第四話 レイの風呂キャン提案①
「……あの、レイ。その……お風呂……なんだけど」
これまた豪華すぎて、逆に味の記憶が薄い夕食を終えた。
銀のナイフも、並びすぎた皿も、上品すぎるソースも、脳が処理しきれない。
満腹なのに食べた感がないのが一番こわい。
もはやスイートルームのような王子の自室に戻った瞬間、ルカが申し訳なさそうに私の服の裾を指先でつまんできた。
その、上目遣いで袖を引く仕草。
やめて。私の顔でそれやると破壊力が強すぎて、逆に腹が立ってくるから。
可愛いのにムカつくの、最悪だ。
「うん……。さすがに、その……限界というか……」
「…………マジで言ってる?」
「一人で入っていいなら、それが一番なんだけど」
「それはダメ」
お昼のトイレ介助、計三回。
あれだけで私の精神ゲージは真っ赤の点滅、警告音つきだ。
なのに、お風呂。お風呂はトイレと違って拘束時間が長い。逃げ場もない。
何より、隠せる面積がゼロになる。ゼロ。完全オープン。地獄。
「ねえ、いっそのこと今日はお風呂、入らなくてよくない?一晩くらい熟成させたって死にやしないよ」
「えぇっ!?だ、ダメだよ、そんなの!」
「大丈夫だって。テスト期間に徹夜で課題やってた時、三日くらい入らなくても平気だったもん。人間、乾燥してれば案外腐らない」
「三日……!?それはちょっと、女の子としてどうなの……?」
あ?中身男に、女としての在り方を説かれるって、どういうことよ。
ルカが私の顔で、本気で引いたような表情を見せる。失礼だな。
風呂キャン界隈ではないけど、女子大生の修羅場を舐めないでほしい。
締切前は人間性より単位が優先されるの。
「というか……今の僕は一応『聖女』として扱われているから。もし僕が汚れたままだったら、周りの侍女さんたちが黙っていないと思うし……不潔な聖女なんて、この国の信仰に関わるよ」
「あ~……。そういえばそうだったわね」
今の私は、ただのどこにでもいる女子大生じゃない。聖女だった。最悪。
朝、私を着替えさせてくれた侍女さんたちの、あの獲物を狙うようなギラついたプロ意識を思い出す。
彼女たちはこの身体が男だとか、そんな細部は一切気にせず、完璧に『聖女様』を仕上げてみせた。
もし入浴を拒否すれば、彼女たちが総出で「聖女様をお清めいたします!」と突撃してくる未来が見える。私の尊厳が集団戦で負ける。
「……じゃあさ、目隠しをして、とりあえず湯舟だけとか?」
「無理だよ。部屋に備え付けの浴室は全部床が大理石だし、石鹸も滑りやすいんだ。絶対に転んで頭を打って……溺れる」
即答だった。
案外、自分の身の安全に関してはシビアらしい。そりゃそうか。私の身体だし。
「じゃあ、外から声をかけながら指示を出してくれたら……」
「それ、見ないにしても、私の裸を触るってことでしょ?却下」
「えぇぇ……でもお風呂入りたい……」
「じゃあどうすんのよ!?詰んでるのよ!!」
私が頭を抱えて唸っていると、ルカが顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声でとんでもない提案をしてきた。
「あの……それなら、レイも……一緒に入る……っていうのは、どうかな」
「はぁ!?あんた、正気!?」
「だ、だって!二人ともバラバラに目隠しして入るより、二人で支え合って入る方が安全だし!それに……」
「それに?」
「……レイの身体を、レイ自身の手で洗うなら……その……倫理的に、セーフじゃないかなって……」
「どこがセーフなのよ!!理屈が迷子すぎて意味不明なんだけど!!」
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