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第11話 宴

 なぜ、自分は、夜、学校の教室に居るのだろうか?

 家に帰ったはずなのに。


 島田が言っていた夢の内容を思い出した。

 これが、その悪夢なのだろうか。


 外の方が明るい。


 窓からのぞくと、松明を持ち、全身を黒いローブで覆った人たちが、聖堂へ集り、中へと入っていく。

 おそらく、彼らが信者だろう。

 仮面舞踏会で使うような目などの顔の上半分のみを覆うヴェネツィアマスク(ドミノマスク)を付けているため、どんな人物たちかは判らない。

 しかし、身長や髪型から若い女性であることが判る。

 何人いるのだろうか、次々と聖堂に集まってくるので、正確な人数は判らない。


 そして、7人の白いローブを被った人が居た。

 彼女たちは、両手をロープで縛られ、黒いローブの人に連れられて来ているようだった。

 彼女たちはマスクを付けていないため、松明の明かりに照らされて、顔を見ることが出来た。

 皆、うつろな表情をしている。

 何人か見覚えがある人物が居た。この学校の生徒だ。

 そして、良く見覚えのある顔があった。


 松明の明かりに照らされて、見えた顔は・・・島田まなだった。

 

 夢の通りであれば、彼女は、これから吸血鬼に生贄として捧げられるのだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 怖い!!

 私は、走って、逃げ出した。


 私は、友達を見捨てた。

 島田まなが生贄にされるのを知っていながら、教室から逃げた。

 でも、しょうがないじゃない。

 吸血鬼相手に、私が何が出来るの。信仰心もない私に。


 聖堂の反対側へ逃げた。学校の柵を越え、少しでも学校から遠くへ。

 私は必死に走った。

 しかし、そんなに甘くなかった。

 学校の外に出ると、外には、早乙女が以前、夢に出てきたと言っていた首なしの怪物や手足のない怪物が徘徊していた。


 逃げられない!!


 私の心中を絶望の闇が覆った。


 見つかったどうしよう。

 島田のように生贄にされ、血を吸い取られるのだろうか。

 それとも、殺されるのだろうか。


 そんなことを考えていると、突如、背後から獣の呻き声が聞こえた。

 振り向くと、そこには馬のように巨大なオオカミと、赤い目の女の姿あった。


 首にかけてある十字架を見せるが、効果はない。

「そんな偽りの信仰心で効くわけないでしょ」


 襲いかかってくるオオカミと女。

 私は、念のために持っていた聖水が入っている瓶を女に投げつけた。

 女に当たり、瓶が割れ、聖水が女にかかる。


「ギャー」と悲鳴を上げる女。

 水にぬれた胸から煙が上がる。聖水は効いているようだ。

 

 だが、それは女を凶暴にさせただけだった。

 私は抵抗も空しく、彼女に捕まってしまった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 全ての信者たちが、聖堂に入り、宴が始まった。

 蝋燭と松明の炎で照らされる、それは、まさに狂気の宴。

 

 聖なる祭壇の前には吸血鬼たちが居て、生贄の少女たちの血をすすり、体をむさぼり合っていた。

 その周囲では、信者たちも、裸になり、お互いの体に傷を付け、血を吸いあい、体をむさぼり合っていた。


 そして、7人の少女が生きながらにして、聖堂の壁に架けられた十字架に磔にされ、血を抜かれていた。

 その中には、西村さんの姿があった。

 西村さんだけではなく、学校を長期に休んでいる生徒たちの姿もあった。


 血は十字架を伝い滴り落ち、床には、血を受けるための杯が置かれていた。

 そして、その杯は、いっぱいになると祭壇の前に居る吸血鬼へと捧げられた。


 私は、祭壇のキリスト像の代わりに十字架に縛られ、一部始終を見させられていた。


「どうだい。宴は。楽しんでるかい」


 唯一の男である吸血鬼は立ち上がり、私の側に迫ってくると甘い魅惑的な声で私に語りかけてきた。

 線が細い中性的な魅力の美青年。透き通るような白い肌と対照的な赤い瞳。

 ボディラインこそ細いが、引き締まった筋肉質の体。

 この男の吸血鬼が、始祖なのだろうか。


「君は、私について調べていたんだよね。

 私に会えて嬉しいかい。

 私は君みたいな女性が好きなんだ。元気で好奇心が強くて活動的な女性が。

 君には、いくつかの選択肢があったんだ。眷属になるもよし。信者になるもよし。

 君の友達の島田さんのように生贄になり快楽を楽しむ選択肢もあった。

 でも、君は最悪の選択をした。君には生贄になってもらう。だけど、快楽はない」


 そう言っては、男は私の首筋に噛みついた。

 私の意識はどんどん遠くなって行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 目が覚めると私は終わらない悪夢の中に居た。


 場所は儀式が行われていた聖堂。

 目の前では、西村さんが、聖堂の壁に架けられた十字架に磔にされている。

 私は、今彼女と同じ状態だ。

 十字架に貼り付けられ、手足、胸には釘が打ちつけられている。

 そして、流れ出る血は、杯で集められ、夜、吸血鬼たちへの供物とされるのだろう。


 私は、以前見た彼女たちと同じ、生きた血液工場だ。


 だが、私と彼女たちでは待遇が違う。

 快楽がないのだ。

 あるのはただただ苦痛と痛みだけ。


 しかも、何分かに一回、傷口が癒着して血の出が悪くなった時、血を出やすくするために、蝙蝠の怪物どもがわざわざ傷口を開きに来るのだ。その度に私は耐え難いほどの激痛に見舞われた。

 それを見て、吸血鬼の男は苦渋の表情を浮かべる。


「可哀相な澤田。なぜ人間を選んだ。痛みや苦痛、後悔こそが人間ではないか」


 なぜ、自分は生きているのだろうか。

 いっそ、死んだ方が楽なのだが、死ぬことすらできない。

 自殺をしたくても、拘束具をつけられ舌を噛み切ることすらできない。

 ただ、血を作るためだけに生きている。

 そして、私は後悔していた。なぜ人間であることを選んでしまったのだろうか。私以外の生贄は苦痛を感じず、快楽に恍惚とした表情を浮かべている。悔やんでも悔やみきれない。

 死ねないのであれば、いっそ気が狂ってしまいたい。

 何も感じたくない。屍になりたい。


 いつまで続くのだろうか?

 この悪夢に終わりがあるのだろうか。


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