表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】入れ替わり聖女は恋を知る~王子だった僕が、初恋で世界一かわいくなるまで~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/58

第十三話 ルカ、プロポーズされる①

ついに、夜会の日がやってきた。

一ヶ月もの間、冷戦状態だった僕とレイ。


まともに会話もできないまま、僕はネイビーブルーの豪奢なドレスに着替えさせられていた。


「聖女様、背筋を伸ばして。こちらの衣装を身に纏えば、今宵の主役は間違いなく貴女様ですわ」

「これ……本当に僕が着るの……?」


返ってくるのは、にこやかな無言。つまり拒否。


レイの身体になるまで、美しさを維持することがこれほどまでの重労働だなんて、僕は想像もしていなかった。

まず、下腹部を情け容赦なく押し潰すコルセット。


「息が……っ、吸えない……」

「もう少しだけ、ぐっと締めますわよ!」

「ぐえっ」


肺が半分になったような圧迫感。

いや半分どころじゃない。右肺、どこいった?潰れたかもしれない。

さらに追い打ちをかけるように、頭皮まで引っ張り上げられながら、複雑なアップスタイルに髪を編み上げられていく。


「痛っ、痛いよ!頭の皮が剥がれそう……!」

「美のためですわ、聖女様。耐えてくださいませ!」


美のため。そう、美のため。……美って、拷問なんだ。


念入りすぎるお化粧――

ファンデーション、アイシャドウ、チーク、リップ、マスカラ。

塗り重ねられるたびに、皮膚が呼吸を忘れていくような感覚に陥る。

顔が仮面になっていく。


「絶対に、目は開けないでくださいね」

「は、はい……」


まぶたの上を筆が滑るたび、くすぐったいのと怖いのが同時にくる。

くしゃみが出そうになるのを我慢する。


仕上げに履かされたヒールの高い靴は、もはや歩かせるための道具とは思えない。

爪先に全体重がかかり、一歩ごとに鋭い痛みが走る。

これ、武器だ。きっとかかとで人を殺せる。


「……これで、あの大広間を歩くの?冗談だよね?」

「慣れですわ。貴婦人方は皆、この痛みすら微笑みに変えて優雅に舞うのです」


慣れ、って……

この世の女の子たちは、皆こんな思いをしながら夜会に参加し、重いドレスを捌いて、断れないダンスを踊っていたのか。

……女の子、すごい。心の底から尊敬する。


ようやく支度が整い、会場へと向かう。

廊下を歩くたび、長すぎるドレスの裾を踏みそうになり、何度も転びそうになる。


今夜、慣例通りなら最後に入場するのは王太子。

そして僕は、彼女の隣に立つ『聖女』。主役の付属品みたいに見えるかもしれない。

でも……今日は、付属品でもいい。隣に立ちたい。


喧嘩中だし、特に何の約束もしていない。

けれど、僕はどうしても一緒に入場したくて、会場入り口の大きな観葉植物の影に隠れて、彼女を待つ。

植物の葉が顔に当たってちくちくする。……痛い。いや、今日は全部痛い。


じっとしていると、心臓の音がコルセットの圧迫を突き抜けて聞こえてくる。

なかなか来ない……。ひょっとして、僕と会うのが嫌で、公務をすっぽかしたんじゃ。

そんなはずはない。レイは責任感が強い。むしろ、僕がどれだけ避けても、仕事だけは完璧に片付ける。


でも、一ヶ月も拒絶し続けた僕のことを、彼女はどう思っているんだろう。

いっそ今から彼女の部屋まで迎えに行こうか。

いや、行ったら余計に嫌がられる?でも、このまま何も言えないのも――。


そう思い、踵を返そうとした瞬間。

目の前に、レイの姿があった。


「わあぁっ!!?」

「……何してんのよ。入り口で不審者みたいに固まって。入らないの?」


びっくりして足がもつれ、高いヒールのせいで派手に転びそうになる。

レイが呆れたような顔で、僕の細い腕をがっしり掴んで支えてくれた。

手のひらが熱い。触れられたところだけ、痛みが消えるみたいに感じる。


「レイ……!!?……は、入る、つもり……だけど」

「そのつもりなら、ちゃんと立って。転ぶと危ないよ」


至近距離。

一ヶ月ぶりに間近で見る、僕の姿。

見慣れた自分の顔のはずなのに、どうしようもなく格好良く見えてしまう。

僕とは違い、視線が真っ直ぐで、背筋が伸び、全身から堂々とした覇気が溢れ出しているからだ。

……ああ、きっと王太子って、こういう人なんだ。


そして僕は、彼女の正装に目を釘付けにされた。

白を基調とした王太子の礼装。そこに翻るマント。


何の相談も、合わせる約束もしていなかったのに。

レイが身に纏っているマントの色が、僕のドレスと全く同じ――ネイビーブルーだったんだ。


「え……嘘でしょ……」


夜会のために作られたこのドレスの色。

僕の衣装は他の色もたくさんあったはずなのに。


選んだの?わざわざ、この色を?

レイは王族や貴族の風習なんて知らないかもしれない。知らない……はず。

でも、異性が衣装の色を合わせることは、『特別な関係』を公言するのと同じなのに。

『婚約者』とか……あるいは、唯一無二の『恋人』とか。


僕だけが勝手に舞い上がっている。そんなのわかっているのに。

それでも、彼女の横に立つことが許されたみたいで、顔が火照るのを止められない。熱い。胸の奥まで、熱い。


「どうしたの?顔、真っ赤だよ。体調悪い?」

「な、なんでもない!!暑いだけ!!」

「暑いなら、なおさら早く中に入ろ。宰相の話、聞かないとなんでしょ」


レイがすたすたと歩き出す。その背中に、いつもの迷いがない。

……置いていかれないように焦って、僕も一歩踏み出した。


「うん……待って!」


慌ててついていこうとするけれど、慣れないヒールのせいで、生まれたての小鹿みたいに何度もよろけてしまう。

足が痛い。裾が邪魔。息が苦しい。なのに、彼女の横に並びたいだけで、全部我慢できる。


「大丈夫?ほら、つかまって」

「……っ」


レイが無造作に差し出してきた手。

僕はそれを、祈るような気持ちで握りしめた。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ