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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第八章 ~モノ「鬼」登場~
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「終劇」

「俺が道を開く」


 最初に動いたのは量だった。レーザーブレードを片手で持ち、それをでたらめに振り回して三日月状のエネルギー波を撃ち出していく。何十発と発射された青白いエネルギー波は白ウサギめがけてまっすぐ飛んでいき、ウサギの生やしていた触手を次々と切断していった。


「遅れた分は取り返さないとね」


 そしてサイクロンUがエネルギー波を生み出すと同時に、牛頭の怪物へと変化していた芹沢優が走り出していた。優がウサギに追いつく頃にはエネルギー波が触手をあらかた切り落としており、残りの触手もいきなりのことに困惑しているかのように頭を左右に振るだけであった。


「死ねェ!」


 その生き残りの触手の群をかきわけ、牛頭の怪物が白ウサギの脇腹に拳を叩き込む。それまでミチルと取っ組み合っていてそちらの方に意識を向けていた白ウサギは怪物の襲来に全く気づかず、結果としてその攻撃をモロに食らうこととなった。


「なに!?」


 ミチルもまた優の気配に気づかなかった。だが彼女は眼前でウサギが真横に吹き飛ばされるのを見て、反射的に後ろに飛び退いていた。そこで彼女は初めて優の存在に気づいてそちらの方に視線を向けた。


「え、誰?」

「ファイヤーデース!」


 だがそこまで言い掛けたミチルの横を極太のレーザービームがかすめていく。驚いてそちらの方を向いたミチルの視線の先で直進したレーザーはあっという間に白ウサギを飲み込み、その後も勢いを失うことなくレーザービームは直進を続けていった。


「逃がさん!」


 そしてそのレーザービームと併走してウサギに接近していたタムリンが走った勢いのまま地面を蹴って飛び上がり、ジャンプの頂点にきた所でウサギに狙いを定め急降下、右足を伸ばしてウサギに跳び蹴りを放った。


「オラァ!」


 タムリンの足先がウサギの背中に突き刺さる。タムリンはそれだけで終わらせず、蹴りつけた方の足に力を込めて膝を曲げ、それを勢いよく伸ばしてその反動でウサギの体を蹴り飛ばした。

 ウサギはなんの抵抗も出来なかった。自分の身に何が起きているのかわからなかったのが実際のところであった。とにかくウサギは全くの無抵抗で一連の攻撃を受け続け、元いた場所から何キロも離れた所でうつ伏せの状態で倒れたまま動かなくなった。


「ミチル、無事か?」


 白ウサギが動かなくなったのを見た直後にサイクロンUがミチルの元まで駆け寄り、一機と一体が隣接したところで亮がウサギに声をかける。声をかけられた黒ウサギは肩で息をしながらもサイクロンUの方へ顔を向け、弱々しく笑いながらそれに答えた。


「へへへ、大丈夫です。無事っす」


 全然大丈夫に見えなかった。体のあちこちには触手の刃による切り傷が刻まれ、蟹の鋏と触手で拘束されていた腕からはそのそれぞれ締め上げられた部分から血が滲み出ていた。ミチル自体も肩を揺らして息を整えており、見るからに疲労困憊という体であった。


「そうか。だがとても無事には見えないぞ。さっきまで散々いいように攻撃されてたろうに」

「ちょっと多めに小突かれただけですよ。大丈夫、私もまだやれます」

「ふざけるな」


 だが空元気を振り絞って答えるミチルに、サイクロンUの肩に降り立った冬美が厳しい口調で言葉を浴びせる。その言葉はいつもの冬美が発したとは思えないほどに低く重く、冬美より何倍も巨大な図体を持つミチルが息をのむほどの迫力を秘めていた。

 そして相手が黙ったのを見たクマの着ぐるみは相手を睨めつけながら、先と同じ口調で言葉を続けた。


「駄目な時は素直に駄目だと言え。できもしないことを出来ると言うな。お前が潰れたら悲しむ者もいるということを忘れるな」


 ミチルは黙って聞いていた。この時には浩一とアスカ、そして優も彼女らの元に集まっていた。その中で、冬美の後を継いだ亮が諭すように言った。


「無理だと思ったら仲間に頼れ。そのための仲間だろう。お前はもう一人じゃないんだ」

「……はい」

「いいな」

「……わかりました。じゃあちょっと、後頼んでいいですか」

「ああ」


 サイクロンUが頷く。そののっぺらぼうな顔の動きにあわせて亮が言った。


「任せておけ」


 その言葉を聞いたミチルはゆっくりと目を閉じ、体から力を抜いてその場に横たわった。なおそれを見たアスカが「アラタさんは出てこれないのデスか?」と横にいた同族のセイジに話しかけ、それに対してセイジは「肉体は一個のものを共有しているから、精神だけ変わっても動けないことに違いはないんだよ」と答えた。


「たぶんあの白ウサギ、ミチルと同じパワーを持ってたんだろうな。そんな奴と正面から全力で長いこと取っ組み合って、腕も四本締め上げられて、おまけにその間全身切られまくったんだ。死にはしないだろうしすぐ復活するだろうが、少しの間動けなくなるのは当然だろうな」

「すまんクマ先生。先生の見せ場を殆ど奪ってしまったクマ」


 セイジがそう続ける一方で、冬美は亮に向かって謝罪していた。それを聞いた亮は冬美に笑って言った。


「気にしてないよ。俺の言いたいことを先に言ってくれて助かった」

「そうクマ? それならまあいいけどクマ」

「そういうことだ。それより、今は目の前に集中しよう。他の皆もだ」


 亮に言われて生徒全員が意識を件の白ウサギに向ける。モノの変化した白ウサギはこの時、もう二本の足で立ち上がっていた。触手を切られ、脇腹を殴られ、ビームに焼かれ、背中を蹴られたにも関わらず、その体には傷一つついていなかった。


「あー、やっぱあれモノだわ。こっちの攻撃全然効いてないわね」


 牛頭の怪物、もといそれに変化した芹沢優が頭を掻きながら呆れたように言った。それに続けるようにして亮が言った。


「人智を越えた存在。人間では勝つことの出来ない存在、とかいう話を聞いた気がするな」

「あれマジだったんだ。本当に戦ってみるまで眉唾ものだと思ってた」

「ジーザス。どこまでも非常識な存在デース」


 亮に続いて浩一が呟き、アスカが息を吐く。誰もそれに突っ込まなかった。突っ込む代わりにセイジが言った。


「ま、なんとかなるっしょ。そろそろミチルも復活する頃だし」

「ふっかーつ! ミチルちゃんふっかーつ!」

「本当に復活したよ」


 くわっと目を開けて起きあがったミチルが両手をあげて声を張り上げ、それを見た冬美が驚き半分の声を漏らす。その間にもミチルは完全復活をアピールするかのようにその場で大きくジャンプし、地面を激しく踏みならしながら亮達の隣に躍り出た。


「説教の必要無かったかもな」


 亮がどこか気まずそうな声で呟く。その彼の目の前でモノ、もとい件の白ウサギはその赤く光る四つ目を亮達に向けて大きく口を開け、怒りを吐き出すかのように高々と叫び声をあげた。


「来るぞ!」


 亮が叫ぶ。それと同時に一同も身構える。そうして戦闘態勢を整えた面々に向かって、白ウサギは前足を地面につけ四つん這いの姿勢になって一直線に走り出した。





 ウサギが最初に目を付けたのは優だった。牛頭の怪物めがけて走り出し、後ろ足で地面を蹴って飛び上がる。優はそれに対して逃げだそうとせず、一歩前に出てそれを迎え撃った。


「やれるのか!」

「牛頭鬼はこれくらいじゃびくともしない!」


 亮からの問いかけに優が答える。この時既に白ウサギは優のすぐ近くにまで来ており、そしてウサギはジャンプの頂点から落下しつつ優の顔に狙いを定めて右腕を大きくふりかぶっていた。


「ふん!」


 それを見た優もまた右腕を振りかぶり、相手が振り下ろしてきた拳に向かってそれをぶつける。両者の拳が激突し、優の足下の地面が大きく陥没する。かち合った拳から衝撃波が発生し、周囲にあったものを吹き飛ばさんと拡散する。

 他の機体が足腰に力を込めてそれに耐える中、白ウサギが自分から拳を離してその場に着陸する。そして半歩退いて構えを見せる牛頭を前に無防備な背中を晒け出す。

 優の眼前でその背中の一部が黒く変色して盛り上がり、一瞬で体と水平に延びた直方体の物体を背中の上に作り出す。

 黒い直方体の上半分が垂直にスライドする。スライドした上と下に挟まれた部分の中央に金色の光が集まっていく。


「レールガン……!?」


 それを見た優は直感で何かを察し、咄嗟に両腕を頭の前で交差して防御態勢をとる。刹那、生み出された光の球が上下の板の間を滑るように撃ち出され、球が優の体に直撃し爆発を起こす。


「優!」

「無事か!?」


 亮と浩一が同時に叫ぶ。だが黒煙に包まれた中で優の姿は見えず、そしてその煙の中から白ウサギが真上に飛び出してきた。

 二人がそちらに意識を向けなおして構えを取る。その二人めがけ、白ウサギは両手足を大きく伸ばして穴の空いた腹を前に突き出した。

 穴の内側からタールのような黒い粘り気のある物体が鉄砲水のように溢れ出し、渦を巻きながらぽっかり空いていた穴を一瞬で塞ぐ。そして穴を塞ぎ終えたタールはその溢れ出した勢いのまま前に突き出し、一瞬で形を変えて腹から生え出でてきたような形で一つの物体を形成した。

 一つの細長い銃身を円形に幾つも並べ、それを一個の銃身としてひとまとめにしたもの。ガトリング砲である。


「まずい」


 亮が苦々しく漏らし、二機が左右に跳ぶ。直後、ウサギの腹から延びたガトリング砲が回転を始め、それまで二機のいた場所に向かって弾丸の雨をばらまき始める。初弾は一発も当たらなかったが、ウサギは空中で体を捻って狙いを一機に絞った。

 その砲身はサイクロンUの砲を向いていた。


「俺かよ!」


 自分が狙われていると悟った亮は機体をその場で止め、サイクロンUがレーザーブレードを起動して片手で構える。

 弾丸の雨が降りかからんとする。サイクロンUはそれをまっすぐ見据え、レーザーブレードを持つ手を滅茶苦茶に振り回した。

 それは一見ヤケクソな、無計画な動きに見えた。だがサイクロンUの動きに従って四方八方へ揺らめくレーザーブレードの光は機体に当たる弾丸だけを正確に捉え、そのブレードを形成する高密度のエネルギー流でもって捉えた弾丸を一つ残らず蒸発させていった。


「そこのウサギ! 先生虐めるのもそこまでデース!」


 そのサイクロンUから離れた位置にあったピースフルの中からアスカの声が木霊する。それと同時にピースフルの両腕が重々しい駆動音を響かせながら動き始め、伸ばした十本の指先をなおも滞空している白ウサギに向ける。


「あいつまだ宙に浮いてやがんのか」

「どうでもいいデース! 攻撃開始するネー!」


 渋るセイジの横でアスカが叫ぶ。直後、伸ばされた指の根本が煙を吐き出し、それら全てが手を離れてウサギめがけて撃ち出されていった。


「フィンガーミサイル! ファイヤー!」


 アスカがそう叫ぶ頃には、既にミサイルと化した指達は後部噴射口から煙とオレンジ色の光を放ちながらまっすぐ白ウサギに向かっていった。ウサギはこの時まだサイクロンUに向けて攻撃を続けており、これらに気づく素振りは見せなかった。

 そのウサギに長さの異なる十発のミサイルが迫る。だがあと少しでウサギに命中する距離まで近づいた所でそのミサイル群は突如として出現した赤い半透明の壁にぶつかり、一つ残らずそこで爆発していった。その際発生した爆風と炎もまた赤い壁に阻まれ、その後ろにあったウサギの体には少しも届かなかった。


「バリアーかよ!」

「本当に非常識な存在ネー!」


 それを見たセイジとアスカが顔を歪めて言った。その反対側ではミサイルの直撃と同時にタムリンがウサギに飛びかかって右ストレートをお見舞いしていたのだが、これもまた赤い壁に阻まれてウサギ本体に届くことは無かった。


「うおおおおッ!」


 その後も浩一はその場に浮きながら続けざまに攻撃を加えていった。殴り、蹴り、十連撃を叩き込む。だがそれでも赤い壁はそれら全てを受け止めてビクともせず、それどころか壁の向こうにあるウサギの体の一部が変化して出来た砲台の攻撃は赤い壁を素通りし、まっすぐタムリンの顔面に迫ってきた。


「反則だろうがよそれ……!」


 咄嗟に両手でそれをガードしたタムリンはウサギから距離を離し、膝を曲げて地面に着地する。ウサギはその後サイクロンUへの攻撃を中断し、宙に浮いたまま体を捻って今度は巨大戦車であるピースフルにその砲身の狙いを定める。


「あっ、まずい」

「後退! 後退デース!」


 必死の形相で叫ぶ二人の視線の先でガトリング無情に回転を始める。だが回転する銃口が弾丸を吐き出そうとした直後、その高速回転する砲身のあちこちから突如として炎が吹き上がり、次の瞬間砲身の真ん中から爆発が起きた。


「いきなりなんだよ、どうしたんだよ?」

「セイジ、あれ! あれ見るネー!」


 戸惑うセイジの横でアスカがモニターの一部を拡大して言った。そこにはもうもうと黒煙を吐き出すガトリング砲の根本の部分に立ち、肉厚のマチェットを扁平な手の先にくっつけて佇むクマの着ぐるみがいた。


「人間大のサイズの奴は素通り出来るみたいクマね」


 ガトリング砲を切り裂いたばかりのマチェットを手先を左右をスライドさせてその中にしまい込みながら冬美が言った。それから彼女はバックパックの両側からロボットアームを延ばし、その先端にある豆電球サイズのジェットエンジンに火をつけて体を浮かし、瞬時に最高速度まで出してその場から飛び立った。

 冬美の体は赤い壁を素通りし、何事もなくウサギから距離を離していった。だが次の瞬間には滞空するウサギの全身から触手が何十本も生え出し、その先端についた発射口から冬美めがけて赤いレーザー光線を撃ち出していった。


「あぶっ、あぶねっ!」


 冬美は高速で飛び回りながら飛び交うレーザーを回避していく。だが網の目のように何重と張り巡らされるビームの嵐は確実に冬美を追いつめていき、ついにはそのクマの着ぐるみの右足をかすめた。


「うわっ!」


 その衝撃でクマが体勢を崩す。同時にスピードもほんの一瞬落ちたが、その一瞬を突いて何十ものレーザー光が一斉に冬美に迫っていく。


「まずい!」


 亮が叫ぶ。他の面々も同様に叫ぶ。そしてその誰もが、今から飛びかかっても間に合わないことを察した。

 だが亮はそれを察するなり、誰よりも速く次の行動に移っていた。その亮の思惑通りサイクロンUがレーザーブレードを逆手に持ち、それをウサギに投げつけんと上半身を捻って腕を振りかぶる。


「慌てなくともよい」


 だがサイクロンUがそれを投げつけようとした刹那、その頭上から不意に声が聞こえてきた。その声に気づいて顔を上げると、そこには彼らの遙か頭上でとぐろを巻く白い龍の姿があった。


「喝ッ!」


 龍がウサギを睨みつけて吼える。その叫びは衝撃となって辺り一帯にこだまし、その不可視の波はレーザーを一つ残らず消し飛ばして触手を全て根本から吹き飛ばし、宙に浮いていたウサギの体を地面に叩きつけた。


「すげえ」

「まだよ。まだまだこれから」


 それを見た浩一が呆然と呟き、そしてそれを耳聡く聞きつけた龍がうそぶく。その龍の眼下ではウサギが無傷のまま起きあがり、頭上の龍を睨みつけて叫び声を放った。

 次の瞬間、一つの銃身が内側から表面を突き破り姿を現した。それに呼応するように次々と形の違う銃が体の奥底から外へと伸びていき、気がつけばそれらはウサギの全身を覆い尽くすまでの量となっていた。

 そうして姿を見せた銃はその全ての銃口が龍に向けられていた。そしてそれら全ての銃口の先に一斉に黒い光が集まっていく。

 光は球となり、全ての銃口で同じ大きさの黒い球が形成されていく。何をしようとしていたのかは明白だった。だが龍はそこから動かなかった。


「それだけ消耗すれば私一人で充分よ」


 龍が冷静に呟き、それから顔を下げてウサギに狙いを定め、ゆっくりと口を開く。

 開かれた口の前で白い光が集まっていく。光は白い球となり、秒刻みでその輝きを増していく。

 先手を取ったのはウサギだった。銃口の先に作られた球体から黒い光がいくつも放たれる。破壊と殺戮の衝動を隠そうともしないそれらは獰猛な牙をむき出しにし、獲物を引き裂かんと白い龍にまっすぐ向かっていった。

 それは文字通りの「破壊光線」だった。暴走するモノの欲求をもっともシンプルに体現した存在だった。だがその光線から一拍遅れて、白い龍の眼前で白い光の球が破裂した。


「吹き飛べ!」





 一瞬だった。

 白い龍の放った光線は、もはや「光線」と呼べる代物ではなかった。一瞬で辺り一帯を覆い尽くした半球状のそれは、もはや量感に満ちた光の塊、青空の中で白熱する「太陽」そのものであった。

 龍の放った光は一瞬でその場を覆い尽くし、破壊欲に満ちた黒い光線をかき消した。赤子の手を捻るような呆気なさであった。そしてその光はウサギの体を直撃し、その身を覆う白い膜を引き剥がして黒い本性をむき出しにした。白日の下に晒された黒い雲の塊は光をまともに浴び、その体の繋がりをバラバラにされていった。

 後はもう散らばるだけだった。体の繋がりを断ち切られたモノは方々に千切れ、分子レベルにまで解体されていった。それまで誇っていた巨大な体躯はどこにもなく、もはやいるかどうかもわからないレベルへと落ちていった。





「ん……」


 なので光が消え、視界がクリアになった亮が目の前を見渡しても、そこには何も存在していなかった。それはまるで最初から何もいなかったかのように静かな有様であった。自分以外の他の機体もまた同様に、不気味なほど静かな状態を保っていた。優もまたほぼ無傷な状態でその場に佇んでいた。


「あれを消したのか……」


 亮は呆然と呟いた。まるで祭りの後のような静けさを前にして、彼はそれ以上の感想を持てなかった。

 達成感も何も無かった。自分の知らないところで一瞬で終わってしまったからだ。代わりに必死になって戦った反動からか、とてつもない疲労感だけが彼の体を襲っていた。


「まあ、終わったならいいか」


 サイクロンUのコクピットの中で亮が体の力を抜く。そうして脱力しきった彼の耳に戦艦のジェットエンジンの音が聞こえてきたのは、それから数分経った後のことだった。

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