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役割分担1



 それぞれの自宅から集められた荷物が、一階の受付フロアに広げられた。

 個人ごとの荷物は別にして、集められたのは食料品や日用品――そして、武器の類だ。

 今まで持っていた奴も含めて、広げ終わるころにはかなりの時間を要していた。


「これはまた、ずいぶん集まったな。しばらく買い物に行かなくてもすみそうだ」

「あとで整理して、一覧にしておかないとな」

「それなら、銀行の備品管理システムが使えると思います。ちょっといじれば何とか」

「ああ。じゃ、佐伯さん。お願いして良いかな」


「わかりました、隊長」

 びっと敬礼をする佐伯夏樹に、優は目を開いた。

「何だそれは」

「リーダーが嫌っておっしゃってたので」


「だからといって隊長はないだろう。普通に今宮でいいよ」

「わかりました、今宮さん」

 わざわざ付け足す佐伯に苦笑しながら、広げられた荷物を順番に確認していく。

 食料品は多い。


 それぞれの自宅から持ち運ばれた保存食は、かなりの量があったし、昨日に買いだめをした分もある。二十人あまりが三ヶ月ほど食べていけるだけの余裕はあるだろう。

 けれど、その多くがレトルトや缶詰であるし、生鮮食品の量は少ない。

 それに今はまだ、水道が生きてはいるが――飲料水の確保も考えなければいけない。


 逆に言えば日用品の類は豊富だ。トイレットペーパーやサランラップ、その他もろもろの物資は節約しなくても十分まかなえるだろう。

 もっともそれを作ろうとなれば、大変な労力が必要であって、一朝一夕に出来ることではないかもしれないが、今悩むことでもない。


「高木恵子さんと二見陽菜さん」

 名前を呼ばれ、はいと二人が姿を現した。

 専業主婦であった高木恵子と二見陽菜だ。

「これから食事とか身の回りの関係のことをお願いすると思います。もちろん、掃除や洗濯など必要があれば、声をかけてもらえば人数は手配します。ただその管理をお願いします――高木さんは身の回りの関係、日用品や生活用品を。二見さんは食料品を。在庫の管理システムというのは佐伯さんが作ってくれるそうなので。もし、足りなくなりそうなら、教えてください。こちらで調達します」


「わかったよ」

「どれくらい持ちそうか、一度計算しておいた方がいいですか?」

「もしそれが出来るなら。大まかでいいので、教えてくれると助かります。あと日用品や電化製品等必要なものがあれば、それもこちらに手配してください。出来るだけ、調達するように心がけます」


「なに。家族が二十二人に増えたところで、たいした手間でもない。忙しくなりそうだよ」

 頼もしく腕まくりをする恵子の姿に、優は小さく笑った。


 Ψ Ψ Ψ


 次に視線を移せば、目に入るのは宮下宅と浜崎宅から持ち寄られた園芸用品や大工道具だ。よくこれほどにと、呆れる量は優の想像を超えていた。

 土だけでも百キロあまりはあるだろう。それにプラスして肥料や植物の種――反対に視線を向ければ、基本的な大工道具はもちろんのこと、電動式ののこぎりや釘打ち機が置かれていた。クワやスコップ、材木といった材料が無造作に置かれている。


 良くこれだけ持ってきたものだと言えば、材木は浜崎一人で担いだらしい。

 バスから運び入れる際には優も持とうとしたが、その三分の二で限界だった。

「何だ。その熊でも見る目は」

「わかっているなら聞くな。むしろ熊がかわいそうだ」


「どういう意味だよっ」

 口を尖らせる浜崎を無視して、視線を向けたのは宮下敬三だ。

「この園芸用品で、屋上で野菜の栽培は可能ですか?」

「不可能ってわけじゃない。ただ根の短いものやハーブなんかの簡単なものに限られるがね。量だけを見りゃあとんでもないが、畑を作るとなれば少なすぎる。主食というより補食や栄養補給程度に限られると思う」


「それでかまいません。とりあえず、米だけでいうなら周囲から調達するすれば何とかなるでしょう。主食を考えるのはもう少し後でも大丈夫だと思います。ただレトルトや缶詰だけじゃ、どうしても味気ないですし。たまに新鮮なものが食べられる程度でかまいません」

「わかった。簡単だがプランターでも作ろう。この時期は何がいいかな」

「宮下さんには、園芸関係の管理と材木関係の管理をお願いして良いですか。窓を塞ぐ必要もあるでしょうし、その辺の指揮もお願いします。いろいろと大変ですが――」


「なに、こんな老人の知識を溜め込んでおいたところで仕方がない。びっしりと鍛えてやる。なあ、洋平?」

「ちょ。じいちゃん。何、張り切ってんだよ。年を考えろ、この前もそれでぎっくり腰をやったとこだろ!」

「いま、それを言うかね。そういうもんは黙っとくもんだ」


「いっでっ」

 頭を叩かれて、小太りの青年――宮下洋平が頭を抑えた。

 次に視線を向けたのは、日原の家から運び込まれた自動車関係の整備用品に、燃料――そして浜崎が持ってきたバイクの整備用具だ。

 本職をしていただけあって、大型のレンチやドライバーの他に何に使うかわからない道具も多い。携行缶やドラム缶に入れられているのは、ガソリンや軽油の類だ。


 一見すれば高く詰まれるそれらは、十分な量があるようにも見えた。

 ただ。

「日原さん」

「何でぇ。って言っても、用件は一つしかねーな」

 名前を呼ばれて、ドワーフのような日原の父親が一歩前に進みだした。


 優の視線に気づいたように、ドラム缶にもたれかかりながら。

「持ってきたのはガソリンが五十リットルに、軽油が百リットル。オイルが五十リットルってところだな。これがどれくれぇ、持つかききてーんだろ?」

「ええ。その辺りについては、全然わからないもので」


「使う車の燃費や走行距離に左右されるから、参考とだけ言っておくぜ。大体、軽だと一リットル辺り十五キロ程度走るくらいに考えておけばいい。だから……だから、ええと」

 そう言って正則は考えて、おいと息子に声をかけた。

「いや、五十かける十五でしょ? ええと――」

「七百五十キロだな。軽油も同じとすると、そっちは千五百キロか」


「ああ、それだ。軽油はディーゼル専用だから、あのでかいトラックにしか使えないが。オイルに関しちゃ、三千キロから五千で交換すればいいから。特に問題はねー」

「そう考えれば余裕はあるといえば、あるのか」

「そうでもないですよ、浜崎さん。今回の探索でバスはもう半分くらい燃料なくなっちゃいましたし。走ってれば結構、数十キロくらい簡単にいきますから」


 運転席で燃料計を見続けてきた日原だからこそわかるのだろう。

 余裕があるとの言葉に、日原は首を振って見せた。

「けれど、全体的な量を考えればある程度の余裕はあるだろうね。調達もそこまで難しくはなさそうだ。ただ、問題は」


「ああ。精製とまでなれば話は別だ。ガソリンだって腐るからな、時間が経てばなくなる上に入荷もしねぇ。ま、それは燃料に限った事じゃないがね」

「長期的には考えていた方がいいが、今どうにかできるわけじゃなさそうですね。日原正則さんには燃料の管理と自動車のメンテナンスをお願いしていいですか。時間が空いているときに、その辺りの知識も教えてください」


「ああ。それは今までの仕事となんらかわらねぇ。息子にも一通りの事は教えたんだが――ああ、そうだ。お前、俺は盗み方まで教えたつもりはねーっていねぇ」

「いま、日原君凄い勢いで走っていったけど、何かあった?」

 日原昌司が逃走した。




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