表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/39

第33話 おバカヒロインのヤンデレ覚醒レベル1

 週末がやってきた。

 ほんの少し緊張しながら迎えた土曜日。


 今日はボーイッシュ系ヒロイン栗涼(くりす)とのデートである!


「ちょっと待ちなさい。どこに行くつもり?」


「買い物にでも行こうかなと」


「わたしも行くから、準備するまで待ってて」


「いや、これは俺にしかできない買い物だし、姉さんにはいつもお世話になってるから、サプライズでネックレスでも買おうかと考えてたんだ」


 ワックスをほんのりと付け、白いシャツに黒い長ズボンという無難な格好。

 いつも以上に清潔感のある装いの俺に、犬織(いおり)は警戒の姿勢を見せていた。


「わたしのことは犬織って呼びなさいよね」


「犬織」


「ま、まあ別に呼んでほしかったわけじゃないんだからね」


 ツンデレだなぁ。

 うん、可愛い。


 付き合いたい。ヤンデレでなければ。


「とりあえずサプライズでネックレス買ってくるね。選ぶのに時間かかると思うから、しばらく帰らないと思うよ」


「ふーん、サプライズなら、わたしに似合いそうなネックレスにしないさいよね」


「犬織のビジュアルならどんなネックレスでも似合うよ」


「わかってるじゃない」


「まあ、これでも弟だからね」


 果たしてサプライズとはなんぞや、という疑問が残ったところで、早速デートに行きましょう。




 ***




 現地集合というのもアレなので、今日のデート相手とは映画館がある街の駅で待ち合わせをしている。


 犬織とどこかに行く時は家から一緒なので、ちゃんとした『待ち合わせ』の経験はない。

 初体験が奪われてしまった。


「あ、白狼(しろう)! こっちこっち!」


 俺に向かって元気良く手を振ってくる快活な美少女は、空賀(くが)栗涼。


 私服姿を見るのは初めてじゃないが、今回は状況が違う。


 栗涼が着ているのは爽やかなブルーニットに淡いデニム。

 トップスの肌見せがどこかセクシーで、いつものボーイッシュさはどこに行っちゃったんですか?っていうくらいの衝撃だった。


 

 青の爽やかさは短い栗涼の髪によく合っているし、健康的で少し色っぽい。


 ――まじか……。


 美少女すぎる。


 付き合いたい。


 もうこのヒロインでいいじゃないでしょうか。

 他のみんなも可愛いけど、ヤンデレとヤンデレと猫だよ?


 もう一度言います。


 ヤンデレとヤンデレと猫だよ?


「ごめん、待った?」


「いや、ボクもさっき来たとこだから」


 デートでその言葉は信用できないと聞いたことがある。


 別に俺は遅れたわけじゃない。

 待ち合わせの時間は昼2時。今は1時48分。


 10分前だし、問題ないよね。


 でも栗涼はさらに前から来て、俺を待っていた。


 最高だな。

 付き合いたい。


「それじゃあ、まずは映画行こうか」


「うん!」


 映画の時間もバッチリ。


 2時20分から上映が始まるのでちょうどいい時間に着いて、ちょうどいい待ち時間で映画を楽しめるだろう。


 今日はデート。


 だが、俺たちは付き合ってるわけじゃないので手は繋がない。


 それでも、並んで歩く二人の距離は、明らかに近付いていた。




 ***




「前はお姉さんと来てたよね」


「そうだね」


「今日一緒に行きたいって言われなかった?」


 どうしてわかる?


「言われたね」


「なんて言って断ったの?」


「買い物に行くって言ったかな」


「へぇ、買い物」


 顎に手をちょこんと当て、何かを考え出す栗涼。


 おいおい。

 今日はやけに可愛いな!


 いつものかっこいい感じはどこ行ったよ? デートってこんなに人を変えるの?誰か教えてくれ!


「この前ちょっと思ったんだけど……」


「ん?」


 隣を歩く栗涼の手がちょんと俺の手に当たる。


 女の子のすべすべの手にドキドキしてしまう。


 一応、ちゃんと車道側を歩けているし、今の俺の表情はニヤけてないし、キモくないぞ、俺。


「……白狼のお姉さんって、白狼のこと好きなの?」


「そりゃあ……家族だから好きなんじゃないかな」


「そういう好きじゃなくて……えーっと、その、好き!って感じの――」


 言語化が下手だな。


「恋愛的にってこと?」


「そうそう、それ」


 やっぱり馬鹿だ。


「それはないと思うよ」


 それはあると思うけど、ここでは言わないでおく。

 それに、できれば栗涼とのデートで犬織の話題を深掘りするのは避けたい。


「そうかなー」


「うんうん、そうそう」


「ボクの勘違いだったらごめんね」


「いやいや、謝ることじゃないと思うよ。普通に姉弟の距離感近い方だとと思うし」


「仲いいよね」


「まあね。それなりには」


 なんだろう。

 栗涼の方から犬織の話題を出してきているような気がする。


「あの……さ」


「どうしたの?」


 今度は急にそわそわし始める栗涼。


 おしっこでもしたくなったのかな。

 ちゃんとトイレ休憩タイムを取っておけば良かった。まだ落ち合って数分だけど。


「できれば、アニメの映画は今後ボクとだけ、観てほしいなっていうか……」


「え、あ……」


「ボクにもよくわかんないんだ。変な気分……白狼が他の(メス)とアニメを語り合ってるって思ったら……むしゃくしゃするっていうか……」


 ――おや?


「とにかく、白狼はボクとしかアニメの(はなし)したらダメっていうか……」


「……」


「……ごめんね、気にしないで。心の声が漏れただけだから」


 あのさ……。


 俺が言いたいことってわかるよね。


 うん、まだアレが確定したわけじゃないから、とりあえずこのデートを成功させようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ