第二話 レイの初登校②
もじもじと言い淀む私の姿をしたルーカス。
しまむらの苺パジャマを卒業し、今はフリフリの異世界制服に身を包んだ、完璧に可憐な私。
自分で言うのもなんだけど、普通に可愛い。
……こいつ、本当に中身は男なの?
仕草の一つ一つが、あざといほどに守ってあげたい『可愛い女子』を体現している。
適応能力が高すぎる。もはや才能の域だ。
私はその才能に軽く眩暈すら覚えた。
自分を客観視し続けると、脳がバグる。哲学的な迷宮に迷い込みそうになる。
でも、彼が言い淀んだのは――ただ照れているからじゃない。
その沈黙の重さだけは、冗談じゃなかった。
「あ!見て、レイ。学園が見えてきたよ!!」
「ちょっと、露骨に胡麻化さないでよ……ルー……あー、もう」
危ない。
私が今、外向きには『ルーカス』なわけだから、私に向かってその名前で呼ぶのはまずい。
御者も護衛も、馬車のすぐ外にいる。窓越しに声が漏れたら終わりだ。
私は咳払いでごまかしつつ、少しだけ身を乗り出して囁く。
「ねえ、ルーカスって呼ぶのも面倒だし、外で間違えたら困るから。『ルカ』って呼んでいい?」
「えっ!?……あ、愛称で!?」
「愛称っていうか、単なるあだ名だけど。短縮形っていうか」
その瞬間、私の顔が、ぼふっと音を立てるみたいに真っ赤に染まった。
何をそんなに驚くことがあるのか。
名前を縮めて呼ぶなんて挨拶代わりだし、呼び捨てだって、あだ名の一個や二個、誰にでもある。
……と言い切れるのは、たぶん日本の大学生だからであって。
こっちの王族社会では『あだ名を呼ぶ』ってそれなりに重大なのかもしれない。
でも、私だって生き残りたい。呼び間違いは即死案件。
「あだ名……レイが、僕を愛称で呼びたい、ってこと……?」
「え、まあ……そういうことになるのかな。外用の安全策として」
言い訳を足したのに、効果がなかった。
私の顔で、さらに真っ赤になって、恥ずかしそうに俯くルカ。
肩まで小さくすぼめて、指先が落ち着きなく膝の上を滑る。
そのまま、意を決したみたいにきゅっと目を瞑ったかと思うと、次の瞬間。
潤んだ瞳で、キラキラと見つめてきた。
「じゃあ……僕も、『レイ』って呼ぶから」
「う、うん。わかったから。そのキラキラした目で自分を見られるの、すごく落ち着かないんだけど……」
心臓が一瞬だけ変な跳ね方をした気がする。
いや違う。私の心臓じゃない。王子の心臓だ。たぶん。
そう思い込もうとして、余計に混乱する。
嬉しそうに微笑むルカを見て、複雑な気分になる。
馬車がゆっくり止まり、扉が開くと、私の知っている大学のキャンパスとは一線を画す、壮麗な校舎が姿を現した。
石造りの尖塔。
日光を反射するステンドグラス。
巨人が通り抜けられそうな巨大な正門。
門の上には紋章みたいな飾りがあって、無駄に『格式』の圧をかけてくる。
「……こんな感じの建物、恵比寿かどっかで見たことあるわ……」
「えびす……?」
「本当にここが恵比寿なら良かったのに……今すぐビール飲んで、買い物して帰るのに……」
門をくぐった瞬間。
「わああっ!」
地鳴りみたいな歓声とともに、生徒たちがわらわらと津波のように押し寄せてきた。
速い。近い。数が多い。
馬車の周りが一瞬で人壁になって、護衛が慌てて前に出る。
「あれが噂の聖女様!?」
「見て、なんてお美しいんだ!」
「うわあぁ……神々しすぎる……!」
揉みくちゃにされ、あっという間にルカの周りには三重、四重の人だかりができた。
私、もとい私の身体、人気者すぎじゃない?
いや、私が人気なんじゃなくて、みんな『聖女』を拝みたいだけか。
ルカは戸惑いながらも、天性のアイドル適性を発揮し、ニコニコと控えめな笑顔で手を振っている。
手の振り方まで上品。視線の落とし方まで計算されてるっぽい。
いや、計算じゃなくて『素』なのが一番怖い。
「聖女様、なんて清らかな微笑みだ……!」
「本物の女神の再来だわ!」
「え、あ……あの、僕、こういうの慣れてなくて……恥ずかしい、です」
「きゃあぁぁっ!一人称が『僕』だわ!なんてギャップ萌えなの、可愛いー!!」
……私の顔で、恥じらって、挙句に『僕っ娘属性』まで付与されてる。
悔しいけれど、正直に言ってめちゃくちゃ可愛い。
しかも声が私の声だから、破壊力が二倍。
なんで自分の声で自分がダメージ受けてるの。
っていうか、この世界の住人、そんな簡単に『僕っ娘』を受け入れちゃうの?
懐が深すぎない?その寛容さ、半分私に分けてほしい。
……って、ちょっと待って。
こっちの私、空気すぎない……?仮にも一国の王太子でしょ?
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