第四話 レイの風呂キャン提案②
私の顔を使って、必死に無茶苦茶な説得を試みてくるルカ。
可愛い。いや違う。それは私の顔だ。
でも、その潤んだ瞳で見つめられると、なぜか断りきれない不思議な圧がある。
逃げようとすると、罪悪感が追いかけてくるタイプの圧。
確かに、この身体の中身は私。で、目の前にいるのも私。
私が私を私で洗う。言葉にすると正しそうで、現実は狂ってる。
……でも、侍女さん総出のお清めよりは、まだマシ。
比較対象が地獄すぎて判断力が壊れる。
「…………~~~~っ!!もうっ、わかったわよ!入ればいいんでしょ、入れば!!」
結局、私は自分の身体の『尊厳』を守るために、自ら戦地へ赴くことを決意した。
守りたいものが多すぎる。
ルカはほっとした顔をするな。こっちは今から精神が死ぬんだよ。
部屋に備え付けの浴室は、もはや一つの神殿みたいで、一面の白い大理石。
天井にはクリスタルのシャンデリアがきらきらして、湯気の向こうで光が砕ける。
大きなアーチ窓の外には、月明かりに照らされた中庭。噴水の水音が遠くに聞こえて、妙にロマンチック。
壁のライオンの口からは、湯気と一緒に、こんこんと豊かなお湯が溢れ出していた。音が、やたら気持ちよさそうで腹が立つ。
何より浴槽がデカい。十人は余裕で泳げそうなサイズだ。
湯面がゆらゆら揺れて、私の覚悟も一緒に揺れる。落ち着け、私。
「うわぁ……これ、学食のビュッフェに続いて、お風呂も銭湯レベルじゃん……」
「せんとう……?それは、戦う場所のこと?」
「そうね。ある意味でこれは戦場……!!」
言った瞬間、ルカがごくりと唾を飲む音がした。私の顔で。
こっちはこっちで、タオルを握る手が汗ばんでいる。変な汗だ。戦闘前の汗。
「じゃ、じゃあ……脱ぐね。約束通り、僕、目は開けないから……」
「ちょっと待った、ストップ!!」
「えっ、何!?」
「裸を無防備に見られたくないって言ってるでしょ。いい?ルカはそのまま目を瞑って、動かない。私が……責任を持って脱がせる」
「……ええっ、レイが脱がすの……?」
「言い訳しない。はい、万歳!」
「うぅ……また、万歳……」
私の顔で、恥じらいと期待が混ざった複雑な表情をしないでほしい。
破壊力がある。可愛い。腹が立つ。最悪の三段活用。
……だめだ。今から私の身体を全裸にする。
いや、服を脱がせるだけだ。作業。事務。手続き。
そう言い聞かせても、意識が嫌でもそこに吸い寄せられる。
私は深呼吸を一つして、事務的にボタンを外し始めた。
一つ。二つ。三つ。
指先が触れる布地の温度が、妙に生々しい。自分の体なのに、よそよそしい。
ジャケットを肩から抜き、シャツの襟元をそっと引いて脱がせる。
そして……最後に下着。ここだけは、さすがに喉がカラカラになる。
「……ごめん、後ろ向いといて」
「えぇぇぇ……」
文句の声が可愛いのが腹立つ。
私は全裸の私の身体をくるりと回転させた。
「いい?今から私も脱ぐけど、万が一にも目を開けたら……その時は、この王子の体を二度と使い物にならなくしてやるからね!」
「二度と!?……わ、わかった!絶対に開けない!誓うよ!」
その必死さ、余計に不安になるんだけど。
呪文を唱えるみたいな気持ちで、自分の服を脱ぎ捨てた。
鏡の前に立つのは、全裸の男の身体。
どこまでも無垢で、かつ、今朝散々私を苦しめた『構造的欠陥』を搭載した、若き王子の裸体だ。
「…………き、気持ち悪い……っ」
「えぇっ!?ひどいよレイ、自分の体なのに!」
「うるさい!今は触れないで!見ないで!っていうか喋らないで!」
自分の中身が女である以上、この視覚情報は毒でしかない。
私は震える手でタオルを掴むと、半ば投げつけるみたいに腰へ巻き付けた。
布の感触があるだけで、少しだけ正気が戻る。少しだけ。
こうして、前代未聞の自分と自分の混浴という狂気のバスタイムが、開幕したのである。
誰が望んだ。私は望んでない。
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