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第5話 深淵

 家に帰ると、宿題のことは忘れて、さっそく、図書室にあった吸血鬼に関する本を読み始めた。

 本には吸血鬼に関するさまざまなことが書いてあった。

 吸血鬼とはどんなものなのか。吸血鬼の歴史やエリザベートなどの歴史上吸血鬼と言われた人物。

 どうなったら、吸血鬼になるかなど。


 しかし、書いてある内容は、本によってだいぶ違う。

 ヴァン・ヘルシング教授の研究によれば、一般的な吸血鬼の眷属に見られる特徴とは、次のようなものだった。

・不死

・吸血鬼を殖やす

・飛行

・怪力

・催眠で、人間を罠にかけたり、混乱させたりできる。

・身体の大きさや体積を変える

・元素を支配して、風や雨、その他の自然の力を操る。

・昆虫、鼠、梟、蝙蝠、狐、狼などを操れる。

・蝙蝠、犬、狼、蝶、鼠、蝗などに変身できる。

・影が無く、鏡に映らない

・はじめて家に入るときは、その家の住人の許可が無くては入れない

・太陽が昇ると、魔力が効かなくなる。

・ゆるい水の流れや、潮の流れの中もスイスイ通れる

・十字架とニンニクが苦手


 ある本では、水が苦手とあるのに、ヴァン・ヘルシング教授の研究によると関係ないらしい。

 それにしても、住人の許可がないと入れないとは笑える、ある種ドロボウ以下だ。


 もっとも気になったのは当然、吸血鬼の倒した方。

 十字架やニンニクが苦手と書かれていることが多いけど、信仰心がないと十字架は効果ないとの説がある。

 毎日礼拝しているし、週に一回は賛美歌を歌っているけど、正直私の信仰心は非常に怪しい。十字架は効果ないかもしれない。

 太陽の光で倒せるという話もあれば、魔力がなくなるだけとの話もある。


 私は本を読んでいるうちに、ある一冊の本に小さな紙が挟まっているのに気がついた。

 特に折られてるわけではなく、そのまま、本の中頃のページに漫然と挟まっていた。


 小さな紙には、六芒星とその図の下に文字が書かれていた。

 そこには次のように書いてあった。

「Sis aeternus aetate et forma sanguinem pro me.」


 英語ではない外国語だ。とりあえず、google先生の翻訳機能を使ってみた。

 どうやら、ラテン語のようだ。

 そして意味は。


「永遠の若さと美しさが欲しければ、我に血をささげよ」


 永遠の若さと美しさ。これは吸血鬼かその眷属になれば、手に入れることが出来る。

 血をささげるとは、噂のことを考えると、リストカットをしろということなのだろう。

 つまり、永遠の若さと美しさ欲するために仲間になりたければ、リストカットをしろということなのだろう。

 

 冗談じゃない。そんなことをしてたまりますか。


 吸血鬼関連の本に入っていたということは、悪質な悪戯なのだろうか。それとも吸血鬼信者による勧誘なのだろうか。


 このような紙が、この本一冊だけではなく、他の本にもあるのではないだろうか。

 もしかしたら、近頃学校でリストカットが流行っている原因は、これなのだろうか。

 単純に、吸血鬼に襲われているのではなく、吸血鬼に魅入られ、永遠の若さと美しさを得るために、積極的に吸血鬼に血をささげているのだろうか。

 そう思うと、リストカットする人たちは、吸血鬼の被害者ではない。

 吸血鬼に魅入らた吸血鬼の信者だ。

 図書委員の倉田先輩は、倉田先輩はこのことを言っていたのだろうか。

 一体この学校には、何人の吸血鬼の信者が居るのだろうか。私は初めて、自分のやっていることが怖くなってきた。



 ロッカーに入っていた手紙も意味が分からなかったけど、何か特別な意味があるのではないだろうか。

 私の頭では、判らなかったので、私よりも頭が良くて国語が出来る早乙女愛に電話をかけ尋ねることにした。


「ねぁ、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているって言葉の意味知ってる」

「たしか、ニーチェの言葉よね」

「ニーチェって、誰」

「超人思想を提唱した昔の偉い哲学者のオッサンよ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているって言葉は、そのえらいオッサンが言った言葉よ。漫画と小説でも良く出て来る言葉よ」

 早乙女は、漫画や小説に出て来ると言うけど、私は聞いたことがない。早乙女が読む漫画や小説と私が読むのとはだいぶ違いそうだ。

「それで、どういう意味なの」

「その訳で説明するのは難しいわね」

「訳?」

「もともと、ドイツ語だからいろんな訳があるのよ。深淵は深い穴とかの意味だけど、破滅の淵とか地獄とか解釈したほうが良いのよ。つまり、あなたが地獄をのぞくとき、地獄もあなたを見ているってことかな。判った?」

「なんとなく・・・・」

「絶対わかってないな。あやめが私を見えるってことは、私もあやめが見えるってこと。あなたが地獄をのぞくということは、地獄の方からあなたを見ている人が居るかもしれないでしょ。もっとも、これは本当の意味とはちょっと違うけどね」

「なんとなく判ったありがとう」

「本当?」

「大丈夫。話は変わるけど、愛って、以前怪物に教わる夢を見たことがあるっていたよね。その怪物って吸血鬼」

「そんなカッコいいものじゃないよ。気持ちが悪い首なしの怪物や手足のない怪物」

「そうなんだ。判った。お礼に、今度、何か奢るね」

 そう言って、私は電話を切った。

 ニーチェが何を言っているかは判らなかったけど、手紙の意味は分かった気がする。

 私が吸血鬼に近づくということは、吸血鬼も私に近づくということだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ちなみの奴。本当に意味が分かったのかな」

 ちなみは、あまり国語が得意ではない。むしろ苦手な方だった。

 そのため、自分の言った言葉の半分も理解していないのではないかと、早乙女は心配した。

 そもそも、ちなみが聞いてきた文章自身がおかしい。


 ちなみは、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている」という言葉の意味を聞いて来たけど、その言葉には前文があるのだ。

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない」

 ちなみの言っていたのは、補足の説明文で、むしろ、こっちの方が本題ではないだろうか。


 それにしても、ちなみが、こんな言葉を調べるなんて、何が起きたんだろう。


 まさか、怪物と戦うつもりなのだろうか。

 近頃、話題の怪物と言えば、吸血鬼だ。ちなみも吸血鬼に関心を持っていたけど、もしかして、ちなみは吸血鬼退治でもするつもりなのだろうか。

 そんなわけないよな。


 そう言えば、国語の宿題は明治時代の文豪であって、日本のとは書いてなかったな。

 まさか、ちなみはニーチェの本を読む気なのだろうか。

 それは、ありえないな。絶対。



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