第二十五話 レイの聖夜の嘘①
「かんぱーい!!」
グラスを高く掲げると、琥珀色のシャンパンの中で黄金の泡が、きらきらと星みたいに弾けた。
チンッ、とグラスが触れ合う音がやけに気持ちいい。
人々の視線から逃れるように、私たちは二人だけで部屋に戻り、ささやかな祝杯をあげていた。
夜会の喧騒から切り離されたこの部屋は、火の気と灯りでぬくぬくしていて、外の雪さえ遠い。
「ちょっ、レイ、もう五回目の乾杯だよ。いくらなんでも飲み過ぎだよ……」
「いいんだってば!私、中身はもう二十歳過ぎてる大人だもーん」
言いながら、ぐびぐびと一気に喉を鳴らす。
王宮秘蔵のシャンパンだろうか。驚くほど口当たりが良くて、舌の上で甘くほどけて、飲むたびに肩の力が抜けていく。危険。これは危険なやつ。
「いや、その身体、僕のだから……。まだ十六歳の未成年だからね。一応……」
「はいはい。形式上はね。形式上は」
私はわざとらしく頷いて、もう一口。
ルカは私の手元を見て、じわじわと眉を寄せる。そういう顔、ほんと真面目。
やっぱり、この世界で一番落ち着くのは、この部屋で二人きりで過ごす時間。
誰に気を遣う必要もない。誰の視線も、刺さらない。
テーブルの上には、勝利を祝うみたいに豪華な御馳走が所狭しと並んでいる。
香ばしく焼き上げられたローストチキン、湯気を立てる濃厚なクリームスープ。
宝石みたいなフルーツが盛られたホールケーキに、最高級のローストビーフ。
とろけるチーズが食欲をそそるグラタンまであって、見てるだけで胃が動く。
これ全部が数時間後には、隣で座ってる可憐な衣装の私の胃の中に収まるのかと思うと、少しだけ恐ろしい。
……でも、今日くらいはいいだろう。今日だけは。
「でも、本当に……本当に上手くいって良かったよ……」
ルカが、安堵の溜息をこぼす。
その声の震えが、まだ完全には引いていないのがわかる。
怖かったのは、終わってからのほうが実感として戻ってくる。
ルカはドレスの隠しポケットに潜ませていた鏡の破片を、そっとテーブルに置いた。
小さな欠片がコロン、と乾いた音を立てる。
ランプの光を反射して、鋭く、けれどやけに綺麗に輝く光は、刃物みたいで、宝石みたいで、目を逸らしたくなる。
『ねえ、ルカ。……私に一つ、とっておきの作戦があるんだけど』
『……なに?』
『ばれたら……なんかの罪に問われちゃうと思う』
『罪に?』
『それでも、共犯になってくれる?』
宝物庫で提案した、私の禁じ手の作戦。
伝説の『自白の鏡』を、わざと叩き割る。欠片を指先に隠して、宰相の目の前に突きつける。
鏡の魔力は欠片になっても失われない。覗き込んだ相手は、自分の意思とは無関係に『真実』を吐き出さざるを得なくなる。
そして周囲には、それがあたかも『聖女による神罰』に見せる。そこまでがセット。
割れた鏡の欠片に効果があるのかもわからない。
信仰心を逆手に取った、危険すぎる賭け。
一歩間違えれば、不敬罪で私たちが処刑されていてもおかしくない。
そもそも一枚しか残っていない『自白の鏡』を割ったうえ、禁止されているにも限らず持ち出して使った。
ばれたら、複数の罪状でお腹いっぱいになりそう。
「鏡を割るなんて、普通の人は考えもしないだろうけどね。……勝てない賭けはしない主義なの」
私は不敵に笑ってみせる。……けど、喉の奥は少しだけ乾いていた。
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