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第3話 図書室で会える猫系サブヒロイン

 昼休みは図書室へ。


 本来なら空き教室へと駆け込むはずだった。

 というのも、そこで水越(みずごし)と一緒に弁当を食べるためだ。


 夏休みに入る数週間前、水越がいきなり俺がボッチ飯を満喫していた空き教室にずかずかと入ってきて、無言で弁当を食べ始めたのが全ての始まりだった。


 今思えば、これは完全な恋愛イベントである。


 いや、恋愛フラグ。


 コイツ絶対白狼(しろう)のこと好きじゃん!と思わせるための、確定演出だったわけ。


 その当時の俺の心境は、こんな可愛い娘が無課金で一緒にランチしてくれるなんてラッキー、って感じだったような。


 とにかく、水越は夏休みが明けて初日の今日も、例の空き教室に行けば俺と会えると思っているかもしれない。


 もしここで一緒に昼食を食べてしまえば、俺は彼女にメロメロになり、彼女もまた、どこにあるのかわからない俺の魅力に気付き始める可能性がある。


 てなわけで、空き教室を意図的に避け、図書室に直行します。


 それに、図書室行きにはもう1つ、大きな理由がある。




 ***




「どうも猫音子(ねねこ)さん」


「にゃー」


 図書室に入っていくつかの本棚を通り抜け、あるサブヒロインがいる空間にたどり着く。


 生徒がリラックスして読書できるように設置されたソファの上で丸まっているのは、同学年の火波(ひなみ)猫音子。


 ほわほわ系美少女。


 俺の中での評価はそんなところ。


 美人というよりは可愛い顔立ちに、小柄で華奢な体。


 ボブの髪は内側にクリっとカールさせている。


 特徴的なのは、左右の八重歯。

 どうして日本人は八重歯が好きなのか。


 理由はわからんけど、すんごい可愛いのだ。


 そんな可愛い代表、猫音子さんは、まさに子猫のように小さく丸まっている。


「む……おはよう」


 俺が声をかけたことで、眠たげな目を擦りながら体を起こす猫音子さん。


 俺と彼女の接点はズバリ、『ボッチ』だ。


 特に友達のいないボッチは昼休みに教室で過ごすのがなんか気まずい。そんなボッチの最強の味方が、図書室である!


 空き教室を使うようになる前、俺は頻繁に――というか毎日昼休みに図書室で時間を潰していた。

 読書も嫌いじゃないし、最適な場所だからね。


 そんな中、猫音子さんもまた図書室にずっといた。


 最初は本が好きな文芸ガールなのかなとか思ってたが、そうじゃないっぽい。


 ――昼寝。


 快適な昼寝を求め、人類で最も猫に近い存在である猫音子さんは、このソファのある癒しの空間に出没するのだ。


 で、なんかちょっと話しかけてみたら顔見知りくらいにはなったよね、という感じの関係になった。


「シロが図書室(ここ)に来るの、久しぶり」


「たまには来てたけど」


「違う。何週間も見かけなかった」


 それはない。

 本を借りたら返さなくてはならないのだ。


 俺は水越と昼食を取るようになってからも、本の貸し借りのために週に最低でも2回は図書館に出入りしていた。

 猫音子さんはただ、ぐっすり眠っていて気付かなかっただけ。


「これからは、また来る?」


「あ、図書館に?」


「うん」


「そうだね。今後は毎日世話になろうと思ってるよ」


 メインヒロインを避けるために。


「そうなんだ。ふぇぃ」


 なにその可愛い言葉の並び。


 猫音子さんの愛嬌のある顔と声で言われたら、余計に尊い。


 あ、ちなみに猫音子さん呼びは当時の俺が彼女の苗字を知らなかったから。猫音子さんは名字を名乗らない系ヒロインでもあった。


 猫音子さんがソファから完全に起き上がり、ぐぐぐっと背伸びをする。


「ぷふぁ」


 小さな顔で大きな欠伸(あくび)。八重歯が目立つ。


 そのままトトトっと俺の方に近付いてくると、ほんの少し誇らしげな表情で、ない胸を張る。


「ネネは最近本を借りた」


「う、うん」


「ついにネネも、本を読む!」


 1年以上図書室に通っていながら、本を読まなかったことの方が驚きだ。


「小説をいきなり読むのは難しいっぽいから、これ。図鑑借りてみた」


「小学生かな」


「ここに猫の全てが書いてある」


 図鑑を開き、しおりが挟まれたページを見せてくる。


 そこには猫の生態について詳しく記載されていた。

 名前にも猫が入ってるくらいだし、本人も猫が好きなんだろうか。


 自分の名前から何かを好きになることってあるよね。


 俺も自分の名前に入っている狼は結構好きだ。

 動物の中でも、ベスト5くらいには入ると思う。


「シロも猫から生き方を学ぶべき。ネネは高校を卒業したら猫になりたい」


 真顔でよく言えるなそんなこと。


「いいと思うよ」


 夢を否定しないのが俺のポリシーだった。




 ***




 数学のコース別授業などに使用される4階のC教室。


 水越莉虎(りこ)はその教室で1人、静かに弁当を食べていた。


「どうして……」


 夏休みを挟んだものの、いつも通り白狼が来るだろうと思って待ち伏せしていたのだが、結局彼は現れなかったのだ。


 きっと何か用事があるんだろう。


 勝手に期待して待つ。


 しかし、昼休み終了のチャイムが鳴っても、白狼は姿を見せなかった。


風野(かぜの)君……」


 莉虎の虚しい呟きが、4C教室で儚く消えた。

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