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第31話 ヤンデレヒロイン会話の盗み聞き

 自分の部屋から追い出されてしまうという意味不明な状況。


 そんな状況の中でも、俺は冷静だった。


 自室のドアに背中を当てるようにして座り込み、中で行われている会話を盗み聞きする。

 やっていることはキモいが、自室から追い出されるなんて理不尽なので何をやっても許される気がした。


 この反対側では美少女の着替えが行われていて、ついさっきまで俺もその場に立ち会うことができていたということ。


 その事実を噛み締める。


『やってくれたわね。白狼(しろう)を誘惑するつもり?』


『そうだと言ったら、どうしますか?』


 ドアを挟んでいても、なかなかの声量で話しているので普通に聞こえた。ラッキー。


 俺はこれまでの人生の中で培ってきたモブスキルを駆使し、存在感を限界まで消す。物音なんて立てない。息の僅かな音も極力抑え込む。


 これが究極のモブ道であった。


『白狼がいないとそんなに生意気になるのね。裏表が激しい女、白狼好きじゃないって言ってたわよ』


 確かに好きではないけども。

 そんな発言をした事実はない。


『それはお姉さんも同じではないですか?』


『なに? わたしの何を知ってるわけ?』


『白狼君の義理の姉でありながら、白狼君に色目を使っていることくらいでしょうか』


『よく知ってるじゃない』


 認めるんだ。

 意外と素直だな、ツンデレヒロイン。


『やっぱり白狼君のこと、男性として見てたんですね』


『血は繋がってないから。別に問題ないでしょ。何か文句ある?』


『いえ、ただ、白狼君のどこに惹かれたのかと思って。白狼君、どこにでもいる人畜無害なモブAみたいな男の子ですよね』


 なんかディスられてる気がする。


 間違ってはない。

 だったらいっか。事実だもんね。


 というか、メインヒロインに陰でこんなことを言われていると考えると、ゾクゾクしてきた。俺は変態なんだろうか。


『わかってないわね。白狼はそこがいいのよ』


『わかりますよ。私もそこが好きなんです』


 今、はっきり『好き』って言ったよね?


 もう好き確じゃん。

 メインヒロインはもうすっかり俺に惚れている。まあ、シナリオよりもずっと早くヤンデレを発現したからわかってはいたが。


『白狼君はモブなのに、たまにモブにはふさわしくないような態度を取ることがあります』


『……』


『たまに白狼君は主人公になるんです』


 何が言いたいのかはわからんが、よくわかった。


 俺はラノベの主人公なのだ。


『あんた、見る目あるじゃない。ちょっと誤解してたかも』


『私もお姉さんのこと誤解してました。話のできる人なんですね』


 今日はたまたまツンデレ値が低いからだと思うよ。


『ふん! まあ、わたしは話のできる女だから』


 チョロ値が高い。


『はい。これで和解できましたね』


『調子に乗らないでよね。ま、まあ、少しは見直したかもだけど』


『それなら、私に白狼君を譲ってくれませんか?』


『は? 急に何――』


『白狼君、もしかしたら私のこと好きなのかもしれません』


『そんなわけないでしょ。白狼はわたしのことが好きだから』


『それは家族としてだと思いませんか?』


『家族としても好きだし、お姉ちゃんとしても好きだし、女としても好きなのよ』


『そう言い切れますか?』


『……白狼がそう言ったから間違いないわ』


『嘘ですね』


 また嘘を平気でつく我が姉。


 そしてそれを冷静に見抜くクールなヤンデレヒロイン。


 しかし、ここで俺は気付いてしまった。


 これは女性同士の会話。

 盗み聞きは万死に値するし、それで興奮しているなんてもっての外である。


 いつから俺はクズになったのか。最初からクズだったような気もするし、メインヒロインの暴走を認め始めてから狂い始めたような気もする。


 ――ちょっと待てよ。


 俺が本当にすべきことは何なんだろう。


 ここから逃げることではなかろうか。

 そもそも、俺の本当の使命はメインヒロインを避けることにある。そんなメインヒロイン水越(みずごし)を、家にあげてしまったこと。


 ――もう詰んでね?


 そう、俺は詰んでいた。


 メインヒロインはヤンデレ。姉もヤンデレ。

 猫はペット。


 残るはボーイッシュオタクヒロインのみ。


「俺は……」


 自室のドアが揺れる。


 2人の言い合いが殴り合いにまで発展してしまったんだろうか。


 だが、そんなのどうでもいい。

 俺にはやるべきことがある!


 まずはバレないようにリビングに移動し、最初からくつろいでましたって感じでソファに寝転がっておこう。

 これで盗み聞きの事実は隠蔽(いんぺい)される。


『白狼君、そこにいるよね?』


「……」


 水越にバレた。


 と思ったが、まだだ。

 疑われただけで、このまま返事をしなければ気のせいだと思ってくれるに違いない。


『白狼君』


 俺の名を呼びながら、ガチャっとドアを開ける水越。


 気配を消してリビングに移動するというミッションインポッシブル。

 結果は失敗に終わった。


 が――。


「水越……さん……それは……」


 ここでお披露目となる水越のメイド服姿。


 ダメだ。


 ここでメインヒロインに心奪われてはいけない。


 水越はヤンデレ。


 犬織(いおり)もヤンデレ。


 今の俺がやらねばならないことは、この状況で一切動じず、無の境地に立って今日という日をやり過ごすこと。


「白狼君……どう、かな? 似合ってる?」


 しかーし、もういいです。


 水越可愛すぎるんだもん。

 今日くらい骨抜きになってもいいよね。

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