第6話 ノート
澤田ちなみは、夜、ベットに入りながら、今日一日のことを振り返った。
そして、ある疑問が生じた。
吸血鬼なんて存在しなくて、吸血鬼の存在を信じる信者たちの凶行なのだろうか。
もしかしたら、それすらもなく、全てが私の妄想なのだろうか。
私は、どこかで吸血鬼に惹かれ、その存在を望んでいるのではないだろうか。
永遠の若さと、美しさを与えてくれる超越者の存在。
それは、女の子憧れではないだろうか。
そして、私は吸血鬼が事件を起こしていると信じているのだろうか。
信じていない。
だが・・・どこかで、何かが引っかかる。
周りの人の影響だろうか。
神が存在して、天使が存在し、キリストの奇跡があるとすれば、当然、悪魔も存在していてもおかしくない。
もしかりに、万が一、本当に吸血鬼が居るとしたら・・・私はどうしたら良いのだろうか。
昼間の倉田さんの質問を思い出す。
「吸血鬼がいるとして、どうするの? あなたが、退治するわけ」
やはり、誰かに頼むしかない。
とりあえず、ネットを検索してみた。
ネットで吸血などの都市伝説・噂を調べていると面白い噂を見つけた。
怪物を倒す人たちの噂。
これは、『死の鐘』の変形版だ。
『死の鐘』とは、その鐘の音を聞いてしまうと、異界に連れていかれて、怪物に殺されると言う話だ。
これだけなら、怖がらせるための都市伝説だけど、ちゃんと、殺されるのを避ける方法がある。
ポケットの中にタロットカードを入れて置くと、魔法が使えるようになるというものだ。
さらに、この部分だけが、取りだされた変化したようだ。
カードの魔法を使い異形の怪物や魔道師を退治する狩人の噂。
ほとんどファンタジー小説だ。
こんな人たちが実際するのだろうか。
判らない。
でも、万が一、吸血鬼が実在するとしたら、こんな人たちが居てもおかしくない。
万が一のことが起きたら、この人たちに頼もう。
そう思うと気が楽になって、安心して寝ることが出来た。
◇ ◇ ◇ ◇
次の日、私は嘘をついた。
私は、放課後、西村さんの家に行ってノートを入手を入手した。その際、自分のことを放送部員で西村さんと友人だと嘘を言ったのだ。放送部員となるのことは放送部の部長の許可は貰っているとはいえ、友人というのは酷い嘘だった。だけど、そうでもしないと家に入り、ノートを入手することはできなかったのではないだろうか。
ノートは複数あり、放送部が過去に何回か、調査したことが判る。
もっとも、古いノートは40年前のものだ。
その中には、数多くのインタビューや憶測や推理が書かれていた。
過去の在校生、先生へのインタビューなどは、かなり力が入ったものとなっている。
親子三世代、四世代と通っている家族も多いため、身近な人からインタビューしただけでも、相当当時の状況が判ったのではないだろうか。
この学校の吸血鬼伝説の元になった事件、それは、今から50年程前の話。
イタリアから1人の神父が派遣されてきた。
名前は、マルコ・ジュリアーニ。26歳。
日本語が堪能なことから派遣された二枚目の青年だ。
当然、若く二枚目の神父の赴任に、女生徒たちは色めきだった。
しかし、若くても神父だ。女生徒たちがどんなにアプローチをしても一線を超えることはなかった。
赴任して、3年目、そんな神父も、ある少女と恋に落ちた。
2人は、他の生徒や先生にばれないように、静かに愛をはぐくんだ。
連絡は手紙。会うのは、日が暮れた夜になってから。
そして、事件が起きた。
密告により、2人の恋は学校に知られることとなった。
生徒は卒業前ということで退学を免れたが、マルコは除名されイタリアに帰国することとなった。
これだけでも、伝説の元には十分だろう。
しかし、話には続きがある。
帰国したはずのマルコが、実は帰国していなかったのだ。
これは先生方も知らない事実であり、一部の上層部のみが知っている事実だった。
当初、学校側も、マルコが帰国の準備をし、部屋を払っていたことから帰国したものと思っていた。
イタリア側からの連絡があり始めて判ったのだ。
イタリア側からの要請もあり、入国に問い合わせたところ、出国の記録はない。
女生徒への連絡もない。
マルコは自殺したかのではないか?
という噂が広まった。
キリスト教の世界では、一般的に自殺者は天国に行けないと言われている。
そのことがマルコが吸血鬼になったという話になり、マルコが行く不明という事実が、吸血鬼が学校に封印されているという話を生むことになったのではないか、と書かれている。
そして、現在でも、マルコの消息は判っていない。
◇ ◇ ◇ ◇
放送部のノートを見ることにより、西村京子に多少は近づけたのではないだろうか。
西村京子と言えば、なぜ彼女は、私たちが清掃しに行った日、あんなに慌てて聖堂から飛び出してきたのか?
彼女が出た数秒後、聖堂に入ったが誰も居なかった。
その数秒の間に外に出たのだろうか。
それとも、彼女は妙に後ろを気にしていたので、何かに追いかけられる幻想でも見ていたのだろうか。
これは、もう今となっては判らない。
もう一つ判らないが、マルコ神父の消息だ。
生きていたとしても、80歳。爺さんだな。
当時を知っている人は、もうだいぶ年を取っているか、死んでしまっているだろう。
この学校にまだ残っているとしたら、ここの生徒出身の教頭か学園長ぐらいだろう。
やはり、古いノートを手掛かりにして、考えるのが一番だ。
インタビューを受けたのは、当時すでに退職していた学校の先生。さすがに現役の先生には尋ね辛かったのだろう。
学校による内部調査のことが大まかだが書いてある。
マルコ神父は帰国する日、最後の挨拶をするために、昼に学校に来た。
帰国する内容が内容なだけに、単純なあいさつ程度だった。
親しい先生方と簡単な別れの挨拶をした後、職員室を後にした。
これ以降、彼の目撃談がない。
マルコ神父は事件の後も生徒たちの信頼は厚く、人気があり、別れを惜しむ生徒も多かったらしい。別れの挨拶をしたくて、待っていた生徒も多いはずだ。わざわざ生徒たちを避けて帰るだろうか。
先生の家がどこか知らないけど、いつもは正門を使っているので、帰るときにわざわざ裏門を使うとは考えられない。しかも、白人の男性。間違いなく目立つ。普通に学校の外に裏門を使って出ても、誰かが気づくはずだ。
そう考えると、学校内から出ていないではないか、という考えが出てくる。
吸血鬼も学校内に封印されているとなっているし、吸血鬼=マルコ神父なら、学校内に居ることになる。
もちろん、その場合は死体でだ。
学校から出ておらず、消息が判らないとなると、マルコ神父は、学校内で自殺したか、殺されたのではないだろうか、という考えに現実味が出てくる。
白人の男性が自殺して、死体がここまで見つからないのはおかしい。
誰かが、死体を隠したと考えるべきだろう。
では、誰が隠したのか?
やはり、当時の学校関係者とみるべきだろう。
自殺の死体を隠すにしろ、殺人を犯すにしろ、人間関係がなければ、そんなことはしない。
では、学校内のどこで死んだのか?
ノートを読むと、もっとも、放送部の人たちがもっとも怪しんだが、聖堂の天井にある現在でも開かずの間になっている部屋と同じく聖堂の地下にある納骨堂。
もともとは、どちらも大昔からカギをなくしたという理由で、開かずの間になっている。
文化財指定になっているため、無理やり開けるの避けてきたというが、本当のところは判らない。
やっぱり、調べてみるべきだ。
それにしても、殺人とか、こんな推論が出ると、さすがに公表するのは困難だろうな。
下手に公表すれば、放送部が廃部になる可能性すらある。
それだけではなく、本来ならエスカレーターで進級できる大学進学も危なくなる。
先輩たちが、調査を止める気持ちも判る。