第1話 澤田 あやめ
私の名前は、澤田あやめ。
都心にあるミッション系の名門女子校に通っている高校2年生。
なぜ、そんな学校に通っているかと言うと、単に母親がそこ出身で強く勧められたから。制服が可愛いのも多少はあるけど、子供の頃から話を聞かされていて、ここ以外の学生生活のイメージがそもそもなかった。
そして、そこに通うだけの財力があったから。
私の家は、お嬢様という程ではないが、そこそこ裕福な家庭だった。
そして、学校は俗に言うお嬢様学校として社会的には認識されている。
学校は歴史がある名門だけあって、庭も広く、校舎も古い。
どのくらい広いかと言うと、近所の人たちが散歩や犬の散歩に来るくらい広い。
そして、校舎も都の歴史的建造物に指定されている程、歴史ある洋館風のものだ。
もっとも、建物だけではなく、人の頭も古い。教育方針は、いまだに良妻賢母の育成だ。保護者も生徒の一部も、それが良いと思っているし、当然とも思っている。
校内の美しい聖堂で行われる教頭の長い朝礼。
鮮やかなステンドガラスを通して、聖堂内を照らす美しい七色の幻想的な朝の陽ざし。
七色の光の中で話す黒衣のシスターでもある教頭の姿は美しいが、話は長くて退屈。
生徒思いの悪い先生じゃないだけどね。
「現在、若い人の間で、リストカットなるものが流行っています。非常に愚かな行為です。わが校の生徒の中にも、既に数名・・・」
長い話が続く。
リストカットに関して、注意するのは正しいと思うのだが、話が要領を得ない。
「島田のリストバンド。まさか、リストカット隠しているんじゃないよね」と暇を持て余した私は隣の島田にちょっかいをかける。
「そんなわけないでしょ。リストウエイトよ。昔からしているじゃない。前見ていないと後で怒られるよ」
いったい何人が、この話を聞いているのだろうか。
暇で暇でしょうがない。
「体調不良により、学校で倒れる生徒、休む生徒が増えています。ダイエットや夜更かしなど生活の乱れが原因です」
倒れる生徒を減らしたいなら、長い朝礼を短くしてほしい。先生の長い話のせいで、倒れ子が毎回、居るんだから。
対して、先生は60歳の後半のはずなのに元気で見た目も10歳は若い。その点は尊敬に値する。
教頭は、生活の乱れが原因だと言うけど、別の噂がある。
吸血鬼が現れて、女の子を襲うという噂だ。
事実、貧血で倒れる少女や学校を休む少女が多い。
リストカットする子は、当然貧血だけど。
また、休んでいるという話の子は行方不明と言う説もある。
学校が嘘をついて、体調不良と言っているのだ。
この噂を荒唐無稽と言うのは、簡単だ。
しかし、この学校には、昔から吸血鬼の伝説がある。それが妙に噂に信憑性を与える。
歴史が古く、ミッション系、洋館の校舎、女子校など、非常に西洋的な雰囲気が、ドラキュラが合うのだろう。
逆に、普通の学校でドラキュラ伝説を作ったとしても、雰囲気が合わず白けるだけだろう。
吸血鬼が日本に居るとしたら、この学校以上に相応しいところはないではないだろうか?
もちろん、それだけではない。
この学校は、ミッション系、つまり宗教系の学校であり、生徒も先生も、平均的な日本人よりも信仰心が厚い人が多い。
神や天使の存在、キリストの奇跡を信じている人が多いのだ。
聖書の記載を信じて、神が存在して、天使が存在し、キリストの奇跡があるとすれば、当然、悪魔も存在していていると信じている。とうぜん、吸血鬼が存在していてもおかしくない。
物理的に証明しているわけではないのに、皮肉なことに、信心深い結果、悪魔や吸血鬼の存在を信じてしまっている人も多い。
それが、この学校の独特な校風を作り出し、吸血鬼の伝説に奇妙な雰囲気を与えている。
肝心の吸血鬼の伝説自身は、凄く単純な話だ。
私は入学当初にした友人たちとの過去の会話を思い出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「この学校には、吸血鬼の伝説があるのよ」
噂好きな少女、小村かおりは、近頃知った面白い(?)話を澤田に話そうと待ち構えていた。
「ミッション系で、学校内に教会があるのに、何でそんな邪悪なものが居るの」
仏教でもそうだが、教義では、お寺、教会、墓地は聖なる場所であり、悪霊とかがもっとも苦手な場所であるはずだ。
しかし、頭では判っているが、夜の教会、寺は怖いし、墓地は幽霊が出そうで怖い。
それは、お葬式が行われたり、死者が埋葬されていたりと死と関連して居る場所だからだろう。
そして、夜の学校も怖い。生徒たちで賑やかな日中とはうって変わっての夜の無人の学校はかなり怖い。
その二つが合体した、この学校の夜が怖くないはずがない。
「吸血鬼の伝説は、外国から来た魅力的な神父が来ることから始まるの」
この神父、実は悪魔に魂を売っていて、夜になると、学校内で生徒を生贄にした黒ミサをやっていたらしい。
「でも、結局は学校にばれて、退治されて、この学校のどこかに封印されているらしいだけど・・・」
「学校に封印ってことは、この学校のどこかに吸血鬼がいるってこと」
澤田は俄然興味が出てきた。
「そういうこと。今度探してみようよ」
「辞めましょうよ。怖いですし、第一、意味ないですよ」と側にいた早乙女愛が少し脅えながら言った。。
「早乙女は怖がりだな。意味ならちゃんとあるよ。吸血鬼の乙女に選ばれれば、永遠の若さと美しさが手に入るんだ」
「永遠の若さと美しさか。それはちょっと惹かれちゃうかな」
もしそんなものが手に入るのであれば、多少の危険があったとしても多くの少女、いや女性が求めるのではないだろうか。
「もっとも、封印されている場所は誰にも判らないらしいけど」
恐らく、過去にも何人もの生徒が、この噂を確かめようとしたんだろうな。
「そういう噂って、元になる事件があるじゃないの。火のないところに煙は立たないっていうやつ」
「学校の知られたくない暗部、黒歴史ってやつね。だいたい予想がつくな」
「どんな話? 教えてよ」と小村かおり。
島田まなは、自分の考えた物語を皆に語った。
「昔々、異国から神父が来てわけだ。そして、その神父は、聖職者の身でありながら、若い女の子の魅力に負けて、女の子に手を出しまくったわけだ。一部の父兄にばれて、学校は大問題になる前に、突然神父に帰国を命じたわけだな。要するに、外国人神父が女子生徒を魅了するが、吸血鬼が悪の道に誘うになったんだろうな。悪魔の儀式や生贄は・・・あの儀式が変化したものだな。血が出るのと血を吸うので一致するし」
まぁ、聖職者が生殖者や性欲者になってしまうパターンだな。この学校に若い男性の教師が居ないのは、そのためだろう。
「そうですよね。あれも立派な儀式ですものね」と早乙女愛。
「神と結婚して、H出来ないシスターから見れば、悪の道への誘いか・・・楽しいのに」
すでに済ませてしまった、小村かおりの余裕の発言だ。
こうして、この学校の吸血伝説も、他の学校の伝説と同様、先輩から後輩へ、憶測混じりで伝わっていくのだろう。




