第二十一話 レイの本音と本能①
文化祭当日。準備期間から薄々わかってはいたけれど、この世界の貴族学園の祭典は、日本の大学祭に匹敵する――どころか、たぶん軽く追い越している。
校舎を彩る豪奢な装飾は、昼の光を受けてきらきら反射し、庭園には色とりどりの出店が、花壇みたいにずらりと並んでいた。
甘い砂糖の焦げる匂いに、ソースの香ばしさ、揚げ油の音。
あちこちから押し寄せる誘惑が混ざり合い、ルカは今にも涎を垂らすんじゃないかってくらい、落ち着きなく鼻をひくつかせている。
「わぁ……クレープに焼きそば、たこ焼きまである!レイ、あれ全部食べていいの!?」
その目の輝きが強すぎて、『全部はダメ』と釘を刺すタイミングを見失った。
いや、今ここで言ったら確実にしょんぼりする。まずい。
瞳を爛々とさせていたかと思えば、いざ準備が始まると、例の侍女たちが仕込んだフリルたっぷりのメイド服に着替え、クラスの女子生徒たちとキャッキャウフフで盛り上がり始める。
「聖女様、最高に可愛いです!!」
「えへへ、本当?嬉しいな」
……嬉しいんだ。
ルカ、自分が男だってこと、完全に忘れてるんじゃなかろうか。
いや、単に私の外見が褒められてると思ってるだけ?どっちにしても危機感が薄い。
先日、聞いたあの不穏な悪巧み。
それを知ってからというもの、ルカが怖がって文化祭を楽しめないんじゃないかと心配していたけれど――どうやら杞憂だったらしい。
切り替えが早いというか、天然の防御壁が分厚いというか。
羨ましいような、怖いような。
「見てください、この癒やし効果!これが聖女様のお力なのですね!?」
「ええっ!?僕にそんなすごい力があるのかなぁ!?」
女子たちに囲まれ、頬を染めてもじもじしているルカ。
いや、そんな効果あるわけないだろ。私はただの女子大生なんだから。
……なのに、手を合わせて拝まれたり、頬を押さえて「尊い……」みたいな顔をされたりすると、こっちまで変に気持ちが揺れる。いやいや、落ち着け私。
今すぐにでもプリクラを撮りに行ってしまいそうなテンションを見ていると、元の日本でも異世界でも、十代の女子が集まった時の爆発的なエネルギーは共通なのだなと、妙な感心を覚えてしまう。
チラチラ覗いていたペチコートは、私が厳重に注意して、なんとか死守させた。
けれど今度は、歩くたびにふんわり膨らむパニエがひらひら舞い、ニーハイソックスに縁取られた絶対領域が、やたらとチラ見えしている。
中身が男子のせいか、あるいはルカ自身の性格か。
細かな所作が絶妙に隙だらけで、ガードが低すぎるのだ。
私からすれば、防御力ゼロの初期装備で戦場を散歩しているようにしか見えない。
しかも本人は「えへへ」って笑ってる。心臓に悪い。
王太子の『婚約者』っていう公式設定があって、本当によかったわ……と、今日ほど思ったことはない。
その設定のおかげで、誰もルカに直接声をかけてこないのが、せめてもの救い。
周囲の男子生徒たちの視線は、獲物を狙う野獣のように鋭いけれど、私が隣で冷徹な王太子のオーラを放ちながら睨みを聞かせると、彼らは慌てて目を逸らしていく。
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