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手紙の代わり

 七日目の夜だった。


いつものように階段を上がる。

ついでに隣の部屋に視線が行く。


癖になってしまったようだ。


暗い。静かだ。


部屋に戻っても落ち着かなかった。


コンビニの袋を机に置いたまま、湊はしばらく立ち尽くす。


名前も連絡先も知らない。


そもそも何をしているのかすら知らない。


なのに


財布の中のメモを見るたび

少し救われてしまう。


湊は引き出しを開けた。


白いメモ帳を取り出す。


何を書けばいいのかわからないままペンを持つ。


この前はありがとうございました。

もし迷惑でなければ今度何かお礼させてください。

ご飯とか。


書いた後で急に恥ずかしくなる。


何を書いてるんだろう。

高校生じゃあるまいし。


やっぱりやめよう、

ゴミ箱に捨てようとした。


でも、いつまでもあの人のことが気になるのもめんどくさい。

もうすっきりさせてしまおう。


湊は何度も読み返してから小さく折りたたむ。


深夜一時。


廊下は静かだった。


隣の郵便受けにそっとメモを入れる。


紙が擦れる音だけが響く。


返事なんてなくてもいい。


そう思いながら部屋へ戻ろうとした、その瞬間だった。


「律儀ですね」


背後から声がした。


湊の肩が跳ねる。


振り返ると、そこに隣人がいた。


いつものように静かな顔で、廊下の奥に立っていた。


「……いたんですか」


思ったより低い声が出た。


隣人は目を丸くする。


「いましたよ」


「全然会わないから」


言ってから自分で気づく。


まるで拗ねているみたいだった。


隣人は数秒だけ黙って、それから郵便受けに視線を向ける。


「それ、私宛ですよね」


湊は急に恥ずかしくなる。


「いや、その、変な意味じゃなくて」


隣人は少し笑った。


「お誘い、ありがとうございます」


湊は固まった。まだ読まれていないはずなのに。


「……何でわかったんですか」


「なんとなくです」


隣人は困ったように目を細める。


「湊さん、優しいので」


風が吹く。


郵便受けの中で白い紙が小さく揺れた。


「でも困りましたね」


「何がですか」


「そういう風に誰かに誘われるの、久しぶりなので」


その声は、嬉しそうにも少し寂しそうにも聞こえた。


短い沈黙の後隣人がふっと笑う。


「もしよかったら」


「…はい」


「今からご飯食べますか」


「え」


「せっかく誘ってもらったので」


廊下の蛍光灯が、じじ、と小さく鳴る。


「今日は私が作ります」

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