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第35話 子猫ヒロインのヤンデレ覚醒レベル1

 なんか知らんけど、ボーイッシュ系ヒロインからプロポーズされた。


 それも、映画を観ている最中に。


 俺の頭の中に、栗涼(くりす)との楽しい結婚生活のイメージが広がっていく。

 子供は最低でも3人くらいは欲しいな。


 鼻を突き抜ける柑橘系の香り。


 すっかり興奮して息が上がっている美少女の隣で、俺の心臓は限界を超えてドキドキと脈打っていた。


「結婚……」


「あ、その……白狼(しろう)が良ければ、だけど……」


「結婚を前提に付き合うってことだよね……?」


「ううん、結婚したいんだ……もう白狼しか考えられなくて……」


 視線が熱っぽい。

 とてもエロい。


 だが、『もう白狼しか考えられない』というセリフからは、危険な香りがする。


「少し考えてもいいかな?」


 いきなり結婚なんてあり得ない、とは断らない。


 なぜなら、俺にも栗涼しか残されていないからだ。


「うん……また学校とかで、答え聞かせてほしいな」


「……わかった」


 この間にも、大きなスクリーンでは主人公とヒロインが熱いキスを交わしていた。




 ***




 いろいろあったが、いい感じで栗涼とのデートは終わりを告げた。


 映画を観た後、一緒にアニマイトに行ってオタク会話を楽しむことができたし、その際には結婚の話題は一切出なかった。


「しまった……」


 ところが、それなりの満足感を抱えて家の前に立った瞬間――。


 肝心なことを思い出す。


 ――犬織(いおり)へのネックレス、買い忘れた。


 始まりは嘘だ。

 栗涼とデートに行くことがバレないよう、慌ててネックレスを買いに行くとか嘘をついたんだった。


 最初はしっかり覚えていたので、モールで適当にいいやつ見つければいいか、くらいに思っていたんだが、映画の途中でプロポーズされたことによりすっかりネックレスのことが頭から消え去っていた。


 ヤバいな。

 今からコンビニにでも行って、ちょっとしたスイーツを買っていこう。


 チョロイン犬織のことだし、なんとかなるっしょ。




 ***




 今週末はいよいよ文化祭。

 体育祭からしっかり切り替え、2週間ほどで準備を行ってきた。


 他のクラスは映像系の出し物だったり、脱出ゲームを企画していたり、面白そうなイベントが巻き起こりそうな予感。


「シロ、図書室来たの久しぶり」


「そうでもないと思うけど」


 火曜日。

 先週の木曜ぶりに図書室に足を運ぶと、いつも通り猫音子(ねねこ)さんがソファでくつろいでいた。


 小柄な体がごろんと、ソファに丸まっている。

 なんて可愛いんだ。ペットにしたい。


「にゃー」


 今日も猫耳をつけているらしい。


 白いモフモフとした猫耳は、猫音子さんの頭にしっかりフィットしていて、最高に似合っている。

 撫でたい衝動に駆られ、普通に撫でてしまった。


「むにゅ」


 変な鳴き声を出して転がる猫ちゃん。


 その勢いでソファから転がり落ちてしまった。


「大丈夫?」


「にゃー」


 大丈夫らしい。


「少し感じてしまった。にゃー」


「感じた?」


「猫耳は猫にとっての性感帯」


「あ、本当(ほんと)に?」


「ん、違うかも。猫の性感帯はお尻」


 へぇ。

 じゃあ今から猫音子さんのお尻触ろうかな。


「しゃー」


 クズの俺が猫音子さんのお尻に視線を注ぐと、一気に警戒されてしまった。


 猫というのは扱いが難しい。

 鳴き声は警戒心に満ちていたものの、表情はそこまで嫌ではなさそう。


 むしろ、早く撫でてと言っているような……って、ノリでセクハラ行為に及ぶのは最低男のすることだ。

 危なかったね。俺はまだ最低男じゃない。


 ついお尻を触ってしまいそうになった自分を罵り、冷静になってソファに腰掛ける。


「にゃー」


「ん?」


「猫は寂しがり屋」


 そう言って、ぷにぷに自家製肉球を俺の太ももの上に当ててくる猫系ヒロイン。


 ちょっと待ってね。

 これ、可愛すぎる。


「俺が図書室に来なくて寂しかったの?」


「にゃー」


「でも、先週の木曜に来たばかりだよ」


「それだとダメ。少なすぎる。シロは毎日図書室に来るべき」


「毎日?」


「昼休みは絶対に来るべき。飼い主なら飼い猫の世話をするのが当然のこと」


 それもそうか。

 俺、この猫の飼い主だもんね。


「わかったよ。できるだけ毎日来るから」


「むぅー。『できるだけ』だと来ない。『絶対』に言い直すべき」


「それは約束できないかな」


 平気で嘘をつける俺だが、さすがに可愛い飼い猫の前で嘘はつけない。


 俺にも良心というものが存在していた。

 これには驚きだ。


「にゃー」


 だが、俺が正直な答えを返すと、ほんの少し怒ったように頬を膨らませた猫音子さんが、全体重を俺の太ももに預けてきた。


 所謂(いわゆる)、膝枕というヤツ。

 飼い主がペットにするとなると、今からイチャイチャ撫で撫でタイムの始まりだ。


「シロは浮気っぽい。他の女子(メスねこ)の頭撫でるのはダメ。シロはネネの頭だけを撫でているべき」


 いやー。

 可愛いな、ヤンデレ(・・・・)猫ちゃんは。

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