第7話 開かずの間
休み時間に、私が席に座って考え事をしていると、島田まなが声をかけて来た。
「ねぇ、ちなみ」
「何」
「もしかして、今、吸血鬼について調べているの」
「調べてるよ」
「ホントかよ」
噂好きの小村かおりが話に食いついてきた。
「なんか新しいこと判ったら教えてよ」
小村も吸血鬼については興味津々の様だ。
「もちよ」
私は周辺の生徒に話を聞かれないように身を乗り出し、小村の耳にささやいた。
「昔の放送部が書いた古いノートを手に入れたの。いろいろ書いてあって面白わよ。詳しい話は後でね」
私は、席に座り、ふたたび島田の方を向いた。
「ところで、まな。私が調べてるの誰から聞いたの」
「愛からよ。愛に変な言葉の意味を聞いたんだって。1年の西村って、吸血鬼について調べていて入院したんでしょ。愛が心配していたよ。あなたが変なことして、西村って子と同じになるんじゃないかって」
「そんな訳ないじゃない。大丈夫だよ。愛もまなも心配性だな」
どうにも、私の友達は心配性が多いようだ。私の友人以外は吸血鬼の話題で盛り上がっているのに。
「あなたは心配しなさすぎよ」
「なぁ、ちなみ。あたしも一緒に混ぜてよ」
噂好きの小村かおりが話に食いついてきた。
「かおり~。あたしが、ちなみを止めようとしているのに、なんであなたはけしかけるようなことを言うのよ」
「だって、こんな面白そうな話なかなかないじゃない」
「もぉ」
結局、島田まなは私を止めることを諦め、小村かおりが新しい仲間となった。
◇ ◇ ◇ ◇
放課後になるのを待ち、私たちは、まず、手は始めに聖堂の天井にある開かずの間に行ってみた。
開かずの間と言っても、お札が張られているようなことはなく外から見る限り普通の部屋だ。部屋の前は、普通に放送部などの出入りがあるために綺麗とは言えないが、清掃されていた。
木製の扉を見ると古い大きな南京錠がかかっていた。しかし、南京錠とその周りの金属部分だけは立派なのだが、木造の扉は結構ボロボロだった。
「蹴って、壊そうか。壊しても、どうせバレないよ」
小村が提案してきた。
木製の扉は古く、蹴れば壊れるような気がする。
確かにそう思う。できることなら、できるだけ穏便に済ませたい。一応文化財だし。
南京錠をよく観察すると、錆が削れている。
近頃、誰かが触った後だ。
特に鍵穴の周りの錆が取れている。恐らく誰かが、針金のような道具を使って、開けようとしたのだろう。
思い当たるのは、西村京子だ。
もしかしたら、既に西村京子が開けているのではないだろうか。
試してみた。
予想通り、南京錠はカギがかかっている風になっているだけで、実際の鍵はかかっていなかった。
針金では、再び鍵を閉めるのは、面倒だったのだろう。
「失礼します」
恐る恐る扉を開け中を覗くと・・・中は蜘蛛の巣だらけの倉庫。
何十年も使われていないせいか、清掃道具は朽ち果て、バケツは錆だらけ。
私たちが、わざわざ別の建物から、清掃道具を持って来ないといけないのは、聖堂に汚いものを置かないためではなく、単に南京錠の鍵をなくして倉庫が使えなくなったというのが真相のようだ。
時間が経つうちに、本来の理由は忘れられ、別の理由が発明されたのだろう。バカらしい。
直ぐに次の開かずの間に行くことにした。
地下室の開かずの間は、昔、納骨堂として設計されたものらしい。
一言、納骨堂と言っても、仏教とキリスト教では納骨堂の感じはだいぶ違う。
仏教は火葬中心なので、納骨堂には遺灰を納める。
対して、キリスト教の場合は遺灰を納める場合と遺体を納める場合がある。
キリスト教では最後の審判の日に、死者が復活すると考えるので、火葬を避ける人が多いのだ。
噂だと、この学校の納骨堂には、最初の学長と2代目の学長の遺体が納められているらしい。
死体とご対面という訳だ。
行ってみると、さすがに納骨堂の木の扉は重厚で蹴ったぐらいでは壊れそうもなかった。
試に蹴ってみたけど、大音響がするだけで、私たちの足の方がおかしくなりそうだった。
そして、比較的真新しい南京錠が、しっかりかけられていた。
鍵の穴の周りには、引っ掻き傷があり西村がピッキングを試みたのだろう。
開けっぱなしになっていないことを考えると、開けられなかったのだろうか。
てっきり、中で変なものを見たから、ビックリして聖堂から飛び出してきたのだと思ったんだけど・・・
しょせん、現実はそこまでドラマチックではないということだ。
私たちも色々と試してはみたけれど、結局開けられず。
結局、私たちも今日のところは諦めるて、帰ることにした。