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第7話 孤高のメインヒロインと痛快ざまぁ

 体育祭のペアダンス。

 男女でペアを組むというある意味天国、ある意味地獄の状況のせいで、体育館にいるモブたちの間で混乱が広がっていた。


 そんな中、俺はもう異性のペアを決め、陽キャ女子軍団に報告済みである!


 誰がこうなることを予想したでしょう。

 なんと俺のペアは猫系サブヒロインの猫音子(ねねこ)さん。


 さっきからにゃーにゃーうるさいが、本来はお昼寝が好きなのんびりふわふわガール。

 ほんと可愛いよね。


「体育館、混沌としてる」


「そうだね」


 急に中二病っぽい言い回しが来たので焦った。


 猫になりたいって本気で言うくらいだから、一般的な人よりかは中二病的幻想を持ちがちなのかもしれない。

 元々不思議ちゃんっぽいところもあったし、おかしくはない。


 それぐらい個性が強くないと、貴重なヒロイン枠なんて得られないからね。


 体育館前方でこの場を仕切っている陽キャ女子たちにはないものだ。


「ダンスの練習、する?」


「今はペア決めで騒がしいし、もう少しサボっても問題ないさ」


「でも、シロ、最初から踊ってなかった」


「……確かに」


 最初からサボってたな、そういえば。

 なら最後までサボりを継続しよう。どうせモブだしバレるわけがない。


 今さらかもしれないが、俺は猫音子さんに『シロ』って呼ばれてる。


 『ウ』の発音が難しいからだってさ。可愛いな。


 付き合いたい。


「とりあえず、今はこの状況を楽しもう」


「楽しむ?」


 猫音子さんが大きな猫目を丸くする。

 俺の言いたいことがわからないらしい。


 俺も彼女の言っていることが理解できないことなんてほとんどなので、お互い様だね。


「みんなダンスどころじゃないってことだよ」


 俺は体育館前方ステージを指さした。


 そこにはモブの陽キャ女子たち6人と、1人の圧倒的美少女が。


 圧倒的美少女とは我らがメインヒロイン、水越(みずごし)莉虎(りこ)である。


 さらさらの髪をなびかせ、6人の前に堂々と立っていた。

 その後ろ姿は勇者のように凛々しく、同時に女神のように神々しかった。


 なんでこんなに美しいんでしょう。

 付き合いたい。


 危ない……気付かないうちに虜になってしまうところだった。罪な女だ。


「水越さん、どういうつもり?」


 近くにあるマイクがオンになっているからか、かなり距離があってもよく聞こえる。多分体育館全体に響いてる。


 待てよ。


 これから女同士のピリピリを生中継するってことか!?


 体育の先生は放置主義で、生徒の自主性に任せるという判断をしているから口を出すことはない。

 体育館の隅で鼻くそをほじっている。

 モブ体育教師を忠実に演じているという感じ。


「私は誰ともペアを組みたくない」


「そんな自分勝手なことが許されるわけないでしょ」


「ここでのルールはあなたたちが決めてる。私はそれが自分勝手なことだと思う。どんなダンスをするべきか、ペアダンスをするべきか、全員の話し合いで決めるべきだった」


「うちらはダンスの実行委員をやってあげてんの。何もしてないのにごちゃごちゃ言わないでくれる?」


 あれ?


 あの陽キャ女子Aさん、自分の暴言が生中継されていることに気付いてない?


 確かにマイクで話している人は、自分のマイクが入っているのか自分で確認しにくいという。

 声聞こえてますか、って周囲の人に確認するくらいだしね。


 それにしても、これはそろそろ教師が動いた方がいいのでは?


 と思ったが、体育教師Aはまだ鼻くそほじってるし、体育教師Bは耳クソをほじり始めた。


「とにかく、私は誰ともペア組まないから」


「そんなことできませーん。うちらが強制的に決めるもんねー」


「あ、いいね! いっそのこと相川(あいかわ)君とかでいいんじゃない」


「うわーまじお似合い! そうしよそうしよ!」


 相川君は生粋のオタクで、女子からモテないランキングを作ったら最下位になれるかもしれない逸材だ。


 この場合、水越よりも相川君が可哀そうだ。

 今度ジュースでも奢ってあげよう。


 一度も話したことないけど。


「水越さん、大丈夫かな?」


 隣で揺れている猫音子さんが心配そうに聞いてきた。


 俺に聞かれてもわかるわけない。

 女子の間のギスギスなんて、男子からすれば絶対に関わりたくないブラックホール。


 だが、これはマイクで生中継されていることもあって全体に知れ渡ることになったし、水越が一方的に非難されるようなことはないだろう。


「ああいうのに巻き込まれたことある?」


「……ない」


 そうか。

 ないのか。


 俺も経験ないからわからない。


「先生がどうにかしてくれることに期待しよう」


 そうは言ったものの、2人の教師は動かなそうだ。ていうか、この事態に気付いてすらいなさそう。


 するとここで――。


『水越さんを虐めるなー!』


『そうだそうだ! 水越さんが可愛いからって、嫉妬してんじゃねーよ!』


『かっこ悪いですよー!』


 水越を擁護する声が複数上がる。


 そこには水越にメロメロの男子たちの声もあれば、水越に憧れている女子たちの声もあった。


 陽キャ女子たちには今何が起こっているのかわからない。


 マイクに気付いた1人が、慌ててマイクを切る。

 でも残念だったね。時すでに遅し。


『水越さんだけはソロで躍らせろ!』


『センターでいいだろセンターで!』


『これでお前らがセンターで踊ってたらストライキするぞ!』


 凄いスカッとするじゃん。

 今の陽キャ女子たちの唖然とした顔を写真に撮って、学校中に拡散したいくらいだね。


 こうして、我らがメインヒロイン水越は、誰ともペアを組まないことになった。


 シナリオはこうして狂い始めていく。

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