散った影達
ケンの顔が歪んだ。苛立ちが、再び爆発しそうになる。彼はエリカの体を慎重に持ち上げ、背中に回す。彼女の体重が、汗で滑る背中にのしかかる。歩きながら、ケンの脳裏に、仲間たちの顔が次々と浮かんだ。ジャングルは、そんな記憶の墓場でもあった。
最初に散ったのは、トムだった。
陽気なアメリカ人の新兵で、いつもジョークを飛ばして士気を上げていた。あの雨の夜、敵の待ち伏せに遭い、胸を撃ち抜かれた。
トムは倒れながら、笑おうとして言った。「よし、俺の分まで勝てよ、みんな」。だが、その目はもう光を失っていた。
ケンはトムの遺体を担いでキャンプに戻ったが、誰も彼のジョークを覚えていなかった。ただ、次の命令が下るだけだった。
次は、リナ。
エリカと同じ小隊の女性兵士で、医療キットを背負った優等生。彼女はケンの幼馴染みだった。
ジャングルの川辺で、地雷を踏んだ。爆風が彼女の脚を吹き飛ばし、血の海の中で叫んだ。「ケン、助けて...怖いよ」。ケンは駆け寄り、止血を試みたが、間に合わなかった。
リナの最後の言葉は、「ごめん、弱音吐いちゃった」だった。ケンはその夜、眠れず、銃を握りしめて朝を迎えた。リナの血が、制服に染みついたまま。
そして、昨日散ったのは、隊長のハリス。
厳格だが部下思いの男で、いつも「勝てばすべてが許される」と繰り返した。敵の砲撃で頭を砕かれ、倒れた瞬間、ケンに視線を投げた。「お前が、次だ」。
ハリスは最後まで、命令を口にしようとした。ケンはハリスの徽章を拾い、ポケットにしまった。それ以来、心のどこかが、ぽっかりと欠けた。
仲間たちは次々と散っていった。命令のため、勝利のため。皆が「戦おう」と言い続けた。そうでなければ、弱者として切り捨てられるからだ。
ケンはエリカの体重を感じながら、歯を食いしばる。あの皆の顔が、ジャングルの影に溶け込むように、ケンの心を蝕む。
「もう黙ってろ。そういう頭のおかしい言葉聞きたくないねん……その為に治療してるんと違うんか? 『ありがとうございます。続けて味方の元に運んで下さい』と違うんか?」
エリカの声が、震えながらも従順に響く。背中にしがみつく彼女の指が、ケンの制服を掴む。
「...はい...ありがとうございます。お願いします...味方の...キャンプまで...」
ケンは小さく鼻を鳴らし、周囲を警戒しながら歩き始めた。ジャングルの蔓が足に絡みつき、湿った土が靴を沈める。エリカの体重が重くのしかかるが、彼は歯を食いしばる。
遠くで、銃声がぽつぽつと響く。仲間が、また一人、散った音だ。
「ちょっとはバグった頭も直ってきたみたいやな……必ず連れていくから、後は任せろ……」
エリカは背中にしがみつき、囁くように言った。息が、ケンの耳にかかる。
「あなたは...優しい人なんですね...」




