第十話 レイの聖女詐欺①
ルカの初めての生理もようやく落ち着き、顔色が戻ってきた、ある晴天の日。
「体調はもう万全?お腹、痛くない?」
「うん!レイのおかげで、もうすっかり大丈夫だよ!」
そう言って――にこっと微笑む私の顔。
病み上がりとは思えないほど澄んだ笑顔。……くそ、かわいい。
いよいよ、延期されていた神殿への参拝が決まった。
部屋は朝から戦場で、侍女さんたちが私に正装を着せる手を一切止めない。
ボタンが無限にあるんじゃないかと思えるほど複雑なジャケット。
金糸の刺繍。
肩に乗せられた飾緒は、見た目よりずっと重い。
「殿下、本当にお似合いです!本日の凛々しさは格別でございますわ!」
「そ、そう……?ありがとう」
頬を染めて盛り上がる侍女さんたちに、私はぎこちなく笑い返す。
マントを羽織らされ、最後に手袋。
鏡の前に立たされた瞬間、そこには非の打ち所がない『本物の王子様』が映っていた。
「……誰、これ。本当に私?」
ルカの素材が良すぎる。
背筋を伸ばして、顎を少し上げる。それだけで、震えるほどイケメンだ。
これならドームで踊って歌える。ファンサも余裕でできる。……いや、私は何を目指してるの。
問題は、あっち。
私の顔をしたルカは、いまどんな状態なんだろう。
不安と緊張で胃がキリキリする。
まさか、本当に光ったりしないよね?私、そんな発光体になれた覚えないんだけど?
「殿下。聖女様のご準備が整いました。玄関先でお待ちです」
「わかった。すぐ行く」
廊下に一歩踏み出すたび、マントの重みが肩に食い込む。
歩幅も速度も、周囲の目も、全部が王太子仕様。
ルカは『聖女はただの象徴だ』なんて言っていたけれど――本当に?象徴がこんなに緊張する?
城の正面玄関。
そこにいたのは、純白の衣装をまとった一人の美少女だった。
……いや、美少女なんて言葉じゃ足りない。
光を背負った『聖女』そのもの。目が勝手にひれ伏しそう。
「……どうかな、レイ?変じゃない?」
「変なわけないでしょ!聖女じゃん!本物より本物っぽいじゃん!!」
本物の聖女なんて見たことないけど。
目の前のこの子が聖女じゃないなら、なにが聖女だというの。
私の顔をしたルカが、恥ずかしそうに裾をつまんで、くるりと回る。
その動きだけで、白がふわりと舞って、周囲の空気まで清められた気がした。
度肝を抜かれた。
衣装はシンプルなのに、計算し尽くされた上品なシルエット。
繊細な刺繍はところどころ淡く光って見える。……見える、じゃなくて、たぶん光ってる。
それ以上に驚愕したのは、私の顔の『アップデート』具合だった。
まつげ、なにこれ。マツエク百本いった?瞳を縁取る勢いでバサバサ。
肌にいたっては、寝ている間に最高級の美容クリニックへ搬送された?ってくらい、すべすべツヤツヤ。
毛穴?何それ美味しいの?と言わんばかりの超絶美白。
髪もトゥルントゥルンで、天使の輪が二重三重に輝いている。
……え、私って本来こんなポテンシャルあったの?
いや、ない。絶対ない。
「すごいね……。なんだか、お嫁さんみたいだよ」
「えっ!?お、お嫁さん……?」
ルカが耳まで真っ赤にして俯く。
だから、なんで私の顔を使ってそんなに可愛く照れるのか。ずるすぎる。
ついでにこっちの心臓にも悪い。
「行こう、ルカ。……いや、聖女様」
「う、うん……」
王子としての役割を思い出し、私はそっと手を差し出した。
握り返してきた指先は驚くほど冷たく、かすかに震えている。
手袋越しでも分かるくらいだ。……大丈夫、私がいる。今は。
豪華な馬車に揺られること数十分。
城とはまた違う、威厳に満ちた荘厳な建物が見えてきた。
天を突くような尖塔。
街中に響き渡る重厚な鐘の音。
建物自体が微かな光を孕んでいるみたいで、高い窓から差し込むステンドグラスの色が、大理石の床に万華鏡のような模様を落としている。
息をのむほど綺麗――なのに、私の胃はますます痛い。
聖女降臨の告知があったせいか、神殿の前には黒山の人だかりができていた。
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