第九話 ルカの初恋②
論理的。わかりやすい。しかも、相手を置き去りにしない。
僕がずっと欲しかった「導いてくれる誰か」を、レイは自然にやってのけてしまう。
「さすが殿下だ……!」
「こちらに関しても、ぜひ殿下のご意見を賜りたい」
「殿下、機会があれば次の視察に、私も同行させていただきたく!」
「先日提出されたレポートをまとめて、学術論文として発表されては……」
男子生徒も、先生も、口うるさい政務官たちも、誰もが今の『王太子』を絶賛する。
僕がどうしてもできなかったことを、彼女はさらりと、なんでもないことみたいにこなしてしまう。
嬉しい。誇らしい。救われる。
……でも、その分だけ、胸が苦しくなる。
夜。城に戻れば、公務と執務が待っている。
以前の僕は、ロウソクの火が短くなるのを見つめながら、終わらない紙の海で溺れていた。
それを、レイはたった数時間で片付けてしまう。
「ふぅ、終わったー!今日もいい仕事した!」
書類の山を綺麗に仕分け終えたレイが、椅子の上で大きな伸びをする。
時計を見る。まだ夜の九時。信じられないくらい早い。
「ん?これでも大学では政経専攻だったし、バイトで事務作業も叩き込まれたからね。コツを掴めばこっちのものだよ」
「……そうなの?でも、本当に凄いよ。僕には、魔法みたいに見える」
「ルカも凄いじゃん。私が教えたこと、ちゃんと吸収できてるし。この前の小テスト、満点だったでしょ?」
「う、うん……。レイが、勉強する時間をくれたからだよ」
嬉しい。胸が熱くなる。
でも同時に、胸の奥がキュッと締め付けられる。
レイが笑う。僕の見慣れた、自信のなかったはずの顔で。
可愛い、って思ってしまう瞬間もある。格好いい、って思ってしまう瞬間もある。
どっちなんだろう。分からないのに、目が離せない。
僕なんかより、よっぽどレイの方が、この国の王太子に相応しいんじゃないか。
頭が良くて、優しくて、気が利いて、みんなから心から愛されている。
ちゃんと一年後に、この身体を返そうと思っていた。
いや、返すつもりだ。絶対に返す。
でも、返す時が来るのが怖くなってしまうのも、本当だった。
レイがいなくなったら、僕はまた一人ぼっちになる。
誰も僕に話しかけてくれなくなる。
真っ暗な部屋で一人、終わらない書類に埋もれる日々に戻るんだろうか。
――それより何より。
レイが、僕の前からいなくなるのが、耐えられない。
「ルカ?どうしたの?ボーッとして」
「え……っ」
「なんか、最近元気ないね。無理してない?なにか悩み事あるなら聞くけど?」
「な、なんでもないよ!全然大丈夫!」
慌てて顔を背けるけれど、彼女の手が僕の頭にそっと置かれた。
慈しむように、優しく撫でられる。
その指先の温度だけで、胸の奥がどくん、と跳ねる。
……ドキドキする。やばい。
これ、本当に、本気でやばい。
僕、レイのこと……。
「さ、今日は早く終わったし!ルカがお土産で持ってきてくれたパイ、一緒に食べよっか」
「う、うん!食べる!」
返事をする僕の心臓が、耳元まで響くほどうるさい。
僕の中に渦巻くもやもやは、日に日に大きくなって、輪郭をはっきりさせていった。
一年後。考えたくない。
考えたくないのに、時間だけが落ちていく。
レイと離れたくない。
ずっと、隣にいたい。
身体を返したその瞬間に、レイに会えなくなってしまうのが――僕は、たまらなく嫌だ。
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