やめるための道
数週間後、ジャングルの外れの野営地。エリカはベッドに横たわり、包帯に覆われた体を起こした。傷は塞がり始め、だが歩くのはまだままならない。ケンは隣のベッドで、精神科医の面談を終えたばかりだった。目元の隈は消えていないが、震えは収まっていた。
医務官が、二人の前に立った。厳しい顔で、報告書を読み上げる。
「エリカ兵士、腹部貫通傷による長期療養を命じる。戦線復帰は保留。ケン兵士、心身の疲弊によるPTSD診断。除隊勧告を出す。」
エリカはベッドの端を握りしめ、ケンを見る。ケンは小さく頷き、医務官に視線を移す。
「...わかった。受け入れるわ。」
医務官が去ると、二人は静かに顔を見合わせた。ジャングルの風が、テントの隙間から入り込む。遠くで、銃声が響く。まだ、戦いは終わらない。
エリカは弱々しく微笑み、ケンの手を握った。
「...私たち、生き延びたんですね。」
ケンは目を伏せ、散った仲間たちの顔を思い浮かべる。トム、リナ、ハリス。彼らの分まで、生きるということ。
「勝つじゃなくて、やめるでもいいんだよ。」
エリカの目が、優しく輝く。彼女はゆっくりと体を寄せ、囁く。
「ええ、そうですね。勝ち負けじゃなく、生きる道を選ぶ。それが、私たちの勝利です。」
数ヶ月後、ジャングルの外、故郷の小さなアパート。エリカはキッチンに立ち、鍋をかき回す。香ばしいカレーの匂いが、部屋を満たす。ケンはテーブルに座り、窓から見える穏やかな街並みを眺める。震えはもう、ない。
「できたよ。辛めに作ったの。あなたの好きに合わせて。」
エリカが皿を運び、二人は向かい合う。スプーンを口に運ぶと、熱い辛さが、生きている実感を呼び起こす。ケンは小さく笑い、言う。
「...うまい。ありがとう、エリカ。」
エリカは頰を緩め、目を細める。
「これからも、一緒に。壊れたところ、治していきましょう。」
外では、風が優しく木々を揺らす。戦場は遠く、散った仲間たちの記憶は、静かな教訓として残る。勝つための戦争ではなく、やめるための人生。それが、二人が選んだ道だった。




