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壊れた兵士  作者: 星狼


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2/5

散った影達

ケンの顔が歪んだ。苛立ちが、再び爆発しそうになる。彼はエリカの体を慎重に持ち上げ、背中に回す。彼女の体重が、汗で滑る背中にのしかかる。歩きながら、ケンの脳裏に、仲間たちの顔が次々と浮かんだ。ジャングルは、そんな記憶の墓場でもあった。


最初に散ったのは、トムだった。

陽気なアメリカ人の新兵で、いつもジョークを飛ばして士気を上げていた。あの雨の夜、敵の待ち伏せに遭い、胸を撃ち抜かれた。

トムは倒れながら、笑おうとして言った。「よし、俺の分まで勝てよ、みんな」。だが、その目はもう光を失っていた。

ケンはトムの遺体を担いでキャンプに戻ったが、誰も彼のジョークを覚えていなかった。ただ、次の命令が下るだけだった。


次は、リナ。

エリカと同じ小隊の女性兵士で、医療キットを背負った優等生。彼女はケンの幼馴染みだった。

ジャングルの川辺で、地雷を踏んだ。爆風が彼女の脚を吹き飛ばし、血の海の中で叫んだ。「ケン、助けて...怖いよ」。ケンは駆け寄り、止血を試みたが、間に合わなかった。

リナの最後の言葉は、「ごめん、弱音吐いちゃった」だった。ケンはその夜、眠れず、銃を握りしめて朝を迎えた。リナの血が、制服に染みついたまま。


そして、昨日散ったのは、隊長のハリス。

厳格だが部下思いの男で、いつも「勝てばすべてが許される」と繰り返した。敵の砲撃で頭を砕かれ、倒れた瞬間、ケンに視線を投げた。「お前が、次だ」。

ハリスは最後まで、命令を口にしようとした。ケンはハリスの徽章を拾い、ポケットにしまった。それ以来、心のどこかが、ぽっかりと欠けた。


仲間たちは次々と散っていった。命令のため、勝利のため。皆が「戦おう」と言い続けた。そうでなければ、弱者として切り捨てられるからだ。

ケンはエリカの体重を感じながら、歯を食いしばる。あの皆の顔が、ジャングルの影に溶け込むように、ケンの心を蝕む。


「もう黙ってろ。そういう頭のおかしい言葉聞きたくないねん……その為に治療してるんと違うんか? 『ありがとうございます。続けて味方の元に運んで下さい』と違うんか?」


エリカの声が、震えながらも従順に響く。背中にしがみつく彼女の指が、ケンの制服を掴む。


「...はい...ありがとうございます。お願いします...味方の...キャンプまで...」


ケンは小さく鼻を鳴らし、周囲を警戒しながら歩き始めた。ジャングルの蔓が足に絡みつき、湿った土が靴を沈める。エリカの体重が重くのしかかるが、彼は歯を食いしばる。

遠くで、銃声がぽつぽつと響く。仲間が、また一人、散った音だ。


「ちょっとはバグった頭も直ってきたみたいやな……必ず連れていくから、後は任せろ……」


エリカは背中にしがみつき、囁くように言った。息が、ケンの耳にかかる。


「あなたは...優しい人なんですね...」

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― 新着の感想 ―
ケンの辛い過去から、もうこれ以上人が死ぬところを見たくないって思いが無意識にエリカを助けるっていう行動に繋がってそうですね…! エリカもだんだんケンの意図を理解していってて、お互いの距離が縮まってる感…
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