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【完結】入れ替わり聖女は恋を知る~王子だった僕が、初恋で世界一かわいくなるまで~  作者: 木風


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第十六話 レイ、言い訳をする②

私からすれば、ただの女友達に対する気軽なコミュニケーションだった。

でも私は、自分がルカの外見をしていることを一ミリも考慮していなかったのだ。

女子大生ノリの『神対応』は、この世界の乙女たちにとって、致死量のファンサでしかない。

それを王太子の顔でやれば――そりゃ刺さる。刺さりすぎる。


女生徒たちは言いたいことを一方的に叫び散らすと、嵐みたいに泣きながら走り去っていった。

走り去り方が、全員ドラマの最終回。クライマックス。


「殿下あああああ!!聖女様を泣かせたら承知しませんからねぇぇぇ!!」


……みんなでどっかで打ち合わせでもしたんか……?

遠ざかる叫び声を聞きながら、私は額の汗を袖で拭った。冷や汗ってレベルじゃない。

悲劇のヒロインに酔いすぎでしょ。ドラマの見過ぎよ。


恐る恐る、隣に佇むルカの様子を伺う。


……あ。終わった。

ルカの表情が完全に死んでいる。

しかも、さっきまでキラキラしてた瞳が、急に虚無。

いや、私のせいだけど、半分は世界が悪い!


「あ、あの……ルカさん?今のは、その……女子の、えーと……過剰な演出というか……」

「レイ」

「だいぶ盛ってるんじゃないかな〜って……その……」

「もう。みんなに期待持たせすぎだよ。無自覚って、一番タチが悪いんだから」


ルカはそう言いながら、不満げに口を尖らせた。次の瞬間、プク〜ッと両頬を限界まで膨らませる。

……え、ルカがそれ言っちゃう?

ていうか、今さらその方向で怒るの?


そして、なに、その分かりやすすぎる不機嫌アピールのプク顔。

頬を膨らませてるだけで、怒りの圧がゼロ。なのに『拗ねてます』だけは全力で伝わってくる。

可愛い……じゃない。いや、可愛い。だめだ、脳が勝手に降伏する。


どうしてこの身体は、怒るとこんなにハムスターみたいな愛くるしさになるのよ。

私は我慢できず、そのパンパンに膨らんだ両頬を指先でムニ〜ッと挟んでみた。

……柔らかい。つき立てのお餅か、マシュマロか。いや、両方混ぜたやつ。


「ひゃっ、ひゃにひゅるの!ひぇい……はなひてっ!」


言葉はほぼ溶けているのに、抗議のニュアンスだけは完璧だ。ぷるぷる震える手、じたばたする足。

……待って、こんな場面でときめくの、倫理的にアウトじゃない?

でも、今の私は王子で、彼は私の顔で――いや、ややこしい!


「……あ」


頬をこね回していた指先に、ふいに電撃みたいな記憶が走った。

あの『請求書』。額の桁。妙に綺麗すぎる明細。差し戻したはずの稟議が、いつの間にか通っていた違和感。

さっきの巨大アドバルーンと、あの悪趣味な垂れ幕。胸の中で点が、カチッと繋がる。


「ねえ、ルカ。……私が入れ替わる前さ。学園内で特別な護衛がついたり、マンツーマンの補習授業を受けたりしたこと、あった?」

「ひぃえ?ひゃかったよ?」

「ごめん、何言ってるか全然わかんない」

「もうっ!レイがいつまでも離さないからだよ!」


ぷんぷんしながら、ルカが私の手を振り払う。

離した途端に空気が冷えて、私の指先だけが名残惜しくなる。……いや、名残惜しがるな。

それでも彼の頬は、ほんのり林檎色のままだった。


「あ、ごめんごめん。……でも、やっぱりそうか」


私が確信したのは、学園の運営実態と、王宮からの支出の不一致だ。

私が入れ替わってからも、特別な護衛も補習も一切行われていない。

少なくとも、私の目に見える範囲ではゼロ。

それなのに帳簿上では、それらの名目で王宮から学園へ、多額の『王太子教育寄付金』が流れていた。


私が差し戻した稟議を、私以外の『誰か』が裏で承認し、金を通した。

つまり――学園のどこかに、金と引き換えに見て見ぬふりをしている人間がいる。


ルカの不名誉な噂が学園でこれほど野放しにされているのも、これで合点がいく。

上層部を買収し、ルカを『無能』のまま放置する。成績も評価も落ちれば落ちるほど、派閥は得をする。

そして世論が傾いたところで弟君を担ぎ上げる。……分かりやすすぎて腹が立つ。


「ルカ。……私たちが元の身体に戻った後、あんたが胸を張って王太子として生きていけるように。私はこの『無能』のレッテルを剥がしたい」

「……そんなこと、本当にできるの?」

「私の推測が正しければ、尻尾は掴める。……でも」


私は空に浮かぶ巨大なアドバルーンを見上げながら、言葉を選んだ。

祝福の形をしてるくせに、どう見ても誰かの財布と悪意のにおいがする。


「不正の証拠になる書類は揃えられると思う。だけど、それだけじゃ弱い」

「そうなの?」

「トカゲの尻尾切りで終わらされる可能性があるから。『担当者が勝手にやりました』で片づけられたら、元を断てない」

「狡いよ……。じゃあ、どうしたらいいの?」

「決定的な場での『自白』。誰にも言い逃れできない証言が必要なの。でも、素直に吐くとは思えないし……」


腕を組んで考え込む私に、ルカがハッとしたように顔を上げた。


「……自白させる方法?それなら、レイ。一つだけ、心当たりがあるよ!」


ルカの表情がぱっと明るくなる。

その瞳には、かつての弱々しい王太子の面影はもうない。

聖女としての清らかさ――だけじゃなくて、私と並ぶと決めた少年の強さが宿っていた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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