第3話 図書室
明治時代の文豪の小説を3冊以上読んで、5枚以上の感想文を書き、3週間以内に提出しなさい。
それが、今日の国語で出された宿題だった。
宿題多すぎだよ。と思うけど文句を言ったところでなくわけではない。むしろ、後に回すと本がなくなるなどして書くことが難しくなる。
私は、その日の放課後、直ぐに図書室へと向かった。
放課後の図書室には、8人ほどの生徒が居た。
1人が図書委員で、残りは一般の生徒。合同で宿題をする勉強部屋として使っている生徒も何人かいる。
図書室は歴史があるだけあって、蔵書数も他の高校とは比較にならないほど多い。
ジャンルはさすがに漫画こそないが、多彩だ。
さらに100年以上前の本すらも置いてある。初版本も多く、売れば一冊数十万円にはなる本もあるとの噂だ。
明治時代の文豪というと、著名なのが夏目漱石や与謝野晶子、太宰治などなど数多くいらっしゃる。
読みやすいのは、やはり夏目漱石あたりだろうか。
どれ読みやすそうか、感想文が書き易そうか、本をでいろいろと物色する。
本棚で本を探していると、ふと、西村京子のことが思い出された。
西村京子は、どんな本を読んでいたのだろうか。
「吸血鬼ドラキュラ」は有名なので覚えているが、他のものは良く覚えていない。
「スラブ」とか「黒魔術」とか、そんな感じだったと思う。
正確には思い出せないがとりあえず、吸血鬼に、魔術、そんな感じだ。
それなりに大きさのある本だったので、あれらの本は学校の図書室で借りたのではないだろうか。
図書室に居る図書委員に聞いてみることにした。
図書委員の女の子は、眼鏡に三つ編みと見るからに、まじめ図書委員という感じだった。胸の名札を見ると倉田真須美、3年生とある。
「すいません。西村京子さんが、借りていた本って、判りますか」
「図書館の規則で、他人がどんな本を借りていたかを教えることはできませんよ」
「そうですか。そうですよね。プライバシーですものね。ありがとうございます。」
「なぜ、そんなことを聞くの」
「以前、彼女に会った時、彼女、吸血鬼と魔術とか、そんな感じ関係の本を持っていたから、興味を持って」
「そう。彼女に関する噂知っている?」
「吸血鬼に襲われたって奴ですか」
「そういう噂もあるわね。だから、吸血鬼について調べようと思ったの?」
「ただ何となく気になっただけで・・・深い意味はありません」
「そうなんだ。実のところ、近頃、噂のおかげで吸血鬼関係の本を探している人多いのよね」
「そうなんですか」
確かに、これだけ噂になっているのだから調べている女生徒も多いだろう。
「そうなのよ。吸血鬼に関する本がある棚は、あそこの神話や伝承のところね。ここの学校は吸血鬼の伝説があるだけあって、興味を持つ生徒も多くてね。下手な本屋や図書館よりも書籍が充実してるわよ」
棚に来ると、確かに充実している。吸血鬼と言うだけでも20冊はあるだろうか。伝承や伝説を含めると60冊以上あるのではないだろうか。
貸しだされている本もあるはずだから、実際はもっとあるのだろう。どんだけ皆、吸血鬼好きなんだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇
私が本を立ち読みしていると、図書委員の倉田先輩の方から声をかけてきた。
「吸血鬼って、他の怪物と違ってロマンがありますよね」
確かに、吸血鬼にはロマンを感じる。
吸血鬼は美女を好むと言うが、女性も美形の吸血鬼が好きだ。
他の怪物みたいに単純に命を奪うのではなく、血を吸うというのがポイントだろう。命を取られるわけではないので、末長いお付き合いが可能だ。
襲われました、ハイお終いですので、他の怪物とは違うよな。
吸血鬼も長い間生きているので、知性もあり、大人の魅力もあるし、金もある。美形なら言うことなしだ。
そのため、古くは、漫画の「ポー○族」「ときめきトゥナイト」など、吸血鬼を恋愛の対象としてみる傾向がある。
海外でも「トワイライト」という人気小説がある。
女性向けの吸血鬼は、美形でセクシーと映画でも漫画でも決まっている。「ヴァンヘルシン○」の吸血鬼は美形ではなくがっかりしたけど。
「倉田先輩は、吸血鬼のこと好きなんですか?」
「好きよ。だって、美形で素敵じゃない。それに、お姫様に選ばれれば、永遠の若さと美しさが手に入るのよ」
「永遠の若さと美しさですか」
さらに、吸血鬼に選ばれ、眷属になれば、永遠の若さ、美しさが与えられる。
「その代わり人間じゃなくなっちゃうんですよ」
「いいじゃない。人間じゃなくても」
倉田先輩はさらっと言った。この人には人間じゃなくなることへの恐れがないのだろうか。