第一話 レイの異世界転生の幕開け③
「えっ……嘘、ちょっと……!?」
その苺パジャマ、某ファストファッションのワゴンセールで三千円で買ったやつじゃん!
襟元ちょっとヨレてるし、毛玉もできてるやつ!
しかも寝起きのままなのか、髪が微妙に跳ねてる。
あああ、やめて。私の人生、今まさに公開処刑。
王族だか貴族だかが居並ぶこの超絶フォーマルな空間で、私の身体だけが、最高にリラックスした格好で立ち尽くしていた。
あまりの恥ずかしさに頭に血が上り、私は周囲の制止を振り切って駆け寄る。
王子ボディ、足が軽い。軽いのに、心は重い。
そして自分の身体に掴みかかった。
「ちょっとあんた!!私の身体を今すぐ返しなさいよ!!!というか、なんでそんな格好なの!?せめて着替えなよ、二十歳女子の尊厳を守ってよ!」
私の必死の叫びを無視するように、目の前の私は、気まずそうに目を左右に泳がせた。
それから視線を斜め下へと逸らす。
その内股気味の立ち姿、私だってそんなにしおらしくしてないのに!
というか、そんな目で床を見るな。床には何も落ちてない。
「ルーカス。聖女に対して無礼は許さぬぞ」
頭上から降ってきたのは、おじさん――たぶん王様――の厳格な声だった。
『ルーカス』。今の私の外側の名前。
そうか、この身体の持ち主である美少年、ルーカスっていうのか。
「私が聖女ぉ!?どこが!?どう見ても寝起きの大学生なんですけど!」
「……ルーカス、お前は何を言っているのだ。混乱しているのか?」
訝しげな視線を向ける王様は、私の抗議などただの戯言としか思っていないらしい。
いや戯言じゃない。私の人生の危機なんですけど。
彼は厳かに言葉を続ける。
「まあよい。伝説の通り『聖女』が現れたからには、この世界の理を学び、我が国を導いてもらわねばならぬ。それが予言された王家の責務だ」
導く、って……。
鏡を見てほしい。そこにいるのは単位ギリギリ、昨日も前期試験の勉強をしながら深夜までポテチを食べていた平凡な女子大生だ。
女子大生に世界を導かせるなんて、この国、正気なの……?秒で滅ぼすよ?主に私が。無自覚に。
「ルーカス、お前には学園で聖女と共に行動し、その身を護る役目を与える」
「……なんて?私、義務教育どころか二十歳で成人してるんですけど!」
私の混乱をよそに、儀式は淡々と進んでいく。
否、儀式というより――王族のスケジュールは、人の都合など知らないらしい。
小一時間後。
ようやく着替えを済ませた私と、私の身体が対面する流れになった。
「まあ!聖女様、なんてお似合いなのでしょう!!」
「本当に可愛らしい……!まるで春の妖精のようですわ!」
侍女たちに囃し立てられ、鏡の前でまんざらでもなさそうな顔をしている私の身体。
着せられているのは白と青を基調にした、コスプレ衣装顔負けのフリフリ制服。
胸元のリボンはやたら大きく、スカートはふわっと広がって、袖口にはレース。
あろうことか私は――いや、私の身体は、くるっと軽やかに回ってスカートの裾を翻してみたり。
さらに、子供の頃ですら恥ずかしくてやらなかった高めのツインテールを揺らし、やたらキラキラした笑顔を振り撒いている。
拍手まで欲しそう。おい。誰が許可した。
……正直、めちゃくちゃ可愛い。
自分の顔なのに、中身が違うだけでこんなに守ってあげたい感が出るものなの?
いや、それ以前に。
「…………むかつく」
言った瞬間、執事の視線が刺さった。
「殿下、何かおっしゃいましたか?」
「ううん、なんでもない」
猛烈な苛立ちがこみ上げる。
私の顔で、私以上に女子を楽しそうにするな。
私の人生の残りHPを、勝手にアイドルみたいに消費するな。
「ちょっと二人きりにしてくれる?殿下としての話があるから」
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