第1話 白光の終戦
「こんな醜い争い――俺の代で終わらせてやる!」
「こんな醜い争い――僕の代で終わらせてみせる!」
二つの声が重なった瞬間、世界から音が消えた。
次いで、白い光が戦場を丸ごと塗りつぶす。
――その少し前。
――魔王城。
「急げ! あと少しだ! 今こそ団結せよ――人類の栄光のために!」
「諸君! 戦後にどれだけ大きな取り分を得られるか、そんな企みは分かっている。だが今は違う! 奴らの最後の火種を、ここで潰すのが先だ!」
怒号が飛び交う城は、戦場というより地獄だった。
召喚された悪魔が命を喰らい、喰われた者は悪魔として起き上がる。
そしてまた、別の命を喰らう。
血と死骸の中――
人々が希望を託したのは、伝説の大戦帥レオンハルト――
白髪を隠しもしないその男は、獅子の紋章を刻んだ金の鎧を纏い、聖光の加護に照らされ、破竹の勢いで敵陣を駆け、悪魔の群れを薙ぎ払った
だが本人だけは知っている。自分はもう全盛期には及ばない。
城壁の上では、瀕死の魔王が第一王子ディアブロと第二王子マキャヴェリに一族の命運を託していた。
末子――第三王子ラグナロクには「最後の火種」を携え、世界のどこかへ亡命しろと命じる。
人間の負の感情が再び臨界に達したとき、地獄はまた満席になる。
その時に反撃の旗を掲げるためだ。
動物に化けようと、人に化けようと構わない。
人間はどうせ過ちを繰り返す――待てばいい。
だからラグナロクに叩き込まれたのは戦闘魔法ではなく、幻術。
思惟窃取、精神操作、幻化、蛊惑、馴化――心を扱う術だった。
一方その頃。
レオンハルトは重傷を負い、魔力も尽きかけていた。
「もう、歳が…」
膝をついた時に、背後から幼い声が響く。
「……師匠!」
振り返ると、そこにいたのは最年少の弟子――ルカ。
羽飾りのついた帽子の上にゴーグルが置いてあり、短いポニーテールの茶髪が揺れて、緑の目が真っ直ぐ戦場を見つめていた。
なぜここに?
彼は幼いが正義感が強く、天才とも呼べる精霊使いだった。
レオンハルトは戦わせるつもりなどなかった。
戦後、焼け焦げた大地を彼の自然魔法で蘇らせるために、あえて戦闘魔法を教えず、卒業も先延ばしにしていたのに――。
レオンハルトは言葉を失い、すぐに怒気を込めて叫んだ。
「ここはお前のいる場所じゃない! お前の魔法は奴らに通じない、今すぐ退け!」
ルカは首を振り、飛竜から飛び降りて両手を地に押し当てた。
足元から花が咲き、光が滲むように戦場へ広がる。
ルカは大地に宿る精霊の力を借りて、皆を癒やそうとしていた。
「万千の大地の眠るモノたちよ……!
僕、ルカの名において請う! 敵に怒りを、友に生気を!
吹け――百花の風!」
蛍光を散らす風が吹き抜け、傷は塞がり、毒は引き、枯れた魔力さえ微かに満ちる。
だが代償は重い。ルカは半膝をつき、息の合間に笑った。
「……こんな大事な時に、僕がいないなんて……ありえないでしょ?
僕は首席なんだから……けほっ……」
血を吐く。
「……一人でも多く救えるなら……それでいい……」
「愚か者……! コンペイ! ルカを安全な場所へ!」
飛竜がルカをくわえ、撤退しようとしたその瞬間だった。
空が裂けるように雷雨が叩きつけた。
――来た。キメラだ。
「な……なんでだ。ここは縄張りじゃないぞ!」
人族も魔族も空を見上げる。
キメラの背に乗っていたのは……子ども?
いや、魔族の第三王子――ラグナロクだ。
捻れた角と赤い翼。黒い服に包まれた小さな影が、嵐の中に王子の圧だけを纏っていた。
「……あの馬鹿! 年上の言うことを一度くらい聞け!」
マキャヴェリが歯噛みした。
その直後、癒やしの風が熱風に押し散らされる。
ラグナロクが隕石のように落下する。
「我こそが魔族の第三王子、ラグナロク!
さぁ炎よ――すべてを浄化せよ!」
右手を一振り。
「死ね!虫けらども。……我が同胞に指一本触るな!」
灼熱の火球が負傷者の群れへ飛ぶ。
直撃すれば、灰も残らない。
「――いつまでだ!」
割り込む声が、戦場の空気を裂いた。
「お前たちは……この悲劇を、いつまで続ければ気が済むんだ!」
使い魔の飛竜がルカの身体に戻り、背に光の翼が現れる。
空へ舞い上がったルカは叫んだ。
「氷障――!」
氷の盾が火球を受け止め、炎を押し返す。
ルカは怪我したにもかかわらず、上空から突撃し、ラグナロクも翼を広げて迎撃。
「氷環!」
衝突と同時に、氷の環が地上へ広がった。
敵も味方も足元が凍結し、
これ以上、戦場の中心に命を巻き込まれないために――。
お互いの一撃を喰らい、拳と刃と魔力の火花が飛び散り。
しかし、その一撃の軽さに、二人は同時に息を呑んだ。
(……軽い?)
(……浅い?)
本物の戦士なら、今の一撃で骨が砕けていてもおかしくない。
骨が砕ける覚悟で迎撃した――そのはずなのに、
互いの攻撃はどこかで未熟さと感じた。
一撃で勝負はつかず、二人は地に降り、睨み合う。
ルカが吐き捨てる。
「お前らみたいなゴミは……この世界から消えればいい!」
ラグナロクは、赤い目を細めて笑った。
「ゴミ? 勘違いするな。
悪魔の力は、お前たち人間の負の感情から生まれる。俺たちは何もしなくても、
お前たちがまだ勝手に戦争を起こし、憎み合い、殺し合う。
生霊が地獄に満ち、溢れ出すとき、まだ同じループが始まる。
それが……何百万年も前からずっとだ。」
戦場の泣き声を指しながら。
「聞け。痛みの泣き声だ。
だが、生まれたばかりの赤ん坊だって泣く。
それは生の喜びか? 世界への恐怖か? ……お前に分かるか?」
「当事者でもないくせに、分かった口をきくな!」
ルカは目を細め、言い返す。
「静けさが好きだって言うなら、勝手に隅っこに居ろ!
なんで出てきて、人を踏みにじる?」
「踏みにじる? 笑わせるな。
お前たちこそ環境を作り替え、都合よく世界を喰い散らかす。
戦争が起きるたび、阿鼻叫喚が世界を満たす光景を、お前は見たことがあるのか?」
空気を切り裂く音が鳴り、熱風が走る。
「自然は俺たちを創ったのは、
……寄生虫を掃除するためにな!」
ルカは息を飲み、震える声を押し殺した。
「お前らは死なない。死がある限り、お前らはいる。
お前らがいる限り、死もなくならない。
でも人間は違う。一度きりの人生で、失うたびに苦しい選択をする」
ルカは視線を戦場へ投げた
「確かに人間は醜い。
こんな暗い時でさえ、戦後の得を考える奴だっている。
……でも光もある!」
ルカは帽子のつばを押さえて。頬の赤い紋章が、息に合わせてわずかに歪む。
「間違えたなら、やり直せる。失敗したなら、次は変われる。
僕らは何度も過ちを犯してきた。
それでも、そのたびに自分たちの足りなさを学び、少しずつ改善してきた。
共生しようとする道だって、探してる。
……どうして、それがわからない?」
ラグナロクは眉のあたりで火花を散らし、赤い目で笑った。
「やり直す? 改める? ならばお前たちにとって一番貴いものは死だ。 生と同じく、一度きりの機会だからな」
その時、周囲の兵たちはようやく気づいた。
いまのは ただの口論ではない。
――互いの魔法を成立させるための時間稼ぎだ。
爆ぜるような音。
ルカとラグナロクは、自分の身体が耐えられないと知りながら、限界まで魔力を引き絞った。
「おいルカ! 相手を消しても、お前も粉々になるぞ! 正気か!」
――正気だった。少なくとも、二人の心だけは。
終わらせる。これでいい。これさえできれば……
魔族も人間も残ってる戦力も多くない。ここで相討ちになれば、あいつらも頭を冷やすはずだ
二人の胸にあるのは、憎しみよりも先に――終結への願いだった。
「こんな醜い争い――俺の代で終わらせてやる!」
「こんな醜い争い――僕の代で終わらせてみせる!」
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
自分は文章の投稿などすべてはほぼ初めてで、
まだまだ勉強中です。気になるところがあれば、
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