第二十七話 レイの物語のヒロイン③
これ、完全に別物じゃん。
私が『私』の見た目のまま可愛くなったんじゃない。
ルカが私に恋をして、内側から溢れ出す愛おしさが、外見までも『ヒロイン』へと昇華させていたのだ。
……ずるい。
そんなの、勝てるわけない。
一年間ずっと、心臓を揺さぶられ続けてきた理由が、今やっと言葉になる。
「だから……その、レイっ……」
縋るようなルカの言葉を遮るように、頬を両手で挟んで顔を引き寄せ唇を重ねる。
涙で濡れた睫毛が震える。
息が触れる距離まで近づいて、逃げ道なんて最初からなかったと気づく。
一瞬だけ、熱が触れて。
次の瞬間、ルカの体がびくっと固まった。
ルカにとっては、きっとこれが正真正銘のファーストキスだろう。
驚きに目を見開いたまま、瞬きすることさえ忘れているみたいだった。
「……っ!?」
重なる唇の向こう側。
夜空を切り裂くように、一際明るい大きな流れ星が、長い尾を引いて落ちていく。
まるで『今だよ』と告げるみたいに、世界が白く瞬いた。
その光が消え去るのを確認してから、私はそっとルカを解放した。
「レイ……何で……。初めては好きな人のために取っておけって、自分で言ったのに……っ」
「うん、言った」
「じゃあ、なんで……」
「だって。ルカ、私のこと好きなんでしょ?」
「す、す……っ、すき、だけど……っ!」
ぶっ。
面白いくらい真っ赤に染まる。
泣きながら、抗議にもならない抗議をしてくる。
こんな可愛い子、手放せるわけなんてないのに。
私のファーストキスはこんなんじゃなかった。
真っ赤になって、泣きながら全身で『好き』を叫んだりしなかった。
だから、こんなふうに受け止められたら……ずるいって。
「じゃあ、私たち、両思いじゃない?」
「え……?」
「それにね、ルカ。『女神の流星』、もうとっくに流れちゃったし」
「ええっ!?う、嘘……じゃあ、もう入れ替われない……」
「少なくとも、あと一年、ルカといようかな。って」
「……いいの?本当に、いいの……?」
「うん。だって今さら、もう手遅れっぽいし」
「て、手遅れって何が……?」
「ん?私がルカに夢中ってこと」
「嘘……本当に?」
「本当。だからさ、もう一回キスしていい?」
「えっ」
「今度は目、閉じてくれる?」
答えなんて聞かなくてもわかっていた……はずなのに。
ルカは少しだけ困ったように眉を下げた。
「だ、ダメ……」
「……え、拒絶?」
あれ?わかってなかった……?
ショックで固まる私に、ルカは顔を真っ赤にしたまま、消え入りそうな声で続けた。
「だって……あんまりたくさんしたら、減っちゃうかも……」
「ぷっ、あははは!減らないってば、そんなの!むしろ、増えていくよ」
「ふ、増える……?」
「増える。増える。超増える。保証する」
おかしくて、愛おしくて、私は額に、頬に、涙を溜めたままの瞳に、啄むようなキスを何度も落とした。
ルカがくすぐったそうに息を漏らすたび、胸の奥がふわっとほどける。
「ね?減らないでしょ?」
そして最後は、驚いた顔じゃなく、幸せそうに微笑むルカと深く、甘く、唇を重ねた。
今度はちゃんと、ルカは震える睫毛を閉じて、私の腕を掴む手に力を込めた。
その握力が、怖いくらい嬉しい。
こんな判断、私の頭がバグっていなければ絶対にしなかっただろう。
二留確定。キャリアプラン崩壊。親にはなんて説明すればいいのやら。
でも、どうしようもなく、私の見た目からアプデしたこのルカが可愛く見えちゃう。
……いや、可愛いどころじゃない。
もう、逃げられないし、逃がさない。
「……これさ、私って、彼氏と彼女、どっちなんだろうね?」
「どっち!?……え、どっち、なんだろう……」
「私はどっちでもいいんだけど……」
額を合わせながら、ルカの頬を両手で包み込む。
指先の熱が徐々に熱くなる。
「ルカが『彼女』なのは、確定かな!」
「嘘!?僕だって、男らしいところあるよ!?レイを守るって決めたんだから!」
「へぇ。例えば?何から守るの?」
「え……その、レイが怖い夢を見たら、一晩中手を握って見張ってあげるとか……」
「あははっ!何それ!」
「あ!それから、レイが食べきれないスイーツは全部僕が食べてあげるよ!」
「ふふっ。じゃあ、その時は頼りにしようかな」
鼻息荒く、やる満々に両手を握りしめるルカ。
結局、守るのが胃なのが笑えてくる。
でも、その『守る』が、私には本当に嬉しい。
「レイ……本当に、このピアスのお花の名前、知らないの?」
「……知らないよ。だから、ただの小花でしょ」
ルカは背伸びをして、耳にかかる吐息をくすぐったそうに漏らしながら囁いた。
「——勿忘草。花言葉は……『私を忘れないで』だよ」
耳を掠める甘い言葉に、心臓が跳ねる。
『私を忘れないで』……って、忘れられるわけないじゃない。
自分で自覚がないのか、言うことも仕草も、全部がいちいち『ヒロイン』の王道すぎる。
二十年間、ずっと女やっていたはずなのに、敵う気がまるでしない。完敗だ。
はぁ、二留確定、か。
いっそ、このまま王太子に『永久就職』して、この最高に可愛い『ヒロイン』と一生を共にする人生もありかもしれない。
だって、仕方ないじゃない。
私の物語の『ヒロイン』は、ルカ一人に決定してしまったのだから。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ダブルヒロイン×ダブルヒーローという、やりたい放題の私史上、最高に可愛いヒロインだったかな!?と思っています。
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