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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【BL】時には甘い口付けを

お越しいただきありがとうございます。

お楽しみいただければ幸いです。

「んだよ……それ」


「だから……オミくんって、ホントは私のこと好きじゃないよね?

 私もいいトシだからさ……将来(さき)の見えない人とダラダラ付き合ってくのは……ちょっとね……」


 こうして俺は、半年前から付き合ってた彼女にフラれた。

 完全なる不意打ちだった。前日までマメに連絡をとってたし、その日だって、俺の誕生日が近いってんでデートだっつて待ち合わせしたはずだった。

 それなのにフタを開けてみればコレ。マジで訳がわからない。

 どこか茫然と……もはや何の関係もなくなった女性の背中を見送るしかできなかった。




「って、マジで訳わかんネェ」


「あれ? オミ先輩タバコやめたんじゃ……」


 どんなに理不尽な別れを告げられても時間は止まってくれない。

 クソみたいな休日の後はクソみたいな平日がやってくるのだ。

 だから仕事終わりに、ストレス解消の一服を求めてビルの外に設置された喫煙スペースに向かっても仕方ないのだ。

 たとえ付き合ってた女に言われて禁煙してたとしても。いやむしろ禁煙しなくてよくなったんだから、喜んでタバコ解禁してやるわっ!

 そんな八つ当たりにも似た感情を抱えた俺に声を掛けてきたのは、ソイツが入社した時に俺がメンターをしたヤツだった。

 妙に懐かれたのか、ちょくちょく声を掛けてくるし、たまに飲みに行く間柄だ。初メンターだったこともあり、俺も感慨深いし懐いてくれるのは素直に嬉しい。

 そんなヤツの名前は……。


「んだよ。羽山(はやま)。止めてくれるな。タバコが俺を呼んでいる……っておい。何すんだ?」


「まーまー、ほらベンチ行きましょ。コーヒー位ご馳走するんで、とりあえずそれで我慢してください」


 ずるずると俺を引きずっていく羽山に連れてこられたのは、ビルから程近い公園のベンチだった。

 夏至が近いこの季節、まだ薄らと明るさを残す空を見上げていると、近くの自販機まで走ったらしい羽山が缶コーヒーを抱えて戻ってきた。


「はい、オミ先輩甘いのですよね?」


 ポイっと渡されたのは砂糖とミルクたっぷりと書かれたコーヒー牛乳だった。

 羽山の手にはブラックのボトル缶。

 なんだかそれにイラッとして、半ば無理矢理に羽山のやつと交換する。


「っ!? にがっ!」


 一口含んでボトル缶のキャップを締めた俺を、羽山が呆れたように見つめていた。


「……だから言ったじゃないですか。ほら、そっちください。オミ先輩はこっち」


 羽山の長い指先が、俺の手に僅かに熱を残しながらボトル缶を攫っていく。


「って、そっちもう……」


 口つけたんだが? なんて止める間もなく羽山がボトル缶に口をつける。

 あの苦い液体を嚥下する拍子に動く喉仏に、何故か視線が吸い寄せられた。


「んで? 何があったんですか?」


 やめてたタバコ、復活するようなことがあったんですよね? と俺の顔を覗き込む羽山の顔が見れなくて、俺はそっと視線を外した。


「……フラれた」


「え?」


「……だからぁ! フラれたんだって!」


 二度も言わせんな! と再び八つ当たりのような気持ちになる。

 あぁ、完全に八つ当たりだ。羽山は何にも悪くない。

 そして……俺をフった彼女も。

 彼女を利用した俺が全部悪い。


 不意に口寂しくなって、胸の内ポケットを探る。

 そこには未だ薄いセロファンに包まれたままのタバコの箱があった。


「ダメですよ。まだ……。口寂しいならこれでも食べててください」


 そう言って唇にギュッと丸くて堅い塊を押し付けられた。

 落ちそうになったそれを慌てて舌先で受け止める。

 ……僅かに舌の先に触れた羽山の指先に気付かぬフリをして。

 羽山もまた何事もなかったかのように平然と前を向く。

 口の中には甘いあめ。

 苺の甘酸っぱさとミルクの甘さが口いっぱいに広がった。


「って、お前、このあめ自分で買ったの?」


 確かこのあめは、赤と白に彩られた妙に可愛らしいパッケージだったはずた。

 それをいそいそと購入する羽山の姿を想像して……うっかり笑ってしまった。


「そうですよ。だって好きでしょ? このあめ……」


 横から痛いほどの視線を感じて、どこか恐る恐ると横を見上げる。

 そこにはどこか真剣な表現をした羽山の顔があった。


「あ……あめが好きなのは……、持ち歩くほどこのあめが好きなのは……お前……だろ?」


 俺の言葉に、羽山はゆっくりと首を振った。横に。


「いいえ? オレ甘いの苦手ですし」


「じゃあなんで……。あ、パチンコのあまりとか?」


 羽山の目が真剣で、でもそれから逃れたくて、捕まったらもう……逃げられない気がして、そわそわする。


「パチンコ……というか、ギャンブル全般しませんよ。

 ヤバい遊びはしないし、酒もほどほどです。借金もありません。ついでにオミ先輩もご存知の通りの優良企業に勤めてます」


「そ、そうだな……」


 ぐっと迫られ、追い詰められる。


「ついでに顔もそこそこ良いみたいです。会社の女性陣に褒められますし」


「そうだなっ!」


 確かにな! ウチの課でも男女問わずコイツのファンは多い。

 だからっと言って、俺がベンチの端まで追い詰められる謂れはないと思うんだ。

 地面に視線を落としてそんなことを考えてると、くっと顎を掴まれた。

 緩く、だけど確固たる意志を持って上向かされて……。

 見上げた先にあったのは、どこか確信を、だけど不安を滲ませた瞳だった。


「ね? オレ、我ながら結構な優良物件だと思うんですよ。

 だからオレにしときましょ? それにアンタだって……」


 オレのこと、好きでしょ?


「ちがっ! んっ……」


 ゼロになった距離はあっという間にマイナスにされた。

 俺の口内で好き勝手暴れるヤツの舌のせいで、ヤツの飲んでたブラックコーヒーの味が、いちごミルクと混ざり合う。

 それが不思議と嫌じゃなくて……。


 あぁ、捕まった。


 そうとしか考えられない時点で俺は負け確なんだろう。

 自分が男に、いや慕って懐いてくる後輩に惚れるなんて信じられなくて……。

 タイミングよく現れた女と付き合ったんだ。

 だから……どこか真剣になれなくて。

 そこを見透かされた結果が昨日だったんだろう。


 だからこそ……。


「んっ……ちょ……っ! ちょっと……んぁ……ちょっと待てっ!」


 無理矢理に引き離せば、不満げに口元を引き結ぶ羽山の顔。


「なんですか? もう充分待ちましたよ? オレが好きなのに、他の相手、それも女性とお付き合いしてた薄情なオミ先輩?」


「んぐぅ」


 全てを見透かされているようで、羞恥が募る。

 俺ってそんなにわかりやすいか?


「他の人はわかんないと思いますよ? ただアンタが好きで見ている人間にはバレバレってだけで……」


「んぐぅ」


 恥ずかしくて顔を上げられない……と思っていたら、羽山の手によって容赦なく顔を上げさせられた。


「ね? もう理解(わか)ったでしょ? オレにしましょう?」


 どこまでも強気な台詞を吐きながら、どこか不安に瞳を揺らすコイツを可愛いと思った時点で全面敗北は決まってた。

 後は、諦めて白旗をあげるだけ……。だが、先輩の矜持として一矢くらいは報いたい。


 口内に残っていたあめの残りをコロリと転がして……。

 俺は羽山の唇に食らいついた。


「っ!? あっまっ!?」


 あめの甘さに涙目になる羽山を見て笑うまで、あと少し。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!


そして南雲様ハッピーバースデー!!ヽ(´▽`)/

(なんで誕生日プレゼントのお話がBLなのかは、つっこんじゃダメです笑)


改めてお読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
後輩くんが口説きながら口調が砕けていく途中「アンタ」って呼んだときぎゅんってなりました…ありがとうございます翻弄される先輩カワイイ…(о´∀`о)
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