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【才能ないって見下してきた奴らを見返したい‼︎】

掲載日:2026/01/31

「ごめん、本当に悪いんだけど抜けてくれないかな…」

 ゲーム仲間の桐壁大樹(きりかべたいじゅ)の声。

 ヘッドセット越しのその声は、申し訳ない感じ

 でも実際は、もう結論が出ている声だった。

 pc画面には、さっき終わったランクマッチの戦績画面

 敗北ーーマイナス28ポイント

 いつも通りスコアボードの一番下に俺、瓜原颯真(かわはらそうま)の名前が沈んでいる。

 4キル8アシスト14デスーー1番上とは天地の差だ。


(………)

 マウスを握る手に、じっとり汗がにじんだ

 首から背中にかけて少しひんやりとする。


「な、なんでよ、」

 自分の声が、思ったよりも弱々しく響く。

 まあ、なんとなく言われた理由はわかっている。

 エイムは悪いし、判断は遅いそのせいでチームは何度も人数不利を背負い

 結果、6連敗ーー俺が弱いせいだ。


「そ、それはー」

 言いよどむ声、きっと大樹なりに言葉を選んでいるんだろう

 大樹は昔からこういうときに直球を投げない、変に優しいから


「お前、弱いからだよ」

 被せるように、別の声が割り込む。

 いつもスコアボードの一番上にいる男、黒瀬迅(くるせじん)の声だった

 直球、そして正論だ余計な装飾も、情けもない

 胸の奥を、鋭いナイフで叩き刺されたみたいに痛かった。

 黒瀬はいつもこうだ、正論で、確実に急所を突いてくる正論マン

 通り魔かよクソが、正直ちょっと苦手。


「ええ、それは…そうだけど、でも」

 反論になっていない反論

 正論に反論できるわけない

 俺は弱い、だから勝てない、だからランクも上がらず下がり気味。


「俺たちはランクを上げたい、抜けてくんね」

 その言葉は、静かで、冷たくて、正しかった“正しい”からこそ残酷だった。

 俺は何も返せなかった、カーソルが自分の名前の上で止まる。

 左クリックでメニューを開き、無言で退室。


「本当にごめん!」

 大樹の声。


「よし、じゃあ別のやつよb」

 続く迅の声をなるべく聞かぬよう、通話も即座に切断。

 ーー自室に、唐突な静寂が落ちた。


「はぁ……」

 ヘッドホンを外す、耳が圧迫されていたため少し痛い。


(なんだよ……所詮ゲームじゃないか)

 そう思おうとしたが続かなかった。


(……でも、あいつらにとっては、きっとそうじゃないんだろうな)

 迷惑をかける、変に固執して嫌われるよりはずっとマシ

 抜けて正解、正しい事をしたそんなの頭では分かっている。

 ……でも、腑に落ちない。


「弱い…か」

 正しい、やっぱり間違いなんて何処にもない

 だが…やっぱり黒瀬に言われるとムカつく。

 だって、黒瀬は才能がある、さっきのゲームもそう

 顔も、頭も、運動神経も俺がどれだけ頑張っても、追いつけやしない

 追いつけない理由が、ただの怠慢だったらどんなに良かっただろうか。

 黒瀬が1で手に入れるものを俺は100も200も積み上げなきゃいけない、

 それでも届かないものは届かない、やっぱり元から持っているものの差は大きい

 そう感じるようになったのは、サッカーをやめると決めた時だ。


 6歳頃から7年間、それなりに本気で続けていた。

 小学校時代の遊びで「上手いね」と言われた記憶が、今も残っている。

 だから俺は、サッカーが上手いというキャラを、唯一の個性として続けていた


 だが、辞める1年ほど前に黒瀬が入ってきた

 アイツはたった1週間で俺を追い越し、俺は準レギュラーから外れた

 居場所はなくなり、比べられ、そして言われた。「弱いね」と


 もうサッカーは楽しいものじゃなくなった。

 そして辞めた、極めるべきアイデンティティを失った。

 

 俺は努力を辞めた、本当に努力なんてクソ喰らえだぜ

 どんなにやっても勝利という結果なんてでやしない。

 努力は必ず報われるという言葉があるけれど、そんなの成功者の戯言にすぎない

 報われなければ努力ではないとでも言いたいのか?そんなの浮かばれないだろう

 才能さえ、才能さえ有ればきっと違ったはずなんだ

 不公平すぎる、だからムカつくんだ

 正しい故に何も反論できない、だからムカつく。


 そして迅はいつも俺を否定する

 理由は分からない、何かした覚えもない

 …俺が間違いかのように、いや俺は間違いなのかもしれない

 だから苦手だ。


「…」

(このまま椅子に座っていても、気分が沈むだけだな…)

(…んーそうだなー)


「気分転換に……散歩でもするかー?」

 口に出すと、ほんの少しだけ肩が軽くなる。


「よし、行くか!」

 善は急げなんて言葉を思い出しながら椅子を引き、立ち上がり、自室を出る。

 リビングでは父さんがテレビを見ていた。

 いっつも観てるけどそんなに面白いのかな?テレビって

 確かに昔は一緒に見てたけど、最近はご無沙汰、だってPCの方が面白い。


 内容を横目でチラリと確認する。

 観てるのはディべート形式で専門家が話し合うアレだ

 議題は、やっぱり最近起きた妙な地震の事だった

 3日前に日本だけじゃない、世界全体が同じ震度

 同じ時刻に揺れる地震があった


 その後、空に”変な緑のオーロラ”が現れた

 北極とかにありそうなやつがそのまんま空に

 地球を全て覆う常識を無視したオーロラだ、なんとも不思議すぎる話

 多分、世界でも滅ぶんじゃないかな?


 幸いどこも被害はなかったらしい、が面倒な事が一つある。

 それは地震以降にバカみたいに増えた未確認生物の動画だ。

 別に上げるな、と言ってるわけじゃないただ上げられすぎ

 ドラゴンが飛んでる映像を今日だけで何本見たっけか?

 全く、異世界かよここは……まあAI生成だろうけど。

 そんな事を考えながら玄関で靴を履こうとした、そのとき

 台所の方から、母がひょっこりと顔を出した。


「あんた、どこ行く気?」


「ああ、ちょっと土手まで散歩に……」


「もうゲームはいいの?」


「一旦休憩すんの」

(追い出されたんですーぅ)

 自分でも驚くくらい、素直な声だった。


「そう、じゃあ気をつけていってきてねーーあ、そうだ!」


「除草剤 ついでに買ってきてくれない? 昨日ちょうど切れちゃって」


(除草剤?また突拍子もない)


「…まあいいよ わかった、じゃあ行ってくる」

 いっつもここぞとばかりに面倒ごとを押し付けてくるんだから…

 行こうとしたところで、また呼び止められた。


「あ、あとルーザーの餌も」

 ……母親という生き物は、どうしてこうも遠慮がないんだろう?


 ルーザー、飼い犬の名前だ

 ……なんでそんな名前にしちゃったんだよ、6歳の俺

 もうちょっと他になかったのか?格好いいからって理由でそれはないだろ!


「ハイハイ」

 適当に返事をする、”いやだ”とは言わない

 ここで抵抗しても押し切られるか、嫌味を言われるだけだ

 それにそこまで苦でもないし。


「いってらっしゃい」


 その声を背中で受け取り、玄関を出る

 夕方になりかけの空気はまだ少し暖かい

 温められたアスファルトの匂いが鼻につく

 自転車にまたがり、ペダルを踏み込む。


(ルーザーか……) 

 犬の名前なのに、違う犬の名前だからこそ自分と重なる

 ゲーム、勉強、スポーツ、人間関係、努力

 全てにおいて才能なし、何もなし、無限の無

 世界から「お前才能なし!残念、無能です!」って決められた、俺

 まさしく、負け犬だ


 ホームセンターは家からかなり近い距離にある

 自転車なんて使ったら一瞬で着いてしまう

 ほら、もうついた

 さっさと買い物を終えて、袋をカゴに入れ再び自転車にまたがる。


(よし、義務お使い終了だ!)


 今度こそ、本命の土手へ

 ペダルを漕ぐ力をさらに強くする川沿いの道に入ると、視界が一気に開けた。

 草の匂い、水の音、遠くで野球をする人の声、

 土手の上にある道でペダルを強めに踏む、風が頬を切り髪を無遠慮に逆立てる


(気持ちいい)

 さっきまで、胸の奥にべったり張り付いていた悔しさが風に削られていく感じ 

 がしたそして丁度いいなーって所で自転車を止め、土手の斜面に腰を下ろす。


 黄昏時


 対岸にある二つのマンションが夕焼けでオレンジ色、

 土手の斜面もそう、水面、空気、雲

 全部一色。


 ”空に蠢くオーロラ以外は”


「はぁ」

 土手はなんだか落ち着くから好きだ、都会と自然が混じった風景。

 一人になれるし孤独になりきらないから好きだ、

 (特別)として存在できる気がするから好きだ。

 将来の不安だったり、才能の無さだったり、ここではどうでも良くなる


 ブーブー

 振動するスマホ

 グループチャットに通知が届く。

 スコアボードが貼られている。

 30キル9デス4アシスト。

 勝利ーープラス30ポイント。

 黒瀬だった。


「…なんだよ、勝ってるじゃん」

 内心、負けないかな?なんて思ってる自分がいた。

 でも思い返せば最低で、惨めで、情け無い。

 やっぱり俺は”負け犬”だった。


「…」


 すると、また通知。

 今度は個人チャット、大樹からだった。

(今日は本当にごめん!また一緒にやろう)


 謝罪


「良いよ別に、」

 別に大丈夫、と返しておく。

 なんだか少し心が軽くなった気がする。


 ブオオーー

 なんだか重い風が体を押す。


「うおっ、寒うー」

 遅くなると母さんに怒られてしまう

 寒いし早く帰ろう。


「…明日、学校かー」

 俺は齢15にして日常に、いや世界に飽きていた。

 マセてるだけかもしれないけど、

 才能、そして好きな事もないんだし仕方ないと思う。

(本当、才能とか特別な何かが有れば全部違ったはずなのになーー)

 なんでもいい、今は極めるアイデンティティが欲しかった。

 その他大勢に埋もれたく無かった。

 でも拒否しても日常(ふつう)なんて止まり(変わり)はしない。


「よし、」

 立ち上がり、背伸びをしながら空をあお…



「は?」


 背伸びの途中で思わず止まってしまう。

 周りの音が無くなった気がする、空に巨大な一つの影に目線は釘付け。

 観た事はあるーーでも現実にあるはずのない影。

 コウモリみたいな翼、頭はトカゲ、否恐竜、太い体に長い尻尾

 ゴウン、ゴウン、ゴウン、羽ばたく音がしっかり聞こえる。

 それなりの風がこちらに押し付けられる。


「”ドラゴン”……な、なんで?」

 そう言うのが精一杯。

 これは現実じゃないと思うのに現実だった。

 喉から絞り出した声は、自分でも驚くほどかすれていた。

 ドラゴンは旋回するでもなく、こっちに見向きもせず

 ただ空を横切るように、ゆっくりと進んでいく。


 ドクン!

 突然、空に浮かぶオーロラが赤色に変わり強く光り脈を打つ。

 空間が歪む様な光景、冗談抜きで世界が滅亡するならこんな光景だろう。


「今度はなっーー」


 ーーズキ


「っ!」

 突然頭の中に走る脈打つ痛みに頭を押さえる。

 時間が経てば治る、なんて甘い物ではなかった。


 ズキン!

   ズキン!

    ズキン!


 どんどんひどくなる。

 汗が滲むーー次の瞬間足元が揺れる。

 ゴゴゴ!

 地震だ、いや待て揺れてるのは俺自身?

 痛みはさらに倍増する。


「やばい…これは救急呼ばなゐ…ぽぴ…ゑーー」

 あれ?ろれつ、まわらヰゐ…⌘£※¿……ゞ………★△…〇……

 颯真の意識は闇へ沈んでいった。


 ーーーー


 ……冷たい


 最初に感じた感覚は、それだった。

 背中にじわりと広がる、岩の硬さと冷気。

 次に、耳鳴りのような静寂。


「っはあ!」


 跳ね起きるように体を起こす。

 心臓が早鐘を打ち、息を吸うたび、空気が冷たく肺に落ちていった。


 暗い、けれど別に見えないわけでもない。

 その理由は光源があったからだった。

 所々ぼんやりと鉱石のような物が青白く光っている、蛍石みたいな感じ

 規則性はなく、星をばら撒いたみたいにまばらに、

 屋内、非人工的、広い空間、岩肌。

 間違いない、ここは”洞窟”だ。


「……どこだよ、ここ」

(さっきまで俺は土手にいたはず…)

(ドラゴンを見て、なんか突然空が変になって、それから気を失って、ここにいた…洞窟だ……)

 いや、流石に訳がわからなすぎる、意味不明もびっくりなくらいには。

 夢?

 ーー試しに…いや試さなくてもいい、夢じゃないなんてわかりきってる。

 誘拐?

 ーーいやナイナイ、普通家とかアジトとかに監禁するだろ、それに拘束ないし。

 じゃあ、異世界転移みたいなやつ?

 ーー…どうしてだろう1番現実味がないのに1番否定できない。

 いやいや異世界なんてありえない!もっと現実的に考えよう

 例えば地球の何処かにワープしたとか…ワープも現実味ないじゃん。

 まあこんな状況下で現実を求めるのが間違ってるのかもしれないけど。

 そんな事を考えていたその時。


 ズキ!

 再度頭に痛みが走る。


(クソっ!またかよ!)

 来るなら来い!

 が、次に頭に入ってきたのは痛みではない、

 声、ーーいや声…じゃないかもしれない、

 意味が頭に入る様な感覚、脳内に文字が出現するみたいな。


『【…たッ..ま..せ(フォースインヴォーグ)】』

 続きはない、ただそれだけ。


(フォースインヴォーグ?なんだそりゃ?)

 フォースって英語か?ーーじゃあ…力だよな…?インはinか?

 ヴォーグは…ダメだわからない、もう少し英語勉強しておくんだった、

 ま、これが英語かどうかなんて知らないけど。

 ただ異世界転移説がなんだか説得力を帯びた気がする。

 何気なく、頭を押さえていた右手を下ろす、

 さっきまでの余韻を、地面に逃がすみたいに。

 右手は地面に触れ手にひんやりとした感覚が訪れる――そのはずだった。


 ブニッ。


「……?」

 手のひらに伝わったのは、土でも岩でもない感触。

 柔らかい、けれど、芯があるコリっとした感じ。

 人肌に近いのに、生きていない冷たさ。

 思考が、一拍遅れる。

 視界が、じわりと鮮明になった。


「……えっ」

 そこにあったのは、人だった。

 いや、人だったもの

 どうやら投げ出されていた腕に触れてしまったらしい。


「……っ」

 反射的に手を引っ込める、仰向けに倒れた男の死体。

 開いたままの目は、どこも見ていない。

 肌は青白く、触れた場所からじんわりと冷気が伝わってくる、

 気づいた瞬間、鼻の奥を突く匂いがした。

 鉄と、湿った土と、冷えた血の匂い。


(……なんで、今まで気づかなかったんだ?)

 暗かったっていうのもあるけど、こんなにも近くにあったのにも関わらず

 腐敗は、そこまで進んでいない。

 服装は、どう見ても現代のものじゃなかった。


 革と金属を組み合わせた軽装の防具、腰のあたりに剣の鞘と剣。

 アニメとか漫画でよく見る異世界の“ザ・冒険者の風貌”というのがしっくり来た

 そして腰から背中にかけて、ざっくりと走る致命傷。

 何か鋭く、大きなもので斬り裂かれた痕。


「なんだよ……これ……」

 声が、震えた。

 頭では理解したくないのに視覚と嗅覚が容赦なく事実を突きつけてくる。

 ここは夢じゃないし、ゲームでもないし、手の込んだドッキリでもない。

 現実、そしておそらく地球ではないここは異世界だ。

(やっぱり異世界転移か…?いやマジかよ)

 死体の側から腰を上げ、ブリッジもどき状態で少しずつゆっくりと距離をとる。

 コッ

「イテッ」

 今度は、何かに頭をぶつける、鉄の骨組み…安心できる感触。

 見るまでもない、


「……自転車」

 土手まで乗ってきた、あの黒いボディ。

 かごには除草剤、ペダルも、チェーンの擦れた感じも、全部見覚えがある。

 唯一現実感があって安心する、ここでは腰を下ろしても良さそうだ。


『ゲッ!』


「?」

 なんか聞こえた?気のせいか、

 (自転車…なんでここに?除草剤まで…あ!そうだ!)

 スマホがあった!すっかり忘れてた!自転車とかもあるなら持ってたりして。

 ポケットを探る、スマホーーあった!試しに電源をつけてみる。

 パッ!


「ッ!」

 ついたのは良いけど、暗闇に慣れた目に突然の白い光は少々キツイ。

 目の奥が痛くなった。

 (よし!これで色々わかるだ…)

 だがスマホ上部に”圏外”の表記。

 (いやーまあそうだよなーここ洞窟だもんな…ネットとか電話繋がるわけないか)


(うーんこれからどうしよう?連絡も無理、ここ何処かもわかんない

もし本当に異世界なら言葉って通じるのか?まあ通じるわけないよな〜

まあ、とりあえず洞窟から出て見るか?)

 そんな事を考えていたその時、お尻のあたりが突然モゾモゾし始めた。


「うわっ!」(今度はなんだよ!)

 咄嗟におろしたばかりの腰を上げ即座に退避する。


『プハっおい!誰だか知らないけど勝手に人の上に乗るなよ!』

 は?声?死体以外、人なんて何処にもいなかったはず。

 驚いてスマホを落としそうになりながらも、ライトをつけて

 声の主がいるであろう、さっきまで座っていた場所を照らす。


「へ?」


 鬼の面が落ちていた。

 材質は木、白色、2本の角が生え、目は丸く、口はギザギザ、

 鼻っぽい小さな凸以外のっぺり、シンプル、だが禍々しい。

 光を向けるなり、こっちを見つめた状態でその面は驚きの表情を浮かべる。

 動いた事に不思議と驚きはなかった。


『なっ…どっ…が』

 ?なんだコイツ、もしかしてスマホに驚いてんのか?


『何者だ?』

 驚きの表情から睨む様な顔になった


「え?何者って言われても…まあ学生だけど」


『なっ……

学生、何処からきた?それと頭に言葉が流れてたりしてないか?』


「日本です、頭に流れたり?【フォースインヴォーグ】って言われたけど」

 いや、ちょっと待てこれどうゆう意図の質問?

 その光ってるのはなんだ!とかじゃないの?

 質問を返すと鬼の面の表情が少し緩やかになる。


『日本…そうか転移者か!』


(転移者?うんやっぱりここ異世界だな 面が喋れてる時点でおかしいし)

 一応、確認の質問をしてみる。

「やっぱりここ、異世界なのか?」


『まあそうだな、お前にとっちゃ異世界だな、

 それとお前多分選ばれてきたわけじゃない…よな、災難だったな』


 災難?異世界で言葉が通じてる時点でだいぶ幸運だと思うんだけど。

「災難?選ばれて?どうゆう事?」


『お前はな、転移災害に巻き込まれたんだ

 地震とかなんかあったんじゃないか?』


「確かにあったね、」


『やっぱな、そうだよな』


 転移災害…災害って事は異世界に飛ばされたのって俺だけじゃなかったりするのか?

「災害ってことは多分、飛ばされたのって俺だけじゃないよな」


『まあそうだな、災害だしもちろんそうだ、

 でも聞いて驚くなよ…飛ばされるのは”世界ごと”だ』


「は?」

 どうゆう事だ?世界ごと?意味不明すぎる。

 異世界ってだけでまだ飲み込みかけてる状況なのに、

 その上で世界ごと?ようは地球ごと?…まだ人だけならわかんなくもないけど。


「どうゆうこと?」

 流石に意味わかんなすぎて口に出てしまった。


『仕方ない、色々説明してやるよここのこと』


「どうも、」


『ただし!条件と言うかお願いがある!』


(お願い?体を乗っ取らせてくれとか、寿命をくれとかじゃないよな…)


『俺をこの洞窟から出してくれ!』


「え?わかった」

 想像してた内容と違いすぎてちょっと拍子抜けだ。

 俺はその面を手に取り立ち上がる。


「でも、ここからの出方しらないんだけど…」


『大丈夫、俺が案内する』


「オッケーわかったじゃあ、」

 一歩を踏みだ…あ、自転車どうしよう?

 なんだか置いていくのは勿体無い気がする。

 一応持って行こうかな…まあそうするか。

 持っていた鬼の面を自転車のカゴの中に入れ押し始める。


『ん?なんだこれ?』


「自転車だよ、移動手段」


『ふーんそうか、じゃあまずそのまままっすぐ進んでくれ』


「わかった」

 俺は出口に向け歩き始めた、

 チチチチチと場違いな自転車のチェーン音が響く中、

 鬼の面が語り始めるーーこの世界の事を。


『まずここは、ネクサリアって世界だ』


「ネクサリア…」


『ネクサリアはな、“五つの世界が最終的に融合する場所”だ

今はまだその途中でな、今は“四つの世界が融合した状態”になっている』


「四つ……ってことは、じゃあその最後が……」


『そうだ、おそらく“五つ目”となるのがお前のいた世界だ』


「…地球が、」

 頑張って想像しようとはするけど難しい。

 地球じゃない別の世界が融合するならまあ、

 そんな世界なのかな〜で流せるかもしれないけど…地球⁉︎全く飲み込めない。


「ゆ、融合って具体的にどうなるんだ?」


『お前の世界…地球って言うのか?は形を変えて、ネクサリアの一部になる

地球にあったものものすべてだ、大陸も、島も、海も、生き物も』


「え?」


『今、お前にとってネクサリア(ここ)は異世界でも

いずれ、“異世界じゃなくなる”ってことだ』


 じゃあ、オープンワールドゲームに例えるならアプデで新エリアが追加される感じか?

 追加されたらマップ全域中のエリアの一つになるみたいな…?

 世界がぶつかるでも、

 地球みたいな星が近くに現れるでも、

 パラレルワールドとかでもなく。

 ネクサリアに”新エリア地球”が追加されて一つの場所として“行ける場所”になるって事…?


「いや、ちょっと待てそんなの物理的に無理だろ!」


『でも現に四つの世界が融合してるぜ?あと、そこ右の穴入って』


「え?ああわかったーーよいしょっと、でも一体どうゆう原理なんだよ…」

 郷に入れば郷に従えってあるけど

 これも頑張って飲み込まなきゃいけないのかな…一般常識として。

 融合、でも今になって納得したことがある、

 だからいるはずがないドラゴンがいたんだと。


 一泊


「地球はもうこっちにきてるのか?」


『いや、多分まだ融合しきってないはずだけど…

融合はそれなりに時間かかるんだよ、多分半年ぐらい?』


「そうなんだ、」


『次はそこを左』


「はいよ、あ、そうだ頭に入ってきた【フォースインヴォーグ】って何?」


『多分それは魂能(アビリティ)名だ…

でも普通聞こえるのは選ばれた継承(ヘンタリス)持ちの奴だけなはずなんだけどな』


「アビリティ?ヘンタリス?なんだそれ」


 少し心がざわついた、なんだかワクワクする。

 アビリティ?もしかして、特殊能力みたいなやつか?

 漫画とかアニメにある様な空飛べたりとか透明化したりするやつ、

 いつも妄想していた[もし、超能力が使えたら!]

 が現実になろうとしているのか⁈だとしたら神すぎる!

(……もし強い能力を持ってたならアイツらを見返せたりするのかな?)

 受験の結果発表くらいにはドキドキする


『まあ、落ち着けって今説明してやるから』


『まず、 魂能(アビリティ)ってのはこの世界の住人なら必ず一つ持っている祝福(ギフト)のことだ』


「全員……?それぞれ違うのか?」


『まあ、違うけど大抵は同じようなやつが多い

そして魂能(アビリティ)は——“心の方向性”で決まる』


(え?ランダムに貰えるんじゃないんだ)

「心か……思ったより、重いような」


『確かに重い、でもそれが世界のルールだ』


「強さって一律なの?」


『いや、違う魂能(アビリティ)の強さを示す指標がある

それが” 魂能強度”(アビリティレベル)だ』


『それとな、心の向きにもいろいろあるだろ

だから魂能(アビリティ)にも種類があって三つに分けられてる』


「へえ、三つ」


『まず一つ目が”安定(スタビライズ)”型だ』


魂能強度(アビリティレベル)は、1から10まで

 数字が大きいほど 魂能(アビリティ)は変化しにくくなるが、世界に干渉できるようになる』


「?干渉ってどんなもん」


『そーだな、1〜3は自分だけ、4〜5は他人も

6〜7が無機物にも、8〜9は現象までいく

そしてーー《10レベル》ともなると、干渉範囲は概念にも及ぶぜ』


「現象、概念……マジか、」

(これは結構すごい世界に来てしまったかもしれない)

 ランダムじゃない分ユニークみたいなのはないかもしれないけど、

 俺みたいなのでも強強能力使える可能性があるって事だ!


「そうだ後、変化って?」


『ああ、心って変わることもあるだろ、

 だから魂能(アビリティ)が変わったり進化したりする可能性がある』


「なるほどね」


 納得だ。

 なんだか、アビリティって生き物みたいだ、

 いや、”みたい”というか心で変わるならそりゃそうか。


『そして二つ目、特別な枠があるそれが──継承(ヘリタンス)

 魂能強度(アビリティレベル)は全て±0統一』


「ヘンタリス……さっき言ってたやつか」


『そうだ、選ばれれば死ぬまで変わる事はない!一つとして同じ魂能(アビリティ)はない

選ばれし奴らの特殊な魂能(アビリティ)、それが継承(ヘリタンス)!』


 少しだけ、鬼の面の口角が上がった。


『もちろん強さは別格、レベル換算で10相当とどれも化け物級に強い!』


「……特殊な強アビリティか」

 継承(ヘンタリス)か…結構やばそうだ。

 何一つ同じものがないのか…なんだよ、ユニークあるんじゃん

 唯一無二…… 継承(ヘンタリス)欲しいな。


「ちなみなんだけど…俺は違うの?ほら頭にアビリティ名が入って来たし…」


 少し期待がくすぐられ、心は少しずつ浮上する。

 もしかするとガチであいつらを見返せるかもしれない!

 しかし鬼の面は即答した。


『お前は多分違うぞ、ただ災害に巻き込まれただけだ、選ばれたんじゃない』


 違ったくすぐられてたんじゃない。

 飛んでる蝿をはたき落とすように、俺も叩き落とされただけだった。

 そーですかそーですか、まあわかってましたよ


「まあ、そっか」


『あ、そこ右に入ったらそのまままっすぐで』


「はいよ」

 結構疲れるな…自転車押しながらって言うのもあるけど、後これどんぐらいだ?

 ただ、地面があまり凸凹しておらず空間も狭くないのが幸いだ。

 自転車押しやすい。


『で、最後の一つ—— 不安定(トレモア)型がある』


「トレモア……?」


不安定トレモア強度(レベル)はマイナス1〜マイナス10』

『強さだけ見れば安定(スタビライズ)型よりも強い』


「へー……強いんだ」


『ただし欠点がある、強度(レベル)《マイナス1》〜《マイナス 6》ぐらいなら安定(スタビライズ)型と大して変わらない、やばいのは《マイナス7》〜《マイナス10》だ、かなり不安定で強力ゆえ依存性も高い』


魂能(アビリティ)を使った結果自分が痛い目にあったり、最悪…死ぬこともある』


「し、死ぬ……?」

 おいおいマジかよいきなり物騒だな


『だから不安定型(トレモア)の《マイナス7》から《マイナス10》レベル間を別名

——“自壊(デストラクション)”そう呼ぶことがある』


 ーー自壊(デストラクション)ーー


 背中に、ぞくりと冷気が走る。

 だけど、正直ちょっとかっこいい、俺みたいな奴には刺さってしまう。

 デメリット有きの強力能力はやっぱりロマン。

 まあ死にたくはないんだけど。

 そういえば【フォースインヴォーグ】ってどんなアビリティなんだろうか。


「なあ、【フォースインヴォーグ】ってどんなアビリティなんだ?」


『うーんまあ、多分だけど名前からして”力を借りる”みたいな感じじゃないか?』


 力を借りる?なんかパッとしないな、もうちょっと強そうなのが良かった

 もっとザ・最強!みたいなやつ、

 時間停止とか、無限復活とか、相手のスキル奪うとか

 まあしょうがない、実は〇〇でした!みたいなのに賭けるか。


『ちゃんと知りたいなら視る系の魂能(アビリティ)を持ってるやつにちゃんと見てもらった方が良いな、知り合いにいるし頼んでやろうか?』


「マジで!お願いするよ!」


 この鬼の面この世界のことも教えてくれた。

 しかも、俺のアビリティを知る手助けまでしてくれるらしい。

 ありがたいこの上ない。


「助かる、ありがとう」


 鬼の面はまた少し表情を緩めた。

 突然、前方の洞窟の壁が灯りに照らされている。

 もしかして出口か?思い返せば思ったより早かったな。


『そうだ、試しに使ってみたらどうだ? 魂能(アビリティ)


「え?アビリティって今使えるの?」


 『そりゃあ使える、名前を声に出せば”意識”しなくてもな』


 おお、まじかよじゃあ遠慮なく!

「フォースインヴォーグ!」


 …特に何も起こらなかった。

 ただ洞窟に【フォースインヴォーグ】!と言う間抜けな声が広がっただけだった。

「あれ?」


『試しに、俺のこと触りながら言ってみろよ

本当に他人の力を借りる 魂能(アビリティ)ならば大抵はそれでいけるはずだぜ』


 俺は自転車のカゴの中に入っている鬼の面へと手を伸ばす。

 触れると冷たいひんやりとした感覚、不気味だなとも思ったけど、

 違った、以外と安心できる感覚だった。

 再度、間抜けにならないことを祈りつつ。


『【フォースインヴォーグ】!』

 ブオオォッ!


 その瞬間、体の奥から熱が噴き上がる。

 無限の力とはこの事だ、湯水の様に湧き上がって来る。

 多分今パンチを放てばなんでも消し飛ばせる気がする。

 …力を借りるか、だとしたらこの鬼の面、一体どんなバケモノなんだ?

 もし、世界を滅ぼす魔王だとしても差し支えないぐらいの力だと思う。

 いやちょっと大袈裟?か…

 でも力の底が見えないーーこいつは一体何者なんだろうか?


『ストップ!ストップ!力が抜ける!』


「ごめん、ごめん」

 その言葉に手を離す


『ハア、お前の 魂能(アビリティ)、借りるっていうより共有みたいな感じだな

3割くらい持ってかれたぞ』


 今ので三割‼︎嘘だろ…本当に鬼の面(コイツ)、何者なんだ?


「お前…一体何者なんだ?」


『ん?俺か、俺は…メルヴァンだ、メルって呼んでくれ

“ヴェイルブレイド”って言うパーティ組んで討伐士をやってる、こう見えてちゃんと人間だぜ』


 討伐士、パーティ…冒険者じゃん、

 名前からして魔物とか討伐する奴だろうか?

 でもコイツ雰囲気は明らかに討伐される側なんだよな。

 それに人間?嘘つけよ仮面だろ、どこにも生物要素ないんだけど、

 全く生きているようには見えないし、強すぎる気がする。

 もし人間だとしても、相当上澄だろう。


「嘘だー」


『訳あって今は魂だけでこのお面に憑依してるんだよ

ああ、別に死んでるわけじゃないおい、そんな疑いの目で見るなって!』


「へえ」


『今、肉体が封印されててな』


 封印?やっぱり魔王とかなんじゃないのこいつ。

 地上に出していいのかな?


『もしかすると今、討伐士の”仲間”が俺の事を探してくれてるかもしれない』


 仲間?なんだよ魔王軍幹部でも来るって言うのかよ。


『そういえば聞いてなかったなお前、名前なんて言うんだ?』


「ああ、()()()()だよ」


 名乗った途端メルヴァンは少し固まった。

 何か考えこむ様に、なんか思い出した様に。


「おい、どうかしたのかよ?」

 突然深刻な顔になってどうしたんだろうか?

 少ししてから返答が返ってくる。


『変な名前』


 な、なんだこいつ!


 ーーーー


 しばらく歩くと次第にさっき見えた光が大きくなりーー

 そして突然視界が開けた、天井も壁も、

 無数の青白く光る鉱物がびっしりと張りついている。

 光は揺らめき、淡い霧のように空間を満たしていて、昼間の様に明るい、

 幻想的、まるでゲームの中か、ファンタジーの挿絵のような光景だった。


「うわ…綺麗」

 綺麗な光景に思わず声が漏れる。


『わかるぜ綺麗だよなここ、この光っている石は魔光石って言って魔力と反応して光ってるんだ』


「へぇ」

 この光景、そして魔力…ファンタジーだ。

 やっとここで現実として飲み込めた気がする。


 ー


『おい、今なんか聞こえなかったか?』


「え?何も聞こえなかったけど…」


 ーー(カツっ)

 確かになんか聞こえたかも?

 さっき歩いてきた道の暗闇の中から音がする。

「確かに聞こえたけど、それがどうしたの?」


 ーーー(カツっ)

 あれ?なんか音、近づいてきてる?

 メルヴァンは深刻そうな声で言う。


『魔物だ、俺たちの後をつけてきた』


 え?魔物?…ちょっと待てあの死体…背中をざっくりと斬られたあの死体。

 後ろを見たいけど、振り向きたくなかった。


『いいか、奴は今一体、スピードが尋常じゃない

逃げる事はするな、戦う準備をしておけ』


「いや、無茶言わないでよ丸腰だぜ?どうやって戦えばいいんだよ」


魂能(アビリティ)を使え、』


「そんな…逃げたら?」


『死ぬ』


 死ぬ?せっかく異世界に来たってのにそれはない!

 ここに飛ばした神様を恨む、あの死体の様なことにはなりたくない。

(やるしかないのか)

 カゴの中のメルヴァンを持ち、意を決し後ろを力強く振り向く。



    . .(目 目)



 暗闇の中こちらを見つめる赤い光。

 大きさは、俺の胸くらいまでありそうだ、いやそうであってほしい。

 全体像が見えない故断言ができない。


 一瞬の緊張が走る、嫌な汗が滲む。


 ーーーー(ドガっ‼︎)

 暗闇の中から地面を蹴り上げ岩が砕ける音が響く。

 目の光が赤い線となってこっちに向かってくる。


 ドガガッ‼︎


      ドガっ!

 ドン!


「うわっ!」ーーカラン…

 びっくりした拍子にメルヴァンを落としてしまった。

 闇から飛び出した大きく黒い影が頭上を飛び越える。


 コモドドラゴンぽい見た目。

 体は黒い鱗に覆われ、口からは炎のように赤い舌がちらついている。

 そして異様に長い爪と尻尾がナイフの様に伸びている。

 大きい…俺の身長より少し大きいくらいだろうか、

 圧倒されてしまう、まるで熊の様。


 ドサッ


 逃げ道を塞ぐかの様に目の前に立つ。


「グググ…」

 低い唸り声。


(やばい早くメルヴァン拾わないと、対抗なんてできたもんじゃない)

 ーー”力を借りる”だ、何もない俺が唯一できる手段ーー

 拾おうと、腕を動かしたその瞬間。


 ドガっ‼︎


「グオオォォ!」

 ソイツは飛びかかってきた、待ってなんてくれなかった。

(やばい!)

 すでに腕を伸ばしてはいるが、間に合わなかった。

 ソイツはとんでもなく速かった。

 気づけば、黒く長い爪が心臓付近に突き刺さっていた。

 時間の流れがゆっくりに感じられる、

 爪はただゆっくりと刺さってゆく、痛みはこない。

 どうして俺がこんな目に…頭に浮かぶ両親、友達、今まであってきた人達の影。

(ああ死んだなコレ)

 そう、死を受け入れようとしたーーが、


 ガッシャアァァン!ーードスン!


 現実のうるさい音に、まだピンピンと生きている事を実感させられた。


「は?」

 黒いソイツは何故か俺を”空気みたい”に通り抜けて、

 代わりに自転車を両断し壁に激突していた。

 理解が追いつかず思考が停止した。

 だがメルヴァンの怒号で思考は再び動き出す。

『バカ!早く 魂能(アビリティ)使え‼︎』


 何が起きたかはわからないけど、やるしかない。

 それに奴は転んで態勢を立て直している途中。

 隙ーーチャンス、今だ!死にたくない!

 勝てる保証なんて何処にもないが、一か八か!

『ーー【フォースインヴォーグ】ーー‼︎』


 叫んでメルヴァンを左手で強く掴む。


 ゴオオオォォ!

 さっきやった時より体の奥から熱が噴き上がった。

 血液が一斉に巡り、筋肉が軋むほどの力が全身を満たす。

 視界が冴え、洞窟の奥まで輪郭がくっきりと浮かび上がった。

 再度こっちに向き直ったソイツはまた、


 ドン!


 飛びかかってきた。

 黒く、長い爪がこっちを捉えている。

 それに、少し怖気ながらも奮い立ち、

 まだ後ろにある右手を大きく前に振りかぶる。


 ゴシュッ‼︎


 拳が空を切る。

 拳は絶対に止めない、止めれない、今やらなければやられてしまう。

 右手の拳がソイツの顔に触れる。

 ーーコンクリートを殴る様な感覚……はすぐに変わり、

 砕け、めり込んでいく、腕にソイツの鉛みたいに重い体重を感じる。

(重い…いや、押し切るっ!)


「せぃっ…やあ‼︎」


 べコッ‼︎

 鈍い砕ける音が響く。

「ゲォォッ…」

 ソイツは顔、首、肩がひしゃげ、上半身が弾け飛び、

 暗闇の中に吹き飛んでいった。


 ドン…

 地面に落ちた音が聞こえたが、それ以外は無音。

 もうソイツは動いていない様だった。


「勝っ…た」

 熱くなっていた体に汗のひんやりとした感覚が訪れた。

 戦いの余韻で手は震えている。

 勝利、勝てた、生き残れた、ただ嬉しかった。

 だけど、喜びもせずただ静寂の中にいた…………気配?後ろ…


 スッ…


 突然、右肩の方から何か銀色の物が視界に突き出される。

 剣だった、魔物とかそうゆうのじゃなく人が使う剣。

 全く気づかなかった、突然現れた様な感じだ。


(誰?)

 後ろを振り返ろうとすると、

 ”振り向くな”とでもいう様に首に剣を突きつけてくる。


(戦いに集中しすぎて気づかなかった?後ろに居るのは人だよな)


 なんで剣を向けられているか全く検討がつかない。

 そして背後から足音が近づいてくる。

 コツ、コツ、コツ

 明らかに個としての感覚、

 重く明らかにその他大勢から逸脱しているであろう気配。


 強者だ。


 足音の主は目の前に姿を現す。

 少女だった、俺と同じくらい?いや歳上?歳下?

 その少女は腰まで伸びた長い髪を持ち、落ち着いた表情でこちらを見つめている

 ただ目線はこっちを向いていない、

 見られているのに照準が合ってないそんな感じ。

 手には2m近くはありそうな棒(おそらく杖)頭にツバの広いとんがり帽子。

 率直な感想は魔法使い、静か、あと……可愛い

 杖を浮かせ、椅子の様に座る。

 そして、口を開く。


「ーーー、ーーーーーー」


(え?)


 聴き取れなかった、言語なのはわかるでも音としてしか認識できない。


(ネクサリア語?いやでもメルヴァンとは話せたし…)


 どうしよう、明らかに敵として認識されてそうだ。


『多分そうじゃない、コイツは敵じゃない』


「ーーーーーーー」


『さあ?それはわからない』


(え?話せてる?どうゆう事だ?日本語だよな)

 やりとりの様子は面識がありそうな軽い感じ、知り合いとかじゃない。

 仲間同士の会話みたいな感じ。仲間?待てよ……?


『あと、転移被災者だから多分言葉伝わってないぞ』


 少女はため息をを吐く。

「あなたは何者?」


 今度はちゃんと聴こえた、日本語としてちゃんと。

「なんで?どうして急に日本語を?やっぱり通じるのか?」


「それは質問に答えてくれたら教えてあげる」


 お前は何者か?この質問を今日だけで2回された、一体何故だろう?

 そんなに怪しいのかな…急に現れれば怪しいか。

 でもこの世界って転移って一般的なんじゃないの?


「俺は、瓜原颯真、日本人で、学生…」


 そういうなり顔を覗き込まれる、目線が合う、逸せない。

 今度は目の標準があっている、中を見透かされる様な、読まれる感覚


「嘘じゃない…記憶を見ても別に変なところなし…」


 記憶を見たの…やめてほしい思春期()の記憶を見るのは。

 でも、その言葉に空気の緊張が少し解けた気がする。

 少女は目線を落とす。


『だから言っただろ』


「しょうがないでしょ?だって…、はぁごめんなさい驚かせちゃって」


「い、いや別に大丈夫…」

 剣が首元から下げられた、もちろん後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは髪を後ろで一つに束ねた若い女性だった。

 白の強い灰色の髪色だ、制帽のような物をかぶっており背筋は真っ直ぐ。

 率直な感想は凛としているだ、

 本当はもっとあるが、ただ”凛と”があまりにも強すぎる。

 冷たい空気すら断ち切るような鋭い眼差しーーまだ警戒を解いていない。

 むしろ振り向いたせいでもっと強まった気がする。

 そして、その女性はシアの横に立つ。


「あの、あなた達は誰です?それになんでこんなに警戒してるんですか?…」


 座っている足を組み少女は答える。

「私はリーシェ・ヴァレンシア、討伐士準1級ヴェイルブレイドの魔法使い」


 ヴェイルブレイド…メルヴァンが言ってたやつ、

 やっぱり、仲間が探してるかもってこの人達のことか!


「あと、何で今会話出来ているのかだけど、それは私の魂能(アビリティ)

三種の(トリニティ)人機(コミュニオン)】があるから」


 一泊。


「見る、聞く、話すに特化した魂能(アビリティ)だからあなたの言語を翻訳して

かつ、あなたも話せる様にしてるの、」


「おお、すごい…」

 純粋に関心してしまった、そんなアビリティが有れば英語いや、

 外国語なんてきっと楽勝だろう。

 そのアビリティを使って英語のテストで無双してみたくなった。


「世界が違う時点で同じ言語が通じるわけないでしょ」


 うん、そりゃそうだ、国が違うと通じない事だってあるのに、

 世界が違うとくれば”通じる”というのはさらに難しくなるだろう。


「いやーてっきりメルと”普通に話せた”から、ここ日本語通じるのかなって思っちゃってさ…」

 それを言った瞬間、また空気に緊張が走る。

 ヴァレンシアは目を細めこちらを見る、横の視線も強く感じる。


「なんでメルと会話できるの?普通は無理な筈なのに、

別に魂能(アビリティ)も能力借りる系…全然会話係じゃない…やっぱりあなた何者?」


 アビリティも見れるのか!

 もしかしてメルヴァンの言ってたアビリティのわかる知り合いって…

 絶対そうだ、見る、聞く、話すの見るってわけか

 … 普通は話せない?どういう事だ?


『いや、だからそう言うのじゃないって

そんなに心配なら側にでも置いとけばいいじゃないか』


『それにコイツは強いぞ!俺の力を借りればかなりの戦力になる筈だ

てたか?あの”ブラックストーカー”を一撃で、しかも素手でやっちゃったんだから』


「知ってる、倒す所見たもの」


『でだ、俺と言う戦力がいない今、入れてもいいんじゃないか?

ソウマはどうだ?ヴェイルブレイド入ってみたいか?ネクサリアの最強パーティ5本指には入る、だから入れば最強の一員って称号が得られるぜ!』


(最強…)

 頭に響くのは黒瀬迅の「弱い」という言葉、それとともに心に光が灯る。

 ネクサリア最強5本指って言うのはきっと誇張ではない、

 メルヴァンの力を借りた時にそれは感じてる、そしてこの仲間達も相当強い。

 もし本気で入れてくれるなら、入る事で俺も強くなれるかもしれない、

 そして本当にそうなれたならきっと…


 ヴァレンシアの顔が引き攣る。

「ッ、勝手な事言わないでよ、全くいつもそうなんだから!」


『で、どうなんだよ、ソウマ』


 いや、本当に勝手なこと言うなよ!って訳でもなかった。


 颯真は目線を上げ口を開ける、その目には決意が感じられる。

 邪魔者扱いされてきた彼にとって求められるというのはとても嬉しい事だった。

 ましてや、強いと自分の能力を買われてなら尚更そうだった。


 求められているのなら遠慮する理由はない。


「入ってみたいかも、しれない…」


ヴァレンシアのとんがり帽子が少し揺れる。

目を瞬かせ、睨むでもなくこちらを見る。

「……なんで入りたいの?それ結構本気で言ってるでしょ、そこまで本気なのはなぜ?」


一泊。


 決意を、心の内を言葉にする


「俺は…俺はいつも見下されてきた、いやきっと俺がそう感じていただけかもしれない、

でも雰囲気はいつだってそうだった、弱い、小物、才能なし、そう見られてた

別に舐められてたんじゃな事実だ」


「だからいつも邪魔者だった、迷惑かけないよう空気を読んで身を引く負け犬だった」


「でも、悔しかった!元から持っているものの差で見下されるのは!

才能の差を見せつけられるのは!身を引いてしまうのは!だからこそ

俺は見下してきたアイツらを!無能と決めつけてきたこの世界を見返してみたい‼︎」


「別に監視付きだって、怪しまれてたって、どんな思惑があったって

本当に入れてくれるのなら入ってみたい!

俺をヴェイルブレイドに入れてください‼︎」

 どんな結果であれ悔いはない!言ってよかったはずだ。


 ヴァレンシアは目を丸くした、凄く驚いている様だった

「そ、そう…じゃあ判断はリーダーに任せる」


 リーダー?誰だ?メルヴァンか?嫌違うよな…

 横の女性が口を開く。

「話を聞く限り、メルはきっと肯定しているんだろう、なら異論はない

よろしくな カワハラソウマ」

 

 いや、あっさりすぎやしないか?

 熱血気味に言った自分がバカみたいじゃないかよ

 驚きのあまり彼女の顔を見る、とても強く睨まれた。

 入れてくれるって言うから言っただけなのに、

(なんでこんなに睨まれるんだよ!俺本当に何かしでかしたか?)


 メルヴァンは呆れ混じりの顔になり言う。

『まあまあ、そんなに警戒しちゃ可哀想だぞ、そんなに怖い顔すると綺麗で可愛い顔が台無しだぜ

 ってヴァルちゃんに伝えてくれシア』


「…しょうがない、フェン姐メルが

『そんなに警戒しちゃ可哀想だぞ、そんなに怖い顔すると綺麗で可愛い顔が台無しだぜ』だってさ」


「なっ…」

 ヴァルちゃん、フェン姐、もといヴェイルブレイドがリーダーは、

 剣を持ったまま手を頬に当てて恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 凛と、から乙女に移行だ。

「そ、そうか」

 

 あーこれそういう感じか…大丈夫かな?まあいいやなんとかなるだろ多分。

 リーダーは咳払いをし、


「私は、ヴァルカ・フェンドリードだ、改めてよろしくだソウマ」

 だが俺を見る目だけはやっぱり冷めている。

 嫌われている、というよりかは敵視だ、よかった嫌われてるより少しマシ


『よかったな、ソウマ』


「はぁ、本当にメルって面倒を引っ張ってくるのがうまいよね…

ほら、じゃあここから出よう」


「わかった、」


 二人とも前に進み出す。

 手に持っていたメルヴァンは…リーダーに奪われた。

 進もうとしてふと、自転車の残骸が目に入る。

 …いやもう持っていかない、カゴの中の除草剤と財布だけ手に取ると、

 先に進む二人の後を追うため足を早める。


(よかったのかな、これで)

 この選択が良いかも、悪いかも。正しいかも、間違っているかもわからない。

 ただ確実に一歩は踏み出せた気がする。


 それにしても、なんであんなに警戒されていたんだろう?


 終わり

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