第34話 あのヒロインからまさかの告白
栗涼も、もしかしたらアレなのではないか説が出てきたところで、モール内の映画館に着いた。
ひとまずは映画に集中だ。
隣を歩く女の子は紛れもない美少女なので、ドキドキしっぱなしである。
今回観る映画は例の『ダンラブ』とは別のアニメ作品。
だが、お互い2期までちゃんと観ているし、結構好きな作品だ。
昨日は2期の最後の3話分くらいを復習しておいたので、しっかり楽しめるだろう。
「実は昨日、1期から全部観たんだ。もう準備はバッチリだよ」
さすがはオタク。
レベルが違う。
1話だいたい25分くらいなので、1期の2クールを観るだけでも軽く10時間以上はかかる。
2期は1クール。
頑張れば1日で全部観れないこともないけど、さすがに観すぎじゃない?
食事とトイレと睡眠を削ったりしたのかも。
だとすれば、やっぱりさっきトイレ休憩を取っておけば良かったね。
「昨日全部観たの? 1から?」
「うん。止めようと思っても止められなくてさ……」
「十時間以上とか普通にかからなかった?」
「だから徹夜したんだよね。今は逆に目がシャキーンってしてる」
デートの前に徹夜する。
なんか脈ナシ行動な気がするけど。
普通は自分のビジュアルのためにしっかり睡眠を取っておこうってなるんじゃないの?
「大丈夫?」
「絶好調だよ」
それは良かった。
「ちなみに、ポップコーン買う?」
「買う!」
栗涼は自称ポップコーンアレルギーでありながら、チェダーチーズ味のポップコーンを買った。
もちろんLサイズ。
俺はMサイズのうすしお味を買っておいた。
***
映画の最中。
俺には重要なミッションが課されていた。
これはデートである。
隣の美少女とイチャイチャしない手はない。
よって、今回は前回できなかった恋愛イベントを積極的に起こしていきたいと思う!
アニメの内容はラブロマンス。
ということで、前回の『ダンラブ』よりもロマンティックな雰囲気が作りやすい。
とろけるようなキスの音。
エロい吐息。
ほんのりと明るい照明。
客席全体に広がるエロティックな雰囲気のおかげで、隣の栗涼もほんの少しだけ発情して――。
「ねえ、白狼って、キスしたことある?」
「キス?」
いいぞ。
ここでそれっぽい空気を作り、頬にキスとかしてみたい。
なんなら唇でもいい。
もうサブヒロインは栗涼しか残されていないんだ。ヤンデレと猫。どちらも可愛いし魅力的だが、キスは危険な気がする。
「ていうか、今までその……付き合ってる人とか、いたりする?」
「普通にいないけど」
年齢=彼女いない系モブの一員であることを忘れないでもらいたい。
「本当? ボクも同じなんだよね。お揃い」
「そうなんだ。意外だね」
知ってはいたけど、ここは初耳の反応をしておく。
「全然だよ。ボク、女の子からはモテるけど、男の子からはモテないし。それに……ほら、オタクだからさ」
「だから?」
「え?」
「オタクだから、どうしたの?」
「……あんまりよく思われないかなって」
栗涼が口ごもる。
声は小さい。
まあ、まだ映画上映されてるからね。マナー的には当然か。
「オタクの何が悪いの? 俺はいいと思うけど」
「んー、実は……女友達に『ダンラブ』のこと熱く語った時、ドン引きされて避けられるようになったことがあって……」
うん、フォローしにくい。
栗涼のことだから、自分の世界に入り込んでベラベラと喋り続けたに違いない。
確かにそうされたら誰でも引く。
それがオタクっぽい会話じゃないとしても、そんな感じの熱量でガツガツ来られたら、思わず1歩下がってしまいそうだ。
だからといって避けるのは間違ってると思うけど。
「俺は別に『ダンラブ』のこと好きだし、熱く語ってくれても引いたりしないけど」
「白狼……」
熱っぽい目で、こっちを見つめてくる栗涼。
――いい匂いだ。
ヤバいな。
なんか知らんけど柑橘系の爽やかな香りがする。
「やっぱり白狼はボクの味方なんだ……」
「まあ、そうだね」
「ねえ、白狼」
「ん?」
まだ視線が熱っぽい。
このままえっちなことでもするつもりなのかな。だとしたら最高だね。
「もう我慢できないんだ……はぁはぁ……『ダンラブ』とか、アニメのこととか気軽に話せるような人は白狼しかいなくて……はぁはぁ」
「……」
「だからその……ボクは多分、白狼のことが好きで……はぁはぁ……ずっと一緒にいたいと思ってるのかも……はぁはぁ」
「……」
呼吸が荒いよ、栗涼さん。
「それで……だから……ボクと――結婚してください!」
人生で初めて受けた告白は、『付き合って』ではなく、『結婚して』でした。