第二十四話 レイによる断罪①
窓の外ではしんしんと白い雪が降り始め、世界は静かに、けれど確実に美しい雪化粧へと染まっていく。
今日は、クリスマスの夜会。
そして――私たちにとっての、決戦の夜だ。
会場には国内の主要貴族、高官、学園の関係者たちがひしめき合い、香水と酒と熱気が渦を巻いていた。
シャンデリアの光は、星のように煌めきながら、欲望と期待の顔を一つ残らず照らし出している。
「行こう。ルカ」
振り返ると、ルカはいつか神殿に祈りを捧げた時と同じ、一点の曇りもない真っ白なドレスを纏っていた。
さっきまで小悪魔だったくせに、こうして黙って立つと本物の天使にしか見えない。……反則だ、本当に。
けれど、差し出された手は緊張で氷みたいに冷たく、ガタガタと震えている。
指先が、私の手の中で小さく跳ねた。
「ルカ。大丈夫。……全部、上手くいく。私がついてる」
「……うん。……でも、怖い」
その『怖い』が、まっすぐで、痛い。
私は指を絡めるように握り直し、逃げ道を塞ぐみたいに手を包んだ。
ぎゅっと手を握りしめ、私たちは光の渦へ足を踏み入れた。
入った瞬間、視線が刺さる。針みたいに。甘い笑みの仮面の裏側から、好奇心が牙を出してくる。
そして、来た。
獲物を見つけたハイエナみたいな顔で、宰相が滑るように歩み寄ってくる。
「これはこれは。王太子殿下。お待ちしておりましたよ……」
下卑た笑み。
その視線が、私の隣に立つルカを舐めるように上下する。
ドレスの白さを汚したい、とでも言うように。
「殿下……忠告を申し上げに参りました。もう、その『不浄な娘』をお連れになるのは、お止めになられた方がよろしいかと」
「不浄?……何の話をしているの」
「しらばっくれても無駄です!聖女と崇め奉られているその娘……実態は、『聖女』を騙る厚顔無恥な詐欺師ではありませんか!」
宰相が、わざとらしく声を張り上げた。
その瞬間、会場の喧騒が引き潮のように消える。
音楽も、笑い声も、グラスの触れ合う音も。
残ったのは、息を呑む音と、私とルカに突き刺さる視線だけ。
「その娘は聖女と偽り、殿下とこの国を謀っております!」
「謀る?彼女が私を?」
「我々はその証拠を、しかと耳にしました!この娘は自ら『私は偽聖女だ』と白状したのですよ!!」
勝ち誇った顔で断言する宰相。
なるほど。あの教師は約束どおり、嘘の情報をきっちり流してくれたらしい。
「……宰相」
私は一拍置いて、宰相の言葉を遮った。
「その話の前に、私からも確認したいことがいくつかあるのだけど」
懐から取り出したのは、分厚い紙の束。
視線が、紙の角に吸い寄せられる。
これが何か、察した人間もいるだろう。空気が、ぴりっとした。
「ええっと、どれどれ。……まずは一枚目」
パラリ、と一枚掲げる。
「うわぁ……これは、貴方がお忍びで通っていた裏カジノの借用書だね。すごい金額だ。普通の貴族なら、これだけで一族まとめて破産するレベル」
「なっ、何を……出鱈目を……!」
「次。多額の不正借入金の証書。この利子、法外にもほどがある」
「それから……おっと。宝物庫から盗み出した宝石を、闇市で質入れした時の見積書。しっかり残ってる」
宰相の顔から、みるみる血の気が引いていく。
頬の肉が落ち、笑みの筋肉だけが取り残されて引きつる。
指先が震えて、袖の金糸がきらきらと揺れた。
「それだけじゃない。口にするのも憚られるようなお店で派手に遊んでた領収書もある」
「別宅が……一、二、三……五個。愛妻家で有名だったはずなのに、盛んなことだね」
「さらに昨年の学園への寄付金。私の警護名目のはずが、警護された記憶がない。つまり誰かの『ポッケ』に入って消えたってことかな。……ねえ、理事長?さっきから膝、鳴ってるけど。何か知ってる?」
隣の理事長が、膝を打ち合わせてガタガタ震えだした。
私は読み上げた紙を、一枚ずつ、床へ放り投げる。軽蔑を込めて。
ヒラヒラと舞い落ちる紙は、宰相が積み上げてきた横領、窃盗、背任――その動かぬ証拠の雪崩になって、足元に降り積もっていく。
「で?聖女がなんだっけ。続けなよ。どうぞ」
「……あ、あ……う……」
にっこり微笑んで促すと、宰相は金魚みたいに口をぱくぱくさせるだけで、言葉が出ない。
私は彼を視界から外し、玉座に座るルカの父親――国王へ向き直った。
「父上。ご覧ください」
声を張りすぎない。けれど、逃げられない音量で言う。
「この男は、私だけでなく、この国そのものを裏切り、食い物にしていたのです」
「陛下!!嘘です!!このようなもの、すべて捏造で……っ!」
「捏造……?捏造と言うのなら、聖女に確認してもらいましょうか」
私は両手を広げ、背後にいるルカへ目配せを送った。
私の背中に隠れるようにしていたルカが、深く息を吸う。
震えが止まらないまま、それでも覚悟を決めたように一歩、前へ。
宰相は、ルカが偽物であると信じ込んでいるのだろう。
「偽物に何ができる」とでも言いたげに、口元を醜く歪めて嘲笑った。
ルカは両手をまっすぐに、宰相の眼前へ突き出す。
「――僕に嘘は効かない。ここから先、お前は自分自身の罪を、真実だけを口にするんだ」
「はっ!嘘など……貴様、口を慎め!」
宰相は唾を飛ばしながら叫ぶ。
「私は、私はこの国の『王』になる男なのだぞ!!!」
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