第39話 恋人になった〇〇ヒロイン
「にゃー」
猫の鳴き声が聞こえる。
人類で最も猫に近い少女である火波猫音子。
今、彼女は俺の膝の上で丸まり、優しく撫でられながらお昼寝している。
ほんのり温かく、そして柔らかい。
だが、俺にとって猫音子さんはペットの猫であり、ガールフレンドではない。俺は猫音子さんを彼女に選ばなかった。
「ねえ白狼、今度『ダンラブ』の最新刊が出るらしいよ!」
元気よく声をかけてくれたのは、女子人気がとんでもなく高いイケメン少女である空賀栗涼。
今、彼女は俺の部屋のベッドに腰掛け、大量の漫画を一気読みしている。
ショートパンツから覗く太ももは健康的で、そして艶がある。
だが、俺にとって栗涼はオタク友達であり、ガールフレンドではない。俺は栗涼を彼女に選ばなかった。
「来週は映画2本観に行くわよ。覚悟してなさいよね」
ツンツンと尖った声。
この声の持ち主は、俺の義理の姉で映画好きの少女である風野犬織。親が再婚する前の名前だと土山犬織。
今、彼女は俺の前に立ち、手を腰に当てながら澄ました顔をしている。
大きな胸はしっかりと張っていて、そしてウエストは引き締まっている。
だが、俺にとって犬織は義理の姉であり、ガールフレンドではない。俺は犬織を彼女に選ばなかった。
「白狼君、今夜は一緒に寝ようね」
「はいもちろんです」
クールで繊細な声。
洗練されたビジュアルから放たれるこの声の主は、この物語のメインヒロインである水越莉虎。
今、彼女は俺のすぐ後ろに立ち、優しく腕を回してきている。
すべすべの肌が俺の体に当たり、俺の胸を焦がす。
――俺は最終的に水越を選んだ。
メインヒロインだけは選ばないというつもりだったのに、どうして気が変わったのか。
それは単純だ。
みんなヤンデレになってしまったので、それならメインヒロインを選ぶよねという心理が発生してしまったから。
こうして俺にはヤンデレだが最高の彼女ができ、今はそれなりに充実した高校生活を送っている。
――だが、残りの3人はヤンデレだ。
一度俺に対してヤンデレを発動させてしまったら、もう誰にも止めることはできない。
彼女たちは俺を愛し続ける。
恐ろしいことに、俺が付き合う相手を決めたところで、4人のヒロインとの関係はさほど変わっていなかった。
むしろ、以前よりもずっと傍にいる。
トイレや風呂にもついてこようとするし、寝る時も1人では寝かせてくれない。
これを羨ましいと捉えるか、鬱陶しいと捉えるかは人それぞれだ。
でも、少なくとも俺はこの状況に疲弊している!
ていうか、ヤンデレ4人に囲まれた時点で、もう詰みじゃない?
どうすることもできない。
彼女たちから逃れることも、解放されることもない人生。
それがヤンデレを彼女にしてしまった男の未来だ。
「にゃー」
唯一の癒し枠は猫ちゃん。
やっぱりペットは偉大だよね。
***
「白狼君、私のこと愛してる?」
「うん愛してるよー」
メインヒロインにそんな目で見つめられたら、こう答えるしかない。
「そうだよね。でも、白狼君は私の所有物だから、勝手に他のメスに近付いたりしたらダメだからね。あの猫ちゃんは私が代わりにお世話するから、白狼君は私だけを見ていればいいんだよ。ずっと一緒にいようね」
おいおい。
ヤンデレって最高だな!(笑)
《作者あとがき》
こんにちは。エース皇命です。
今作を読んでくださり、ありがとうございました。
僕の推しヒロインは猫音子ちゃんです。
猫好きなので。にゃー。
作中で登場した『ダンラブ』も、小説家になろうなどの小説投稿サイトで連載しています。気になったら読んでみてください。
では、また次の作品でお会いしましょう。
これからも読者の皆様に楽しんでいただけるようなエンターテインメントを提供し続けます。