表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】入れ替わり聖女は恋を知る~王子だった僕が、初恋で世界一かわいくなるまで~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/58

第十話 レイの聖女詐欺②

「わぁ……!」

「聖女様だ!本当に現世に舞い降りたんだ!」

「なんてお美しい……!」


地鳴りみたいな歓声が上がる。

あーあ、ハードルが上がりまくってるじゃない。


隣のルカは完全に顔面蒼白で、繋いでいる私の手まで凍りつきそうだった。

指が白くなるほど力が入っていて、呼吸も浅い。私は気づかれないように握り返し、親指で一度だけ背中を撫でた。落ち着け。ここで倒れたら、私も巻き添えだ。


「ル〜カ!大丈夫だってば。ほら、口角上げて。笑って!」


私は小声で囁きながら、彼――私の顔をした聖女様の頬を、指先でくいっと持ち上げた。

柔らかい。……自分の頬なのに腹立つくらい柔らかい。


「だって……レイ……僕、もし何も起きなかったら……」

「ぷっ。何も起きないのなんて、わかりきってたじゃん」

「そうだけど……」

「いい?私はただの女子大生。でも今の私の見た目は、誰がどう見ても完璧な聖女なの。客観的に見て非の打ち所がないんだから、胸を張って!」


トン、と背中を力強く押す。……いや、押したのは私の身体だけど。

それでもルカは一瞬だけ肩をすくめて、すぐに小さく頷いた。


「う、うん……頑張るよ」


心細そうで、でも決意を仕舞い込んだ背中。私はその後ろ姿を見守る。

本当は腕を取ってエスコートしてやりたい。けれど儀式の最中は王子も一歩下がらなければならない――

『威厳』とか『距離感』とか、めんどくさいルールだ。


天井が馬鹿みたいに高い神殿の中、足音がやけに大きく反響する。

香の匂いが濃く、空気が重い。ルカは祭壇に向かって、一人で歩いていく。


祭壇に鎮座しているのは、透明な丸い石。

あれが『幸福の石』か。ライトみたいな光源は見当たらないのに、石だけが淡く艶めいている気がする。


静寂の中、ルカが震える手をその石に添えた。

……静かだ。心臓の音が聞こえそうなほどの沈黙。誰かが息を呑む気配まで伝染する。


けれど、石は何の変化も見せない。

なるほど。ルカが言っていた『大丈夫』の理由が、今ならわかる。

最前列の私ですら、石がどうなっているのか判別しにくいほど、祭壇の周囲は薄暗い。しかも距離がある。要するに、見えたって言い張ったもん勝ちだ。


……でも、このまま終わらせるわけにはいかない。

ルカに自信を持ってほしい。彼がこの先、堂々と笑えるようになってほしい。

聖女として崇められるなら、その土台くらいは私が作る。今だけは、悪役でもいい。


「……光ってる。なんて神々しいんだ……」


私は誰に言うでもなく、しかし周囲に確実に届く大きさで呟いた。

少し大げさに。芝居がかった、儀式っぽいトーンで。


「え?」


隣に立っていた、いかにも信心深そうな貴族のおじさんが即反応した。

ほら来た。食いつきがいい。


「えっ、今……殿下、光ったとおっしゃいましたか?私には、よく見えませんが……」

「ええ?何を言っているんです。あんなに眩い光が溢れているというのに。……まさか、あなたには見えないのですか?」

「あ……ええ、いや……その……」

「……そうですか。あんなに神々しい奇跡が起きているのに。ひょっとして、信心が……足りない?」


私は冷徹な王子の表情を作り、意地悪く囁いた。

声量は小さく。でも言葉は刺す。王子の立場って便利だな。


「も、もちろん見えますとも!!おお、なんと!光り輝いております!!奇跡だ!!」

「そうです!さすが聖女様!国を照らす慈悲の光だ!!」


おじさんが焦って叫ぶ。それに合わせて、私もさらに声を張り上げた。

するとその会話は、さざなみみたいに神殿中へ広がっていく。

人の耳って、都合のいい言葉だけ拾うよね。


「光った!今、光ったぞ!」

「私にも見えた!ありがたい!」

「おお、なんて眩い後光だ……!」

「聖女様万歳!!」


集団心理とは恐ろしい。まさに『裸の王様』状態。

誰かが『見えた』と言えば、見えない自分を恥じる人々が次々と同意し、やがてそれは確信へと変わる。

……この国、だいぶチョロい。いや、私が悪いのか。


「聖女様!!」

「奇跡の再来だ!!」


神殿は割れんばかりの拍手と熱狂に包まれた。

あまりの騒ぎに、祭壇の前でルカが呆然と振り返る。

目が合った。彼は状況を把握したのか、私の小賢しい小芝居に気づき、ぷっと吹き出しそうになるのを必死に堪えている。唇がひくひくしてる。


ちょっと、聖女なんだから笑わないの!厳かにしないと……!


私は目配せで叱る。……つもりだったのに。

ルカの表情はこれまでにないほど柔らかく、肩の力が抜けて、解き放たれたみたいに明るくなっていた。

それを見た瞬間、胸の奥の固いものが少しだけ溶けた。よし。成功。


こうして、聖女は国中の人々に『本物』として認められたのだ。たぶん。勢いで。


「聖女様、ありがとうございます!」

「どうか我が家にも祝福を!」


熱狂的な人々に囲まれ、またルカがおろおろと緊張し始める。

指先が私の手を探して、迷子みたいにうろつく。私はそっと手を差し入れて繋いだ。


少しばかりの罪悪感はある。あるけど――今は、彼のこの穏やかな笑顔を守れるなら、詐欺師にだってなってやる。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ