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避難所13



 階上で花火にも似た音が鳴り響いた。

 誰しも驚いたように頭上を見上げ、その結果を想像して俯いた。

「落ち込むのは後だ。まだ終わってない」


 落ち込んでいく空気を最初に破ったのは優だ。

「車が出て、下にもゾンビが入っている――まあ、それを追いかけて行った奴もいるが、相当数のゾンビが待ち構えていると思っていい。鈴さん」

 投げた鍵を、滝口鈴は手にして優を見る。


 その表情は真剣で、鍵の意味を理解して頷いた。

「わかったわ」

「ええ、エレベータが下に着いたら、車まで走ります。浜崎と秋峰は、鈴さんを守って先頭を――立花さんは右を、俺は左につきます。滝口は後ろだ、他の人は限界でも走ってください。彼の意志を無駄にはしないでください」


 かけられる言葉に、誰もが頷いた。

 ここで捕まれば、全てが台無しだ。

 疲れた、痛いなど言っていられる場合でない事を誰もが理解していた。

「これを――」


 立花から渡されたのは、山野が使っていた自動小銃だ。

 切れた弾の装填を行い、渡されたそれを優は滝口に渡した。

 まさかこんなものをもつ日が来るとは思わなかったと苦笑し、手斧を背後へとしまった。

 同時、ゆっくりと開かれる扉――既にその場所に車はなく、溢れるゾンビが気づいたように一斉にエレベータを見た。


 吐き出される銃弾が、扉までの道を切り開く。

 走りだした浜崎と琴子が左右に近づくゾンビを蹴散らした。

 疾走を開始。

 すでに限界を超えている足を、それ以上に酷使する。


 トラックまでの道のりは誰もが知っている。搬出入用の出入口から、駐車場のその場所までは四百メートルもないだろう。

走れば一分ほどだ。

 群がるゾンビに対して、吐き出される銃弾が行く手を遮り、掴みかかろうとするゾンビの間を抜けて、走り出した。


 先頭を走るのは浜崎と琴子だ。

 言葉はかわさずとも、息のあった様子で正面を塞ぐゾンビを次々に屠っていく。

 左右から近づいたゾンビは、立花と優が放つ銃弾の雨に吹き飛ばされていった。

 弾が切れる。

 自動小銃を肩にかけ、斧を抜き出して、優は左右を確認した。


 限界だとはいえ、それを嘆く事はできない。 

 誰もが息を切らせながら、全力疾走を行った。

「足が千切れたら拾ってやるから、遠慮なく走れっ!」

 滝口が後ろで物騒な事を言いながらも、応援ともつかぬ言葉を繰り返した。


 遅い避難民のペースに合わせながら、背後から近づくゾンビを牽制するのは大変なのだろう。それでも追いついてきたゾンビに対して、サバイバルナイフで切り裂く動作は慣れたものだ。一刀が首を切裂き、返しで頭部に一撃する。そこで若干遅れて、囲まれそうになったが立花が銃で周囲のゾンビを打ち込んで、すぐに合流した。

 人のいないトラックなど、見向きもする対象ではなかったのだろう。


 駐車場の入口から近づくゾンビはいるものの、トラックの周辺に固まっているゾンビはいない。その大半のゾンビが、正者を求めてスーパー内を徘徊しており、駐車場自体に数がいない事がわずかな救いであった。

 三十秒。


 最初の限界は老人だ。

 すでに疲れの限界が来ていたのだろう、酷使され続けた足はぼろぼろであって、もつれるように転げかけた。

「……」

 それを背後から近づいていた少年が、肩を抱えるように持ち上げる。

「す、す、すまないねぇ」

「……」

 礼の言葉に対して、少年は疲れたようにただ小さく頷いただけだった。


 誰もが苦しい、だけど、見捨てるわけにはいかないと少女が苦しげに微笑みかければ。

 その老人は表情に笑みを浮かべ――振り返った。

 誰も犠牲にしたくないと、半ば諦めに似た挙動。

 それを背後から叫び、

「あとちょっとだろ、ばばあ。勝手に諦めてんじゃ、ねえ!」

 滝口にかっさらわれるようにして、引きずられた。


「ちょ、ちょっと――離しておくれよ」

「離したらはしらねーだろ。いいから、捕まってろ!」

「……」

 少し怒ったように少年に見られ、その老人は驚いたように口を開いた。

「い、いいから若い子を――」

「勝手に死ぬんじゃねーっ!」

 老人の言葉は、滝口の叫びにかき消された。

 駐車場の中央で、すでにトラックは目と鼻の先だ。

 そんな息子の叫びを背後にしながら、鈴がスピードをあげた。


 ――あれほど、子供とお年寄りには優しくと教えたのに。帰ったら折檻ね。

 呟き、運転席の扉を開け放つ。

「エンジンをかけるまで、五秒ほど頼んだわ!」

「全員乗り込むまで、それくらいの時間はかかりますよ」

 飛びこむように運転席に転がり込み、鍵を差し込む。


 浜崎が助手席に周り、扉を開きながら近づくゾンビを、

「飛んで来い!」

 投げ飛ばした。それは周囲のゾンビを巻き込んで、転がる。

 後方で、琴子がやはり群がるゾンビに対して、ナギナタを一閃。


 トラックにたどり着いた避難民に、荷台にあげた。

 たどり着いた。

 エンジンの高鳴る甲高い叫びとともに、排気口から白い煙が立ち上る。

 銃声が響き渡り、避難民が荷台に倒れるようにあがった。


 滝口が、そして琴子があがれば、最後まで周囲を銃撃していた立花もあがる。

「鈴さん!」

 優が荷台に跳ね上がると同時、開けておいた助手席に浜崎が飛び乗り、車が走り出した。

 元々軍用のトラックとだけあって、装甲自体はある程度強いものであるらしい。


 逃すまいと正面に迫ったゾンビを、三体ほど跳ね飛ばしながらも、トラックはエンジン音を巻き上げて、走り出した。

 迫りくるゾンビの腕を、荷台から叩きつぶし、跳ね飛ばす。

 走りだしたトラックを、ゾンビは止める事ができない。

 次第に加速し始めたトラックに巻き込まれ、あるいは跳ね飛ばされるゾンビが増えた。


 刹那。

「ぁぁぁぁぁぁっ」

 一体のゾンビが荷台に飛び込んだ。


 Ψ Ψ Ψ


 それは傷顔。

 変わらぬ甲高い音を巻き上げながら、飛び込んできたゾンビ。

 その走るトラックに追いつく速度、そして跳躍は並みのゾンビでは不可能なことだ。

 真っ赤に染まった口を、いまだ食い足りないと開きながら飛び込んできたそれを、優は受け止めながら荷台に叩きつけられた。

 痛みに顔をしかめながらも、両肩を押さえて食らいつかれる事を阻止する。


「今宮あああああっ!」

 助手席から顔を出して、浜崎が叫んだ。

 琴子と立花も振り返る、だが彼らはただ左右から乗り込もうとするゾンビを塞ぐことで精一杯だ。助ける事も出来ず、動こうとすれば乗り込もうとするゾンビの頭を叩きつぶしながら、唇を噛んだ。

「くっ――」

 振り絞った声は、最後までは語れない。


 噛み締めた奥歯が、優の全力を証明している。

 それでもなお傷顔の大きな口は、次第に優へと近づいていく。

 組み伏せられた状態で、優は懸命に振りほどこうとするが、傷顔の力はそれを意にしない強さがあった。


 食われると、誰もがそう思った瞬間。

傷顔の頭が大きく揺れた。

 ポリタンクだ。

 荷台に置かれた飲料水入りのポリタンク。

 それが大きく振り切られて、傷顔の頭を痛打していた。

 視界の端で、泣きそうになりながら――松井江里がポリタンクを握りしめている。


 飲料水入りのそれを振りまわせるほどに力のない彼女にとって、それは強い一撃ではなかった。

「……!」

 けれど、気づいた少年が、そして少女が――次々に荷台に積まれていた、武器とは呼べぬ角材を手にし、

「あああああああっ!」

 口々にゾンビの頭に叩きつけた。

 誰もが非力で、そして力も入っていない攻撃の前に、傷顔は不快そうに。

「ぁぁぁぁぁ」


 小さく声を出した、けれど、その一瞬で十分だった。

 身体を縮ませるように、両腕の力を緩めれば、傷顔は前につんのめる。

 そこに足を入れれば――一気に股間を蹴りあげながら、前へと投げ飛ばした。

「ぁぁぁっ!」


 投げ飛ばされて、傷顔は転がり、そして反転。

 再び跳躍を見せたゾンビに対して、優は起き上がりながら、絵里のポリタンクを手にして、盾とした。

 振り切った。

 そのプラスチック製のポリタンクに、傷顔は噛みついて見せた。

 容易く噛み千切られたそれが、中身を荷台へとぶちまける。

「ぁぁぁ……」

 水を浴びて、不愉快そうに傷顔は顔を振り、再び躍りかかった。


 噛み千切られたポリタンクを間に挟み、再び力比べとなる。

 押しつけられたポリタンクが歪む、噛み千切られた穴からは水が溢れ、傷顔へと――そして、荷台を次々に濡らしていった。

 ついに、完全にポリタンクの中身がなくなり、大きくへこんだそれから手を離して、低く屈めば、伸ばされた手が宙をかく。

 そこに足を払えば、一回転をして――ゾンビが荷台に倒れた。

 大きく飛んだ水しぶき、再び回転しながら立ち上がる傷顔。


「なるほど、確かに厄介だ」

 それはいつかの『隣人』を思い出させる動きだ。

 湧き出しそうなトラウマを押さえながら、優は顔をしかめながら置かれていた角材を手にした。

 こんな小さな武器でどこまで戦えるかわからないけれど。

 そう思った瞬間だった。

 傷顔が小さく揺れた。


 Ψ Ψ Ψ


 ポリタンクを噛み切り、まき散らされた飲料水はゾンビと優の身体を等しく濡らしている。水だらけの荷台に転がったゾンビもまた、その衣服に大量の水を含ませていたが。

 それを――ゾンビは服を自らの腕で破り捨てた。

 まるで、いやがるように。

「ぁぁぁぁぁ――!」

 身体の服を脱いでなお、傷顔は髪を――そして、顔についた水を嫌がるように腕で拭った。

 もはや優の事など見ておらず、獲物の事すらも忘れたかのごとく。

「あああああああ!」

 それは一際大きい叫びをあげれば、慌てたように走る荷台から飛び降りた。

 呆然と立ち尽くす優達の前で、傷顔の姿は離れていく。


 助かったのか――誰しもが思う疑問ですら、声が出てこないでいる。

 ただただ背後に遠ざかる、傷顔を見ていた。

 加速するトラックが駐車場を抜けていく。

 すでにゾンビの数は周囲から減ってきており、ようやく手のあいた琴子が、ポニーテールをなびかせながら、怪訝そうな声を出した。


「何なの、あれは」

「さあ。以前言っていた成長するゾンビと同型のものだと思うが……水が嫌いなのか」

 まさかと思うが、実際狂犬病の類は水を怖がるという。

 だが、それは痛覚が敏感になり、液体そのものを怖がるという性質のものだ。

 あれほど血に塗れて平然としていたものが、水だけを怖がるとは思えない。

 それとも。


 身体に付着した水を、優は舐め取った。

 ただの水だ。

 この水が特殊なわけではない――一瞬だけ浮かんだ、対ゾンビ用の新兵器でも積んでいたのかと思ったが、それであれば山野が置いてくるわけもないだろう。

「わからない事が多いな。けれど――どうも助かったようだ」


 その言葉に、荷台で歓声が沸いた。

 立花と琴子が疲れたように座りこめば、他の者たちも呆然と武器を下ろして座りこむ。

 助かったという言葉に疲れが一気に襲いかかったようだ。

 もはや四百メートルどころか、誰も四メートルの距離ですら走れないに違いない。

 トラックは加速する。


 すでに時速八十メートルを超えたトラックに、追いつけるゾンビはいなかった。

 遠回しに見つめる怨嗟のような呻き声がこだましている。

「鈴さん。とりあえず、ゾンビがいなくなったら近くの民家で止まって朝を待ちましょう」

「ええ、そうね。本当、今日はハードな一日だわ」

 疲れたような、鈴のため息が運転席から漏れた。


 Ψ Ψ Ψ


 住宅街の民家。

 昼間に止めた駐車場に似た、小さな建物に車を止めた。

 シャッターを引き下ろして、ようやく安堵の息が漏れる。

 電気も窓もない一室で、ワゴン車からおろしたリュックに入っていた簡易のランタンが僅かな明りだ。

 誰もが疲れ切ったように、壁面に身体をもたれかけさせている。


 固形燃料の火で温められた水が湧いて、インスタントラーメンにお湯が注がれた。

 二日分の食糧という事で、インスタントのカレーとカップラーメンは持ってきていた。

 それを幾つかにわけて、配れば――疲れ切っていた避難民も貪るように、それを食べた。

 焦燥が消えて、微笑みが漏れ出る。


「そのままで聞いて欲しいけれど」

 シーフード味のラーメンをすすりながら、優は小さく呟いた。

 全員の視線が、彼に集まる。

「別の避難所に行くのなら、明日になりますが送ります」


 言葉に、避難民は顔を見合わせた。

 誰しもが不安げな表情を、その顔に浮かべている。

 避難所という言葉にも敏感になっているのかもしれない。

「ああ。隣の芦崎市の小隊長は私の同期でね。あそこよりマシだと思ってくれていい。私の言葉じゃ信頼できないかもしれないけれど」


 カレーを口に入れながら、立花が頷いて見せた。

「あの」

 声を出したのは絵里と呼ばれる少女だった。

「立花さんはどうされるんですか?」

「私は戻ったところで脱走兵扱いだろう。また牢獄行きは御免こうむる。それならどこかで、少しでも誰かの助けとなりたいと思う」

 そう言って、優の方に視線を向ける。

 再び、優に視線が集中した。


「来ても何もないところだけれどね」

「それでも構わない」

「わ、私も――私も、避難所よりも、そちらに行きたいです」

 勇気を出した言葉だった。

 今までなら、自分の意見を言う事もなく、ただ流れるままに身を任せただろう。


 別の避難所に行けといわれれば、そうしていたかもしれない。

 だが、それはしたくなかった。

 前を進むという事を教えられたから、だからこそ、少しでも前に進むため、勇気を出して、絵里は言葉にした。

「こちらの方が安全だと勘違いしてもらってもこまるけど。避難所よりも危険だよ?」

 苦笑しながら優は、インスタントラーメンをすすった。


「今日だって、みんなを巻き込んだわけだしね。誰かの我儘で、いきなりこんな事態に突っ込まれるかもしれない」

 まるで他人事のような呟きに、黙って汁を飲みほしていた浜崎がむせれば、やだと飛沫を避けた琴子が眉をしかめて、笑う。

「平和だけなら、避難所の方がいいと思う」

「それでも、私はここにいたい……と思います」

「なぜ?」


「私も、誰かの助けになりたいから。前に進みたいから」

「それなら別にここでなくても避難所でも出来るだろう?」

「私は、弱いから。だから、きっと次にって思っても、また止まっちゃうから。だから、今しかないと思うんです。私を命がけで助けてくれた今なら。だから、お願いします」


 小さく優が息を吐いた。

 求めるような視線を向ければ、浜崎達は決めるのは優だと任せた表情だ。

 誰も口を挟まない――仲間になる、それはこの状況で言えば、運命を任せるという事でもある。

誰かが裏切れば、あるいは誰かが自分勝手な行動をすれば、それは即座に仲間の危険へともつながりかねない。


 だから、容易に言葉は出来ず、ただ優の言葉を待っている。

 その空気が痛いほどに、絵里も理解できた。

 見つめられる視線は怖くて、否定したくなる。

 それでも我慢して見返せば、その表情が緩やかに笑った。

「そんなに睨まないでくれ。いいよ、くるというのであればくればいい」


「え……」

 実にあっさりとした許可の言葉に、絵里は拍子抜けしたように目を丸くした。

「君達には借りもあるしね」

 そう言って、頭をかいた。


 傷顔との戦闘で、優が食料とならなかったのは、彼らが気を引いた事も大きい。

 もっとも、それがなくても。

「頼まれたからな。約束は守るさ」

「あ……」

 気づいたように、絵里は小さく口に手を当てた。

 ――任せたと語った言葉。

 その言葉を思い出して、絵里は泣きそうになった。

 いい人だとは今でも思えない。


 最後の一瞬で、今までの事が全てなかったわけになるわけではない。

 だが、彼女たちが自身の事をしか考えられなかったように、彼もまたそうであったのだと気づかされた。

 そう思えば、彼を憎む事も出来ない。

 最後の最後で彼はそれに気づく事が出来た。

 それによって絵里は助けられ、そして山野は命を失う事になる。


 それが正解であったかどうかわからないが、せめて正解だったと思えるようになりたいと絵里は思った。

「ただ。覚えていて欲しいのは、来る以上危険もあるだろうし、安全を確約するものではないという事は覚えていて欲しい。もしそれが嫌だというのなら、大人しく避難所に行くことをお勧めする」

 優が視線を動かせば、窺うように他の避難民を見渡した。

 今まで一言も声を発せない少年が、こちらを見ている。

 限界まで走りきって、倒れているおばあさんがいる。


 中学生くらいの少女と、高校生くらいの少女がいる。

 そして、絵里を含めて五人の避難民に問いかけるように優が答えを求めた。

 選択するのは君たちだと、その強い瞳が語っている。

「わ、私は――」

「少し、聞いてくれますかな」

 絵里に遅れまいと口を開いた少女たちを止めるように、老婆が口を開いた。


 おそらくは宮下敬三よりも上の年齢である、その高齢の女性は――いまだ疲れを顔を残しているようで、立ち上がる事すら出来ないでいる。最終的には滝口に担がれるようにして、荷台に乗せられていたが。

「私はもう歳です。いつお迎えが来てもいいと覚悟もできております。こんな老人に何ができるでしょう。迷惑をかけるくらいならと。でも……あの方は」

 ゆっくりと言葉を向けたのは、鈴にカレーを奪われて頭を抱えている滝口だ。

 取り返そうとした腕を伸ばしたまま、唐突の視線に目を丸くしている。


「私に死ぬなと――走れなくなった私に走れとおっしゃりました。今後もおそらくは一番何も出来ないのは私でしょう。それでもよろしいのですか?」

「別に何かするにしても『戦う』事が全てではないでしょう。そうであるならば、石器時代から何も成長していない。彼女達が不安に思っていた事を、自分が代表して聞くという配慮も年長者らしい『何か』であると思いますよ」


 老婆の問いは、おそらくは口を開きかけた少女が不安に思っていた事だろう。

 何も出来なかった彼女たちが突然何か出来るようになると、自信を持てるわけがなかった。

 もし、何も出来なければ。

 不安を浮かべた彼女たちのために、自分が一番出来ないのだと口にした老人の優しさに、優はゆっくりとした微笑みを浮かべていた。


 静かに老人が笑う。

「御迷惑をおかけすることになりますが、御厄介になります」

「わ、私も」

「あたしも、ついていきたいと思います。何も出来ないかもしれません。ううん、何か役に立てるようにこれから頑張りたい」

 少女二人が胸に手を置きながら重なるように呟いて、最後に少年が。


「……」

 ゆっくりと首を縦にふった。

 肯定。

 その動作を示せば、優はわかったというようにゆっくりと頷いた。


「これからよろしく」

 新たな仲間を前にして、そう微笑んだ。



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