第9話 島田まな
二日後の体育の授業中、澤田の友人、島田まながウォーミングアップのランニング中、突然倒れた。
運動不足や不健康な人間ならともかく、体育会系で健康優良児の島田が倒れたのは予想外だった。
「大丈夫です」
島田は気丈に答えるが、顔色はいつも程血色が良くない。
「駄目よ。無理しちゃ」と体育教員で島田が所属しているテニス部顧問の柳田みゆき。
「でも・・・」
「澤田さん。早乙女さん。島田を保健室に連れて行って」
私は付き添いとして、島田を保健室に連れて行った。
「澤田さん、早乙女さん。もう良いわ。ありがとう」
島田をベットに寝かせると、保険の先生の高橋恵は、私たちを授業に返した。
いや、追い出したということだろうか。
「島田さん。リストバンドを外して」
高橋先生は、島田の側のイスに座ると、島田にリスバンドを外すように迫った。
「でも・・・」
「みゆき先生には内緒にしておくから」
島田はしぶしぶリストバンドを外した。
腕を見るとリストカットの跡。
「何か悩み事でもあるの」
「それが、リストカットをした記憶はないんです。朝起きると手首が切れて血が出ていたり、学校に居る時に突然血が出てきたり。訳が判らないんです」と涙ながらに語る。
「判ったは、そのことは後で、ゆっくりと話しあいましょう。とりあえず、今はベットで休みましょう」
世の中には恍惚感を得るために、リストカットする人もいるが、リストカットは背後に精神病が関係している場合がある。
その場合、本人は何も考えない、感じない状態で切ってしまっていることがある。
そのため、本人が無意識に切ってしまっている可能性や、切ったことを忘れている可能性は十分にある。
そんなときに、下手に相手を非難することは危険だ。
自分は専門医ではないので、治療はできないが、話を聞くぐらいはできる。
それにしても、テニス部で毎日遅くまで練習している、島田さんまで、リストカットをするは意外だった。
いったり、どれだけ広がっているだろうか?
保健室の外で、澤田と早乙女は聞き耳を立てていた。
本来は、このようなことはすべきではないのだが、妙に気になったのだ。
月のもので、貧血になるなら判るが、まさかリストカットとは。
島田はファッションでリストカットをするような人間ではない。
深刻な悩みも思い出せない。
私たちに言えない深刻な悩みがあったのだろうか。
それとも、吸血鬼なのだろうか・・・
◇ ◇ ◇ ◇
昼休み、保健室に、早乙女と共に見舞いに行った。
「澤田も早乙女も、外で聞いてたんでしょ」
「ごめん」
「いいのよ。もう、隠すことじゃないわね」
島田は淡々と話した。
「私、近頃、毎晩、変な夢を見るの。
最初はどんな夢かよく判らなかったけど。近頃は少し覚えているわ。
夜、気が付くと学校の聖堂で開かれている吸血鬼と信者たちの宴に参加しているのよ。
信者たちはたがいに血を吸いあうけど、私は、吸血鬼に捧げられる生贄の1人。
男を知らぬ純白の処女の生き血と肉体こそが、吸血鬼に捧げられる最高の供物らしいの。
そこで私たちは、手首を切り、吸血鬼たちに血をささげるの。
手首を切っても痛みはなくて、吸血鬼が傷口から血をすすると・・・
気持ち良いのよ。
今まで感じたことがない快楽、恍惚感を感じるの。
そして、夢から覚めると、手首に傷があるの」
島田は、リストバンドを外し、手首の傷を見せた。
「何が恐ろしいって・・・最初は怖かったけど。近頃は、徐々に楽しみに変っているのよ。早乙女は、以前悪夢を見た時、男の人に助けてもらったって言ったわよね」
「えぇ。顔は覚えていないけど、男の人に助けてもらったわ」
「でも、私の夢には、そんな人は出てこないのよ」
◇ ◇ ◇ ◇
島田は自分でリストカットするような人間ではない。
自分は、遊び半分で、ものすごく恐ろしいことに手を出してしまったのではないだろうか。
私は、どこか他人事に物事を考えていたのではないだろうか。
自分は西村さんのようにはならないと、思っていたのではないだろうか。
今日、島田の告白を聞いて、吸血鬼の脅威が、直ぐ、そこまで来てていたことを知った。
その途端、無性に怖くなった。
図書館で倉田先輩に言われた言葉が頭をよぎる。
「警察に話しても無駄。霊能力者に話しても無駄よ。誰も助けてはくれないわ」
助けを求めた子は、結局救われなかった。
島田も言っていた。
誰も救いに来ない。




