二人は、亮達がそこに到着してから二分遅れでそこに姿を現した。もっとも亮達がそこについた時は予定の集合時間より三十分も早かったのだが。


「随分と早かったですね。まだ八時半なのに」

「三十分前行動は基本ですからね」

「学校の先生はさすがですなあ」


 仲介役の豚、ラ・ムーが亮に問いかけ、それに対しての亮の返答を聞いてもう一人の仲介役の鶴、ソロモンが感心したように言った。そこで亮の隣に立っていたエコーが遅れてやって来た二人に向かって言った。


「ところで、これからどうするんだ? お互い予定の時間より早く来てしまったが、このまま行くのか?」

「どうしましょうか。向こうには九時過ぎに着くと連絡してしまっているのですが」

「予定を繰り上げて今から行くと連絡してみては?」

「やってみましょう」


 亮からの問いかけにソロモンが答え、翼の先端を頭の側面に押し当てる。それを見た亮が目を細めながらエコーに尋ねた。


「あれは何をやってるんだ?」

「最新型の通信機よ。シールみたいに頭に貼って使うの。超薄型で超小型、一円玉の一万分の一の大きさなのよ。おまけに透明だから、滅多なことじゃ目立たないし見つからない」

「通話はどうしてるんだ?」

「脳波を増幅して相手に送ってるのよ。声を出す必要は無いから、周りの迷惑になる心配もない」

「ハイテクだな」

「つい最近に百万光年先の星で作られた代物だからね。ダーリンが知らないのも当然よ」


 エコーの言葉を受け、亮が「もっと外の情報も仕入れないとな」と感慨深そうに呟く。その間にもソロモンの「通話」は続いており、一方で取り残されていたラ・ムーが二人に話しかけてきた。


「しかし、今日はお二人だけですか? 生徒の皆さんも来ると思っていたのですが」

「最初は皆行きたがっていたのですがね。全員を代表して我々だけで行くことにしたんです」

「何十人もワラワラ集まって行くのはさすがに失礼でしょう?」

「なるほど」


 二人の返答を聞いたラ・ムーが頷く。その時ソロモンの方も連絡がついたらしく、それまでこめかみに押し当てていた翼を離して三人の元に近づき、彼らの方を見ながら言った。


「話がつきました。今から行ってもいいそうです」

「そうなの?」

「本当にいいんですか?」

「ええ。いいそうですよ」


 エコーと亮からの言葉にソロモンが景気よく答える。そしてそれを聞いたラ・ムーがポケットから通信機を取り出し、おもむろにスイッチを押した。

 次の瞬間、それまで彼ら四人以外に何もなかったその空き地に青白い電流が迸り、突如としてラ・ムー達が使っていた円盤が姿を現した。


「ステルス迷彩機能か」

「これくらいはダーリンも知ってたかしら?」

「昔からある機能だからな」


 この類のステルス機能は地球ではまだフィクションの世界でしか出番のないオーバーテクノロジーの類であるのだが、外宇宙では今から千年ほど前からメジャーなものとして認知されていた。


「さて、行きましょうか」


 円盤の側面の一部が上に持ち上がり、中への入り口が出来上がる。そしてその出来上がった入り口の縁に片足を乗せながら、そしてラ・ムーがそう言った。ラ・ムーが中に乗り込んだ後にソロモンが続いて中に入り込み、その次にエコーがそこに向かって歩き出した。


「さ、行きましょ」


 歩き出す間際にエコーがそう言い放ち、彼女のすぐ後ろに続いて亮も歩き出した。そうして二人はほぼ同じタイミングで円盤の中へと入り込み、四人を乗せた円盤は入り口を閉じた後再びステルス機能を起動して透明になり、透明化を済ませると同時に空中へと浮き上がりまっすぐ空中に浮かぶ戦艦へと向かっていった。





「おお、お主達待っていたぞ」


 戦艦にはものの数分で到着し、既に開かれていた後部ハッチから中へと進入した。中は円盤が丸ごと入ってまだ余裕があるほどに縦横共に大きく、その奥には亮達の乗ってきたものと同じ円盤が規則正しく並べられ、何十人もの整備士らしき人影がせわしなく右往左往していた。彼らは新しく乗り込んできた円盤には気づいたが、その後特に注目することもなくそれぞれ自分の仕事を再開していった。

 その円盤群を背にしてトトが腕組みをして待ち構えており、亮達の乗ってきた円盤を見つけるなりそう嬉しそうに声を弾ませた。


「予定より早い到着だな。今日という日が待てなかったのかの?」


 そして円盤から外に出た亮達に近づき、彼らの正面で立ち止まると同時にそう声をかけてきた。それに対して亮は「この星には時間前行動っていう文化があるんだ」と説明し、それはなんだと問いかけてきたトトに亮が続けて説明した。


「ほう、そのようなものがあるのか」


 亮から説明を聞いた後、トトはそう呟いて顎に人差し指の背を当てて考え込む素振りを見せた。それから少ししてトトは顔を上げて亮を見据え、苦い声で言った。


「随分と煩わしいな」


 物怖じしない、ハッキリとした物言いだった。これには亮は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そうか、トトはそう思うのか」

「そんなものだろう。実を言うと私も面倒くさいと思っていた。少なくとも宇宙では流行らんだろうな」


 そしてトトに向かってそう答えた亮に対し、エコーが横から口を挟む。エコーは続けてそこまで他人に気を遣うのは異常だと言い、同行してきたラ・ムーとソロモンもそれに同意するように首を縦に振った。


「そんなものか」


 しかしそうして周囲から一斉に否定されても、亮は特に憤慨したりはしなかった。地球より宇宙での暮らしが長かった彼も実際そう思っていたからだった。


「皆様、ここにおりましたか」


 そんな時、遠くから亮達に向けてそう声をかけてくる者があった。亮達がそれに気づいて目を向けると、そこにはこちらに向かって小走りで近づいてくる全身を鎧で固め兜を小脇に挟んだ首無し騎士の姿があった。


「おおエンクか。どうした?」

「はい。先方の準備が整いましたので、皆様を艦橋までお連れするようにと言われまして」


 そして自分達の元に来た騎士にトトがそう問いかけ、名前を呼ばれた騎士エンクはそこにいた全員に向かってそう答えた。それを聞いた亮が顔をやや強ばらせた。


「とうとうご対面か」

「そんなに気張らなくても大丈夫よ」

「しばらく前線を離れてたからな。こういう雰囲気にはまだ馴れてないんだよ」


 夫を気遣うように言ってきたエコーに亮が言葉を返す。その一方でエンクは既に彼らに対して背を向け、それから肩越しに彼らに言った。


「ではご案内いたします。といっても、目的の所にはすぐに到着するのですが」


 そのエンクの言う通り、彼らはそこから歩いて一分もしないうちに目的の場所に到達した。そして目的地についた彼らの足下には、上部が青白く光る円形の低い台が置かれていた。


「ワープポータルか」

「なるほど。これで艦橋まで行けってことね」


 意図を察した亮とエコーが揃って声を出した。エンクはそれに頷き、続けて二人に上に乗るよう指示した。


「すぐに艦橋に着きます。艦橋にはレッドドラゴンの団長がおりますので、心の準備をお願いします」


 エンクの言葉に頷き、まずは亮がポータルの上に立った。亮がその上に立つと彼の足下にある光が輝きを増していき、そして光が最高潮に達した次の瞬間、亮の体が足の先からその光の中へと吸い込まれていった。





 視界が光に包まれた次の瞬間、亮の体はそれまで彼がいた所とは違う場所の中にいた。そこは離着陸場に比べて一回り狭かったがそれでもまだ十分に広く、中は規則的に配置された照明によってしっかりした明るさを保っていた。

 ここが艦橋なのか。クリアになった視界でそれらのことを把握した亮は即座にそう判断した。


「よく来たな」


 艦橋の奥の方からその声が聞こえてきたのは、亮の横にエコーが転移してきたのと同じタイミングだった。亮がエコーの存在に気づきつつ目を凝らして前方を見つめると、その声の主の姿はすぐに見つかった。

 それは自ら生やした翼をローテンポではためかせながら艦橋の中で浮いていた。


「お前達がラ・ムーとソロモン、そしてトト姫の言っていた者達か。歓迎するぞ」


 それは低く、腹の底に響く声だった。まるで地獄の住人が放つような、聞く者の恐怖心をかき立てるようなおぞましい声だった。

 そして今まさに、亮の眼前には悪魔がいた。


「私は業魔将軍サティ。お初にお目にかける、人間よ」


 全身を筋肉の鎧で覆った、黒曜石が人の形をとったかのように光沢を放つ漆黒の体。胸板は厚く腹筋は見事に六つに割れ、筋肉のついた四肢は逞しく、指までもが雄々しく膂力に溢れていた。服や防具の類は身につけていなかったが、そんなものがいらないくらいその体躯は頑強に見えた。

 背中からはその高い背丈にふさわしい大きさを備えた二枚一対の蝙蝠の翼を生やし、口は堅く閉じられ、二つの目は血のように真っ赤に染まり、額からは前に向かってまじれた二本の角が伸びていた。

 そんな悪魔を構成する体のパーツの大半が黒に染まっており、額を大きく見せるように後ろに撫でつけられた長髪のみがその中で唯一銀色に輝いていた。


「すごい」


 遅れてやって来たエコーもすぐにその存在に気づき、思わず思った通りの感想を口から漏らす。亮もそれに黙って首肯し、そんな二人の眼前にサティと名乗った漆黒の悪魔がゆっくりと降り立った。目測で三メートルはあるだろうか。目の前の巨体の悪魔を前にして、亮は驚きつつもそう予測した。


「さて、人間よ」


 そんな亮達を前にして、彼らのすぐ近くに降り立ったサティは奥に鋭く生え揃った牙を覗かせながら口を開いた。


「ここに何をしに来たのだ?」


 それはふざけた物言いを一切許さない口振りだった。亮とエコーはこの目の前の悪魔に自分の心臓を握りしめられているかのような錯覚を覚えた。

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