第十九話 レイ、メイドに看病される①
今日のルカは、やけに張り切っている。
というより、異常なまでのハイテンションで瞳をキラキラと輝かせている。
いや……心配してくれるのはありがたいんだけど。
でも、私はただ、くしゃみを一回しただけなんだよね。
「はっくしょん!」
「レイ!!大丈夫!?今すぐ横になって、動いちゃダメだよ!」
ルカが血相を変えて飛んできて、私の腕を掴んだまま体温計を押し当ててくる。
近い。顔が近い。熱より距離が危険だ。
出た数字は36.9℃。どっからどう見ても平熱。
「大変だ、レイ!!熱があるよ!三十七度直前!!」
「……ルカ。これ、微熱にもならないから。なんなら食後にちょっと体温が上がっただけの、健康そのものの数字だからね。火鍋でも食べたら余裕で三十七・五は超えるよ?」
元々が深窓の王太子なせいで、ルカは時折、驚くほどの世間知らずを発動させる。
しかもそれを、善意百パーセントで。
「ダメだよ。風邪は引き始めが一番大事なんだからね!!」
真剣な、それこそ国の一大事を論じるような顔で断言する。
そのセリフ、日本の風邪薬のCMで聞いたことある気がするんだけど。誰に教わったの。
「あの、ルカ……本当に大丈夫だから、学校行かないと……」
「却下!今日は王太子命令で絶対安静!!」
「いや、王太子私だし」
「だから、僕が命令するの!」
「権限の奪い合いが始まってるんだけど!?」
本人がこれだけやる気なら……と半ば諦め、パジャマに着替えようと一旦席を外した、その僅かな間に――
部屋に戻ると、そこはすでに簡易診療所と化していた。
濡れタオルに氷枕。速い。準備が速すぎる。
さらに分厚いガウンを羽織らされ、ブランケットとマフラーで隙間なくグルグル巻きにされる。
……正直、めちゃくちゃ暑い。
発汗作用が凄まじい。もはや看病というよりサウナの修行だ。
息を吐くたび、マフラーの中で自分の呼気が循環して戻ってくる。あつい。
「……ルカ。気持ちはすごい嬉しいんだけど、その格好は……何?」
私は、目の前に立つ自分の姿を見て固まった。
「えっ!?あ、あの、じゅ、準備してたら……侍女のみんなが『看病には形から入るのも大事です』って用意してくれて……」
ルカが顔を真っ赤にして、スカートの裾をモジモジと弄っている。
どっからどう見ても、メイド服を身に纏う私。
それも、城の侍女たちが着ている実用的な制服ではない。
やたらとフリルが多用され、白と黒のコントラストに、贅沢なレースとリボンがあしらわれた……
いわゆる『コスプレ』仕様のやつ。異世界にもこんなん存在するんか……
しかも、ご丁寧にニーハイまで履かされている。絶対領域。
ペチコートがチラチラ見えるたび、羞恥で体温が一度上がりそうだ。
「みんな……『これを着ていれば、殿下もきっと早く元気になりますよ』って言うから……」
真顔で言うな。
いや、別に喜ばないよ。揶揄われてるって気づいてよ、ルカ。
それ完全に侍女たちのおもちゃにされてるから。
仕事が速い上に、趣味が全開すぎる。そして絶対楽しんでる。
使用人たちに、私はどんな目で見られているのよ。
まさか異世界で自分のメイド姿を見ることになるなんて思わなかったんだけど?
冗談じゃなく、本当に熱が出そうな気がする……
っていうか、今の発汗で体温計測り直したら三十七度行くかもしれない。見ろ、ルカの勝ちだ。
「でも、書類も残ってるし、少し休んだら再開……」
「ダメ!!寝てて!!」
ルカが慌てて私を布団へ押し戻す。
ぎゅっと肩を掴む手が、必要以上に強い。
何だろう。今日のルカは、いつになく必死だ。
こんな正気でいられないようなバカみたいな格好をしているのに、隠しきれない怯えが透けて見える。
「……母上も、そうだったんだ」
ルカの声が、さっきまでのハイテンションから一気に落ちる。
喉の奥で、息が引っかかっている。
「最初はちょっとした発熱で、『大丈夫、すぐに良くなるから』って笑っていたのに……結局、あっと言う間に……」
「ルカ……」
ルカにとって、誰かが熱を出すというのは、拭いきれないトラウマなんだ。
「平熱だよ」なんて理屈で片付くわけがない。
きっとルカの前では貞淑なお母さんだったはずだと思うけど……
でも、あの布一枚みたいな降臨スタイルでいたら、そりゃ冷えるだろ。なんて思ってごめん。
今は、笑いに逃げるのはやめよう。
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