第二話 レイの初登校③
王子様が登校してきたら、もっとこう「殿下ぁー!」とか「ルーカス様ぁー!」とかいう黄色い声援に包まれるもんじゃないの!?
王子としての権威も、この整いすぎた美貌の威力も、聖女ブームの前には無力なのか。社会現象、強い。
私は誰からも声をかけられることなく、ただ一人ぽつんと立ち尽くし、熱狂的なファンに囲まれてキラキラと輝く『自分の身体』を、虚しい気持ちで眺めることしかできなかった。
しかも、私の身体の方が守ってあげたいってオーラを出してる。
ずるい。素材が良過ぎる。素材がずるい。
「レイっ!ごめん、ごめんねっ。ほったらかしにして!」
「いや、本当に……。もっと心の底から謝ってくれない?できれば今ここで、土下座してほしいレベルなんだけど」
ようやく熱狂的な人だかりが掃け、ルカが私の座るベンチへと駆け寄ってきた。
私はといえば、中庭の隅っこで膝を抱え、体育座りで小さく丸まっている。
王子の格?知らない。今は無理。
精神的疲労がすごい。人気者の付き添いって、こんなにMPを削られるものなのか。
護衛じゃなくて介護士が必要。
「面倒を見ろって王様に言われたけど、これ、どっちかっていうと私の方が一方的に面倒を見られる側じゃない?精神的な介護が必要なんだけど」
「あ……そうだよね。不慣れな場所に連れてきて、その……ごめん」
私の顔をして、心底申し訳なさそうに眉を八の字にするルカ。
……可愛い。そして猛烈にムカつく。
私って、こんなに庇護欲をそそる顔をしてたっけ?二十年間、鏡の中の自分と和解できてなかったのに、今さら発見したくない。
二十年間付き合ってきた鏡の中の自分より、今目の前にいる自分の方が三割増しで輝いて見えるのはなぜだろう。
あれか。私が足りなかったのは、ツインテールと罪悪感だったのか。違う。絶対違う。
「とりあえず、ここからどうすればいいの?教室?行けばいいの?一限のチャイムとか鳴るの?」
「うん。一年の教室まで僕が案内するね。こっちだよ、レイ」
一年……?
その言葉に、私は足を止めた。
見かけからして私より年下だろうとは思っていたけれど、念のため確認しておかなければならない。
この状況で年齢差の地雷を踏むのは、さすがに怖い。
「ねえ……ルカって今、何歳なの?私、これでも曲がりなりにも二十歳なんだけど」
日本の現役女子大生、二十歳。
成人式も終え、お酒だって飲めるし、大人なわけだけど……
「えっ!?二十歳なの!?……僕は、その、十六歳だけど」
「十六……っ!?」
衝撃が走った。四歳差。完全なる年下。
日本なら高校一年生のピチピチ世代。
まだ義務教育の延長戦、って顔をしてる年頃だ。
そこに混ざって、二十歳が制服着て授業を受けるって……なかなかメンタルにくる。
むしろ折れる。ポキッと。
「えっ、待って。ってことは私、高一から人生やり直しなの?異世界で人生二周目、強制コンティニュー?」
「レ、レイ……?顔が怖いよ?」
「受験……またあのアホみたいに苦しい受験勉強するの?共通テスト、また受けなきゃいけないの……?」
古文単語や数I・Aの公式が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
助動詞の活用、二次関数の頂点、場合の数。もう聞きたくない単語が、次々に襲ってくる。
絶望の波に飲まれ、私はよろよろとルカに連行されるまま、指定された教室へと足を踏み入れた。
ガラッ、と扉を開けた瞬間。
教室の空気が、ぴしっと張り詰める。
室内にいた全生徒の視線が、一斉に私たちへ集中した。
「殿下だ」
「聖女様も一緒よ」
「本当に殿下が後見人に…?」
ざわざわと波立つ教室内。
けれど、ルカはさっきまでのアイドル的な笑顔をどこかへ置き忘れたみたいに、わずかに俯いて立ち止まった。
肩が小さくすぼむ。呼吸が浅い。さっきまでのゆるふわ聖女は、どこに行った。
「……?入らないの?」
「え……あ、うん。そうだね」
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