第2話 掃除当番
今週、澤田たちは聖堂の掃除当番だった。
この学校は、敷地が広く緑も多く良い環境の学校だ。
設立された100年前は、ただの農村だったんだろうけど、今はすっかりビルに囲まれている。現代の都内でこれだけの土地を持つのは不可能だろう。
この点は、さすが伝統校だと思う。
その点は良いのだが、結果、難点も多い。
なにより日々の清掃が大変なのだ。
敷地が広いうえに、美しい緑は秋になると大量の落ち葉になる。
また、聖堂は、美術品のように細工をしているものが多く、雑にはできない。
時間と手間がかかる。
そして、今の時期は良いのだけど、冬が強烈に寒い。石造りの上に暖房を入れることがまずない。聖堂は広く天井が高いため、容易には暖まらないし、お金もかかるのだ。そのため、少人数、短時間の清掃などで暖房を入れることはないのだ。
放課後、掃除のために、小村かおり、早乙女愛と一緒に、両手に清掃道具をいっぱい持ち、聖堂に向かっていた。
聖堂に汚いものは置けないということで、わざわざ別の建物から持って来ないといけないのだ。
そして、清掃道具にも善し悪しがあり、当然良い道具程、掃除も早く終わる。
そのため、私たちは、いつも一番早く行き、一番最初に終わらせることにしていた。
清掃道具を持ちながら聖堂に向かう廊下を歩いていると、突然、少女が聖堂から飛び出してきた。
その少女は、ほとんど、前方を見ておらず、背後ばかり気にしており、先頭を歩いていた私と小村かおりにぶつかった。
掃除道具は飛び散り、少女は手にしたいた本やノートを落とし、床に尻もちをつく。
どこかで見たことがある子だな。
そうだ、たぶん放送部の子だ。朝礼とかで、マイクの準備をしていた姿を見たことがある。
「すいません」
それだけ言うと、謝罪も中途半端のまま、少女は急いで本を拾う。
落ちた本を見ると、「吸血鬼ドラキュラ」「吸血鬼の辞典」「吸血鬼伝説の系譜」「黒魔術大辞典」「スラブの伝承」など全て魔術や吸血鬼関連の本。
そして、やはり背後ばかり気にしている。
『何をそんなに焦っているのだろうか?』
吸血鬼にでも、追われているのか?などと考えてしまう。
少女は、急いで本を拾うと、本を抱えて、また駆けて行った。
「何をあんなに焦っているんでしょうね」と早乙女愛。
「知らないわよ。あっちからぶつかったのに、失礼な奴だな」
小村が床に散らばった石鹸やバケツなどの清掃道具を拾いながら、不満を言った。
聖堂の中を見ても、誰も居ないし、特におかしい点もなかった。
一体彼女は、何を気にしていたのだろうか。この時の私には、さっぱり判らなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
数日後、学校に来ると聖堂でぶつかった少女の話題で持ちきりだった。
「あやめ、知っている? 一年生の子が、吸血鬼に襲われたって、入院したって話」
教室に着くと、小村が声をかけて来た。
「知ってる。昨日、夜メールで聞いた」
「なんだ、つまらない」
少女の名前は、西村京子。やっぱり、放送部の一年生だった。
その彼女が体調を壊し長期の休みを取ったとの噂話だ。
体調を壊し長期の休み。本当だろうか。行方不明との別の噂もある。
吸血鬼が関係あるのだろうか。
彼女が、聖堂から慌てて飛び出してきたのと何か関係あるのだろうか。
彼女は吸血鬼に関する大量の本を持っていたけど、吸血鬼について調べているとしたら、それは放送部の部活の活動として調べている可能性が高い。
そして、調べた結果を発表するつもりだったのではないだろうか。