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第10話 懺悔

 私は聖堂で、祭壇の前に膝まづき、神に祈った。

 

 今まで、私は何回、この場所で神様に祈っただろうか。

 それこそ、何百回と祈った。

 しかし、私は神様の存在を信じていなかった。

 ただ、周りに合わせて、ただ単に祈っていただけだ。信仰心はなかった。


 私は、ズルイ女だ。

 いままで、神様の存在を信じていなかったのに、都合のいい時だけ、神様にお願いしている。

 こんな私に神様が力を貸してくれるのだろうか。


 ある本には、「信仰心を持たない者が十字架を持っても無駄」とあった。

 私が十字架を持っても無駄なのではないだろうか。

 私は目の前の十字架に架けられたキリスト像を見上げた。

 神様もキリスト様も何も答えてくれない。

 私は神様に見捨てられているのだろうか。


 気が付くと、体育教師の柳田が側に立っていた。

 いつもは体育教師らしく上下ジャージなのに、今はシスターのカッコをしていた。まるで、別人のような印象だ。

「私が来たのに、気が付かないなんて、よっぽど真剣にお祈りしていたのね。何を神様に祈っているのかしら」

「・・・」

「私は、神父様じゃないので、懺悔を聞くことは出来ないけど、先生だから生徒の悩みを聞くことぐらいは出来るわよ」

「柳田先生」

 澤田は柳田に泣きつき、事と次第を全て柳田先生に話した。


「吸血鬼・・・」

「先生は私の話を信じてくれるんですか」

「当然、信じるわ。教頭とか、他の先生は信じてないけど、私は信じるわ。神様が居るんですもの、悪魔が居ても、吸血鬼が居てもおかしくないものね。教頭たちは日頃は神を信じろだの、信仰だの言っているくせに、悪魔や吸血鬼を信じないなんて、変な話よね。ちゃんと聖書に乗っているのに・・・」

 どうやら、柳田先生は私の言うことに口を合わせているだけではなく、本当に信じてくれたようだ。

 私は、それが嬉しかった。

 図書委員の倉田先輩は、信じてくれる大人なんて居ないって言ったけどね。ちゃんと居るのだ。しかも、こんな身近に、私はそれだけで救われる思いがした。


「私どうすれば、いいのでしょうか」

「澤田さん。今まで神様にちゃんと毎日祈っていた?」

「祈っていませんでした」

「駄目ねぇ。吸血鬼が十字架を恐れるのは、十字架を持つ者が信仰心をもっている場合だけ。真の信仰心を持たない者が十字架を持っても無駄。でも、この日本に、本当の信仰心を持つ人が何人いるかしら」

 確かにその通りだ。吸血鬼相手に偽りの信仰心なんて通用しないだろう。

 しかし、神の存在に心の底から一切の疑問を持たない人間なんて本当に居るのだろうか。

 それこそ、幼い頃から物心がつく前にキリスト教の教えで育ったキリスト教圏の人か、狂信者じゃないと無理なのではないだろうか。

「柳田先生は、駄目なんですか?」

「私も駄目よ。信仰心が足りないから。私が毎日祈っても、神様の声は聞こえなかった。神様の存在を信じ切れなかったのね。私は神の存在を信じ、神の奇跡を信じていたつもりだけだったのよ。イエス様の救済を信じているつもりだけだった。心からの振興じゃなかった。それじゃ、駄目だったのよね」


 なぜ、柳田先生は、過去形で物事を語っているのだろうか。

 私の心の中に不安が過ぎった。


「でも、今は神様の存在を信じているんですよね」

「えぇ、信じているわ。そして、信じている理由はあなたと同じ。吸血鬼の存在を信じているから、神様の存在を信じられるのよ」


 柳田先生の手首を見た。

 大きな腕時計をしているのは、前から知っていたけど、まさかこれはリストカットの跡を隠すために着けているのでは。

「そんな、柳田先生。嘘でしょ」

「ようやく気が付いた。でも、私は、島田まなのような生贄ではないわ」

 柳田は妖しい微笑みを浮かべた。

「あなたも、どう?私たちの仲間にならない。この世では味わえない。素晴らしい快楽が得られるわよ」と柳田先生は笑顔で手を差し伸べてきた。


 もし、この差し伸べられた手を取るったら、どうなるのだろうか。

 おそらく、今の恐怖から解放されるだろう。それどころか、いままで味わったことがない快楽を得られるのかもしれない。

 でも・・・でも・・・私は・・・人間を辞めたくなかった。

 弱くても、ズルくても人間を辞めたくなった。


 澤口あやめは、柳田の手を振り払うと、外へと駆けだした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 学校の人間は、誰も信用できない。

 今の私にあるのは、十字架と昼間、念のために媚に詰めて置いた聖水だけ。


 私は、ネットに助けを求めた。

 私は、さまざまなサイトに書いてみた。

 反応はあるが、ほとんどは私を病人扱いしたものか、自称霊能力者たちのものだ。

 居るはずなんだ。

 吸血鬼が居るなら、怪物を倒す人たちも居るはずなんだ。

 そして、いつの間にか、寝入ってしまった。



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