表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/39

第9話 最強ヒロインに嫉妬する陽キャ女子軍団

 体育祭は来週の日曜日。

 夏休みが明けてから2週間くらいで準備させてくるのはなかなかハードだ。


 我らがメインヒロインの水越(みずごし)がペアダンスを断ってから3日。


 最初はグダグダだった猫音子(ねねこ)さんとのペアダンスも少しずつ形になってきた頃。


 事件は起きた。


「なんかさぁ、水越さん調子乗ってるよね」


「それな~。ちょっと可愛いからって、ウチら見下してる感じするよね」


 例の陽キャ女子軍団だ。


 やっぱり女子って怖いね。


 俺がこの会話を聞いているのは本当にたまたまだ。

 マイクやスピーカーなどの機材を片付けるモブに選ばれてしまった俺。日替わりでモブがやらされていることなので仕方ないが、これが結構めんどくさい。


 俺以外にモブ男子生徒が3名。

 特にコミュニケーションを取るわけでもなく、淡々と機材を視聴覚室に運んでいく。


 その道中、例の軍団に遭遇しちゃったのだ。


「うわー、女子怖っ」


 俺と一緒に大きなスピーカーを抱えている男子生徒Aが言った。


 まったくその通り!

 シンパシーを感じるも、ここでモブ同士の友情を育むつもりはない。


「ねえ君、オレまじであそこの女子怖くて、腕が痙攣してきたから後は1人でやってもらっていい?」


「あ、うん。了解」


 嘘みたいな話だが、本当だった。


 A君のか細い腕が、かなり大胆に痙攣している。

 揺れ方が不規則なのがなんともリアルだ。重症じゃん。なんかトラウマでもあるのかな?


 陽キャ女子軍団のカーストがそれなりに高いことからわかる通り、彼女たちはそれなりに可愛い。


 だからそれなりに男子に人気があるのが事実。

 俺には良さがさっぱりわからんけどね。


「僕たちも失礼するよ。こういうイベントに巻き込まれるのは嫌なんだ」


「……」


 残りの2人も、抱えていたマイクを下ろして立ち去っていく。


 視聴覚室までもう少しだったから惜しい。


 ていうか、メインイベントが発生したらすぐに避ける姿とか、理想のモブそのものだ。

 さっきの彼のことは、敬意を込めてキング・オブ・モブと呼ぼう。


「さてと……」


 人通りの少ない体育館から本校舎までの裏廊下。


 哀れな俺はたった1人。

 モブたちに裏切られ、残された。


 そしてそのすぐ近くには誰にも聞かれてないと思って水越の文句を言い合う陽キャ女子6人の姿が。


 今はちょうど4時限目の終わり。

 昼休みに入ったタイミング。


 だからしばらくあそこにいるだろうなぁ。運が悪ければ、そのまま弁当を食べ始めるかもしれない。荷物も持ってるみたいだし、その可能性はある。


「どうしたものか……」


 頑張れば1人でスピーカーを抱えられなくもないが、結構時間かかるだろうな。さっきのメンツの中に頼りになる聖人系クラスメイトがいれば、こんなことにはならなかった。


「思うんだけどさぁ、水越って1回痛い目に遭った方が良くない?」


「それな! ちょっと教育、みたいな?」


「自分だけ目立とうとするとどうなるか教えてやろうよ」


「いいねー」


「どうするどうする? 恥かかせるのとかいいよね?」


「絶対プライド高いから、公開処刑みたいなことで良くない?」


「でもセンコーにバレたらヤバくね?」


 うん、ちょっと待ってね。

 先生のこと『センコー』って言うの? それヤンキー用語じゃない?


「それな!」


 さっきから『それな!』しか言ってない女子がいる。

 今度からその()の二つ名はソレナだ。


 かなり軍団の話が盛り上がってるようだし、通りにくいな。


 実のところ、俺は彼女たちの前を通らなければ視聴覚室にはたどり着けない。別のルートも一応あるが、機材が通らないのだ。


 不可避のイベントである。


 ――覚悟を決めるか。


 どうか気付かれませんようにと祈って、巨大なスピーカーを抱えながら彼女たちの前を歩いていく。


 できるだけ静かに。


 俺はただの機材運び系モブだ。


 俺はただの機材運び系モブだ。


 俺はただの機材運び系モブだ。


 俺はただの機材運び系モブだ。


 俺はただの機材運び系モブだ。


「ねえ、もしかしてウチらの話聞いてた?」


 終わったー!


 6人の視線が一気に自分に注がれる。

 もうこれは言い逃れできないよな。


 そもそも不可避のイベントだったし、乗り越えるしかないんだけれども。


「いや、ちょっと何言ってるのかわからないな」


「うわー絶対聞いてたじゃん。だる」


「それな!」


「どうするどうする? 口止めする?」


「いや、どうせ友達とかいないっしょ」


「だよね。なんかボッチっぽい見た目してるし」


 なんかムカついてきた。普通に殴りたいんですけど。


「でも一応口止めした方が良くない?」


「はぁ。ねえ君、この中と誰かと寝させてあげるから、さっきの会話聞かなかったことにしてくれる?」


 最悪だ。


 勘弁してくれ。


「あのさ……」


 俺の怒りは頂点に達していた。


「そういうのやめた方がいいと思うよ。水越さんは努力してあれだけ凄い人になれてるんだと思うし、そんな人を陥れようとする君たちって凄く醜いと思う」


 言ってやった。


 だがそれは、俺のクラスでの人権の壊滅を意味していた……。

 カースト上位の女子軍団を敵に回すってそういうことだ。


 いい人生だったな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ