第二十一話 レイの本音と本能②
女子高生の時も、女子大生の時も幾度となく感じてきた視線。
それが私の身体、というかルカに向けられているのを、こうして客観的に見るのはかなり複雑。
もし婚約していなかったら、今頃はナンパの嵐に飲み込まれて、文字通り身ぐるみ剥がされていたんじゃなかろうか。
「レイっ!!」
満面の笑顔で、重なるレースのスカートをふわっと揺らしながら、ルカが私の方へ駆け寄ってくる。
軽い足音。ひらり、と裾が舞うたびに、周囲の視線が一斉に吸い寄せられるのがわかる。
もう……仕方ないなぁ。私の顔で、ルカが嬉しそうに笑っている。
その造形にルカの純真な魂が宿って放たれる笑顔に、私はどうしようもなく弱い。
ちょっとでも油断すると、顔が緩んでしまう。
「レイは着替えないの?クラスの出し物、執事喫茶も兼ねてるんでしょ?」
小首を傾げ、上目遣いで私を見上げてくる。
その動きだけで、胸の奥がきゅっと掴まれる。危ない。
「着替えないって。普段の制服で十分でしょ。私は後半の劇の時に、王子の衣装に着替えるだけかな」
「そっかぁ。レイの執事姿、見てみたかったな。絶対にかっこいいもん!あっ……でも……」
「ん?」
「……やっぱりダメ。そんな姿、みんなに見せたら、女生徒たちがみんなレイのことを好きになっちゃうよ。それは嫌だもん」
さらっと、爆弾を投下された。しかも無自覚で。
私は一瞬、呼吸の仕方を忘れる。ほんの一瞬。
「ぶっ。ないない!何を言ってるの。モテ要素なら、今のルカの方が百倍やばいんだからね?」
「えぇっ!僕が!?」
そんなに意外?ってくらいに目を丸くして、ルカは照れ隠しをするようにツインテールの先を指でくるくる弄り始めた。
……その『くるくる』が、どれだけ男子の破壊衝動を煽るか、この子はこれっぽっちも理解していない。
ああもう、やめて。そこ、可愛いの暴力。
自分がどう見えているのか自覚がないというのは、時に罪深い。
私のほうが心配になっちゃう。というか、私の胃が痛い。
「ね、レイ!店番の時間が来るまで、色々周ろう!焼きそば、半分こしようね!」
そう言って、ルカが私の腕をぐいぐいと力強く引っ張っていく。
細い指先のはずなのに、嬉しさの勢いがそのまま力に変換されていて、逃げ道がない。
腕に触れるたび、制服越しに体温が伝わってきて、妙に意識してしまう。落ち着け、私。本当に。
ほら、また。周りを見て。男子生徒の視線が釘付け。
私の背中には、彼らの羨望と嫉妬が刺さって、痛いくらいだ。
最初は天使だと思っていた。けれど、今ならはっきり訂正できる。
この子は、小悪魔だ。それも、自分が小悪魔であることに一ミリも気づいていない、真正の。
私はもう、単なる可愛い同居人として彼を見ることができなくなっている。
私の意思とは無関係に、この男の身体は、ルカの無垢な振る舞いに翻弄される。
熱く脈打って、勝手に反応して、容赦なく私を困らせるの。
やめて、ルカ。お願いだから、そんなに無防備に笑いかけないで。
心がぐちゃぐちゃにかき乱されっぱなしだ。
だから、私は距離を取っている。
お風呂に一緒に入るのをやめ、添い寝を断り、ルカの無邪気な誘いを、時に冷たく突き放す。
そうしなければ、この身体に潜む『本能』に、私の心が飲み込まれてしまいそうだから。
辛いけれど、これでいい。
半年後、身体が元に戻れば、この苦しい想いも、きっと薄れていく。
元の世界に戻れば、私はただの女子大生に、彼は一国の王太子に戻り、二度と交わることもない。
だから、お願い。
神様でも、痴女スタイルのお母さんでもいい。
魔法が解けるその瞬間までは、もう少しだけ、彼の隣にいさせてほしい。
繋いだ手の熱さを、忘れないでいられるくらいには。
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