表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4話 生と死の概念

自分はこれからどうなるんだろう?


警察は、俺の反応を深読みしない顔で続けた。


「あなたの身元は分からなかった。病院や裁判所側も”保護が必要”って判断。これから児相に繋ぐ」

「……じそ?」

「児童相談所、子どもを一時的に預かる所だよ。安全な場所なの」


安全。

その言葉が、妙に腹に引っかかる。


「自分の子でもないのになんで保護なんだ?檻の言い換えか」

「全く君、今までどういう生き方してるんだ?」

「そういう言葉をよせ。どうせ値段付けするための施設だろう」

「そう思うなら、そう思っててもいい。君を放っておけない、私どもの責任だ」


俺は黙った。黙るしかなかった。

身体がまだ重い。


しばらくして、白衣の女が来て、簡単な確認をした。

熱。脈。顔色。

俺が何も答えなくても、勝手に状態が決まっていく。


「寒いところに長くいたみたい。今は大丈夫。でも無理しないでね」

「……無理など」

「はいはい。強いね」


腹が立つ、というより調子が狂う。

病院から出ると、朝の空気が刺さった。


車という鉄の箱に乗せられ、窓の外を流れる街は、相変わらず理解不能だ。


「児相ってところに行く。話を聞くだけだから大丈夫だよ」

「話など、しても無駄だ」

「じゃ、聞かれるだけでもいい」


この男は、俺に信じろとは言わない。

それが余計に気に食わない。

信じろと言われれば、切り捨てられる。

信じろと言われないと、こちらが困る。


俺は舌打ちを飲み込み、窓の外を睨んだ。


児相は、思うほど普通だった、牢でも城でもない、ただの建物。

壁の色はやわらかくて、子どもが泣いてもいいように空気が作られている。


受付で、職員らしい女が迎えた。声が、やけに穏やかだ。


「こんにちは。寒かったよね。お名前、教えてくれる?」

「ラグナロクだ」

「うん。ラグナロクくん。年齢は?」

「フン!」

「そっか。分からないんだね」


否定もしない、笑いもしない。

おかしな世界だ、嘘をついても許される、これだから人間は……


別室に通され、水と小さな菓子が出た。

俺は警戒しながらも口をつけた。


甘い。相変わらず魔力は回復しないが、身体は少しだけ落ち着くのが腹立たしい。


女は名札を指で押さえ、名乗った。


「児童福祉司の……まあ、ここでは担当でいいよ」

「馴れ馴れしい」

「馴れ馴れしくしないと、泣く子が増えるから」


 淡々と、問いが続く。


「家族はいるの?」

「いる」

「どこに?」

「城に」

「お城は帰りたい場所なんだね」

「……分かったような口を利くな」

「大丈夫、新なお城が見つかるまで、ここのみんなと仲間だよ」


言葉が、妙に刺さる、俺は目を逸らした。


「あなたの安全を確保するため。ここで寝て、食べて、落ち着く」

「俺は――」

「大丈夫。ここでは、勝手にどこかへ連れていかれたりしない」


その一言で、俺の中の警戒が少しだけ形を変えた。


この世界は、縛る時ほど言葉を丁寧にする


 担当は、少しだけ声を柔らかくして続けた。


「それとね。里親さんの面談、お願いできる?」

「……さと、おや?」

「家族の代わりに、一緒に暮らす人。もちろん無理はさせない。でも、君がここより落ち着けるかもしれない場所」


家族。代わり。

その響きは、俺の世界では弱点だ、利用される匂いがする。


「俺を拾って、何が得だ」

「得がほしい人には頼まないよ。面談した後も、私たちは定期的に様子を見る。心配しなくていいよ」


担当は小さく息をついて「そして」と続けた。


「その人たち、弟さんを亡くしたの。お母さんとお姉さんが、ずっと泣いてたって」

「……」

「穴を埋めたいじゃなくて、守りたいって言ってた」


守る。

その言葉だけは、俺の耳に残る。


――悪魔にとっての死は、人間のそれとは違う。

肉が裂けようと骨が砕けようと、召喚されればまた戻る。

皮肉な話だが、召喚するのが人間であっても、だ。


だから、つい口が滑った。


「くだらん。俺に従えば、力が戻った時――いくらでも復活させてやる」


その瞬間。

さっきまで柔らかい顔だった担当が、ふっと真顔になった。


「……ラグくん。そういう言い方、やめよう」

「軽いでも言いたいのか? 戻せるなら戻せばいいだけだ」

「軽いよ。失った人の前で戻すって言葉は」

「じゃ逆に戻さない理由はあるのか?」


担当は、言い返さない。代わりに、淡々と問いを重ねた。


「その復活は、本人が望んだもの? 本人はもう満足して旅立ったのかもしれない。ひどく苦しい出来事があって、もう生きたくないって思ってたのかもしれない。 どうして本人の選択を尊重しないの?」


くっ。鋭い。


「尊重? 人間は死を恐れる、それは本能だ。抗えん」

「本能でも、選ぶ人はいる」


俺は鼻で笑い、言葉を重ねる


「俺が見た限り、若返り、不老不死、死者蘇生を欲しがる醜い連中は山ほどいる。そいつらは、そのためなら何でもする。最も大事なものすら捧げる。人間はそういう種族だ」


担当は、そこで言い訳はしなかった。

むしろ、少しだけ口元を緩めた。


「……へぇ。思ったより考えてるじゃん。ラノベ、けっこう読んでるでしょ?」


続いて真剣に言う


「でも、あなたの言う通りよ。もし本当にそれが可能なら、事故で亡くなった人、悲劇に巻き込まれた人は、人生をやり直せるかもしれない。」


担当は言葉を選ぶみたいに、一拍おいて、


「……だけどね、死ぬ直前の惨状って、記憶に残るの。

人は、まだ死んでなくても、ある場面を見ただけで、ある出来事を経験しただけで、そのトラウマが一生残ることがある。まして非業の死を経験した人なら――」


「それでも死ぬよりはマシだろう。

治らぬ病気になった者は? 解けぬ事件は? 生き返れば万事解決だ」


担当は、俺が遊んでるじゃないと察したのか、口調を少しだけ変えた。


「……じゃあ、逆に聞くね。あなた、人間は醜いって言ったでしょ? それ、私も全部は否定できない」


視線を少しだけ落とし、続ける。


「もしその力が出たら、権力者や金持ち、薬、保険、武器の商売人。そういう人たちが黙って見てると思う?」

「……」

「警察が事件解決のために、復活した人の心を気にせずにやるでしょう、利益の連鎖ができたら、復活した人に都合のいい証言をさせる、ってことだって――起きうる」

「ほう?その手もあるのか?人間ならやりそうなだ」

「事故の代償が小さくなったら、人はルールを変える。止めるべき場面で止めなくなり、守るべき人も守らなくなる。どうせ復活できるから」


担当が一度、言葉を選ぶように視線を落とした。


「それにね……悪い人って、こっちの想像よりずっと器用なの」

「何が言いたい」

「もし人が死んでも戻れる世界になったら――犯罪者は躊躇うのではなく。むしろ、隠すために手段を選ばなくなる」


そこで、担当の喉が詰まった。ほんの一瞬、声が揺れた。


「……『復活した被害者の証言』って、指紋や目撃や凶器よりも、ずっと強い証拠になるから」


唇を噛み、絞り出す。


「だから……殺すより二度と口を開けない形にするとか、たとえば拷問。薬。処置。記憶と心をぐちゃぐちゃにして……戻っても、まともに言葉にできないようにする」


担当は目を伏せたまま、かすれた声で言った。


「復活のできる世界は、地獄と呼ぶかもしれない。そういう世界で生きるくらいなら、今の世界のほうがまだいい」


「……違う」


担当が目を上げる。


「本当の地獄は、そこまで残酷なものじゃない。俺たちは罪を見て裁く。罰するのは有罪の者だけだ。手段は、生前の業に見合う形で決まる」


一拍、言葉を落とす。


「お前が言う地獄は……地獄じゃない」

「ただの私利私欲の塊だ。……俺がいた場所より、よほど怖い」


沈黙。

担当は、俺をまっすぐ見た。


「ラグくん。あなたの言う通り、私たちは完璧じゃない。だからこそ、法律とういうものがある」


俺は自分の胸に手を当てて言った


「確かに、皆が納得するような条例がないと、俺らだって……」


そして、担当は言いかけた。


「……もしあなたが本当に、そういう力を――」


その時、ドアがノックもなしに開いた。


「失礼します。……里親希望の方が到着しました。準備ができたら面談室へ」


担当の言葉が、そこで途切れる。

――天井の蛍光灯が、一度だけ、ちか、と鳴った。

俺は反射で見上げたが、誰も気づいていないらしい。



ここまで読んでくださって、ありがとうございます!


自分は文章の投稿などすべてはほぼ初めてで、

まだまだ勉強中です。気になるところがあれば、

そっと教えていただけるととても助かります。

感想や指摘など一言でも

反応をいただけると、ものすごく励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ