第38話 終わりを迎えるヒロインレース
モブに慣れているというのは、存在感を限界まで消す能力に長けているということ。
この特殊能力のおかげで、犬織と栗涼から逃げることができていた。
そして思う。
――俺、詰んでね?
やっぱり詰んでる。
おかしいのだ。
俺がメインヒロインの水越莉虎を避けていたのは、彼女がヤンデレになるリスクが高いから。
だから他の3人のサブヒロインの中から真のガールフレンドを発掘しよう作戦を実行していたのに、みんなヤンデレになってしまった。
これはアレだ。
全てのIFエンドを経験してみると、どの結果も同じような悲劇を生むというジレンマ。
これが最近感じていた、『詰み』の正体であった。
――このままじゃヤバいな。
みんなヤンデレ。
俺はヤンデレが苦手。
だとしたら、誰とも付き合うことはできない。
でも……それだけは避けようとする、彼女欲しい男の必死な意志が存在していた。
どのヒロインにも魅力がある。だからこそ、選べない。
しかし俺は決断を下さなければならない。
1人のクズ系ラノベ主人公として、このヒロインレースに終止符を打たなければならないのだ。
***
ひとまずは放課後。
深呼吸をして、体育館裏で待つ猫音子さんのところへ向かう。
「にゃー」
小柄で可愛らしい天使が、猫耳をつけたままポツンと立っていた。
「猫音子さん」
「体育館裏、暑い」
体育館裏を選んだのは君だ。
「それで……どうしたの?」
なんとなく告白的な雰囲気は流れているが……これで違ったら恥ずかしいので、変な憶測はやめておこう。
「シロのペットになりたい」
そう来たか。
「ネネ、シロに飼われたい」
「それって、彼氏と彼女になりたいって感じの意味で捉えてもいい?」
「にゃー」
「それってイェスって意味のにゃー?」
「うん」
ここはちゃんと『うん』って言ってくれるんだ。
その小さくてほんのり頬を赤らめた頷きが、可愛すぎた。
「俺は――」
俺の中で、結論は出ている。
この猫も多分ヤンデレだ。
だが、もうヤンデレだからとか関係ないから告白の答えを――。
「白狼君、いや……白狼様、さがしましたよ」
「水越さん?」
「今日は1日白狼様専属のメイドです」
「あ……できればいつもの口調に戻ってほしいんだけど」
またも乱入者が現れる。
今度はメインヒロインの水越だ。
メイド姿の水越は、やっぱり誰よりも目立っていて、光り輝いているように見えた。
「白狼君、話聞いてたけど、実は私も……白狼君のことが好き」
そしていきなりの告白その2。
どうやら今日が決断を下す時らしい。
物語の本来のシナリオだと、まだ1ヶ月くらい先の話だったけど……ヤンデレが増えて、スピード重視の勝負になってきたのかな。
「「白狼!」」
ここでまたあの2人が。
「わたしと結婚しなさい! いいわね!」
「最初にプロポーズしたのはボクだよ! だからボクと結婚してくれるよね?」
急に飛び出た『結婚』という言葉に目を大きくする子猫と初代ヤンデレ。
まあ、この2人もそのうち結婚とか子供とか言い出すんだろうけどね。付き合ったらの話だけど。
俺の前には4人のヒロイン。
ヤンデレ1号に、ヤンデレ2号、ヤンデレ3号と、ヤンデレ4号。うん、みんなヤンデレなんだもの。
最初にメインヒロインの水越を見る。
全員美少女だが、やっぱり水越は勝ちヒロイン。
このメンバーの中にいても、彼女の美貌は輝いているし、誰よりも目立っていた。
次に猫系ヒロインの猫音子さん。
図書室にいる天使。
ふわふわしていて、純粋に可愛すぎる。
猫になりたいという、人類の中でもかなり上位に食い込むほどの壮大な夢を語り、今、その夢が実現できるのではないかというまでの猫クオリティに至った。
そして義姉の犬織。
彼女を女として見たのは、俺が前世の記憶を思い出してからだ。
とはいえ、圧倒的なスタイル、盛られたツンデレ属性、チョロインなところ。全てが犬織のキャラクターとしての魅力を最大限まで引き立てている。
最後に王子様になった栗涼。
中性的な容姿から他とは違う美少年オーラを放ち、どこか天然な雰囲気も纏った不思議なヒロイン。
最初に想いを伝えてきたのは彼女が初めてだった。
まあ、その想いは想像以上に重いものだったけど。
「みんな……俺は――」
ついに、このヒロインレースに終止符が打たれた。