表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/39

第29話 旧ヤンデレヒロインVS新ヤンデレヒロイン

 待ちに待った水曜日。

 犬織(いおり)よりも先に家に帰ると、すぐさま部屋の片付けを始めた。


 放課後、犬織はいつも下足室で俺を待っている。


 だから今日は彼女に捕まらないよう、こそっと靴を回収した後、わざわざ校舎の裏側から出ることで学校を脱出。


〈しろー、今どこ?〉


 ダッシュで家に着くと、まずスマホを確認する。

 すると、犬織から100件もの通知が来ていた。


〈もう終わった?〉


〈ねえ〉


〈終わったでしょ〉


〈あんたの靴ないんだけど〉


〈まさか……〉


〈逃げた?〉


〈そんなはずないよね〉


〈別に、しろーといっしょに帰りたいって思ってるとかじゃないんだからね〉


〈勘違いしないで〉


〈未読〉


〈スルー?〉


〈お姉ちゃんに未読スルーとかしないはずよね〉


〈スマホみてない?〉


〈あんたのことなんか別に気にしてないんだから〉


〈調子乗らないで!〉


 こんな調子で、100件。


 今こうして見たことで、その100件のメッセージ全てが既読になったわけだ。

 ってことは……。


〈やっと見たの?〉


〈ねえ〉


〈返信遅い〉


〈返信〉


〈おそい〉


〈今から3秒以内に返したら許してあげるから〉


〈早く〉


〈返信〉


〈しなさい〉


 ポンポンポンポン通知が来る。

 通知の波は止まらない。


〈もしかして〉


〈家帰った?〉


〈わたしを置いて?〉


 ここでどう返信するのがいいんだろう。


 想像の中で浮かび上がる、犬織の怒った顔。

 普通に可愛いし付き合いたい。


〈ごめん〉


〈家に帰りました〉


 とりあえずそう送ってみる。

 謝罪と現情報告だ。


〈どういうこと?〉


〈まだ学校なんだけど〉


〈わたし〉


 はい、知ってます。


〈とにかくごめんなさい〉


 こういう時は何度も謝ることが大事だ。

 相手に呆れられるまで、謝り続ければいい。そしたら相手も諦めて深い溜め息をつき、今日のことを水に流してくれる。


〈謝って済むことだと思ってる?〉


〈大間違いだから〉


〈それ〉


 それもそう。

 でもここで引くわけにはいかない。


〈本当にごめんなさい〉


〈反省しています〉


 このあたりで諦めてくれないかなぁ。


〈本気で反省してるのね〉


〈まあ〉


〈あんたといっしょに帰れなくて嬉しいくらいだから〉


〈別にいいけどね〉


 やっぱり犬織はツンデレであり、チョロインだ。


〈わかった〉


〈それじゃあ、明日からは1人で帰るね〉


 ここで俺が攻撃に出る。


 ツンデレにはなかなか当たりの強い攻撃だ。


 正直、毎日犬織と帰ることができるのは凄く幸せだが、最近はヤンデレの警戒もあって少し距離を取りたい。


〈普通にダメだから〉


〈あんた1人で帰れないでしょ〉


〈お姉ちゃんが一緒に帰ってあげる〉


 今日、俺は1人で家に帰ったんだが。


 それに夏休み前までは普通に1人で帰ってたし……ツンデレだからといって、俺のレベルを下げるのはやめてほしい。


 俺にも高校生としてのプライドがある。


〈いや普通に帰れるから〉


 ここまで返して、ひとまずスマホを見るのをやめる。


 こうして早く帰ってきたのは、部屋を片付けるため。

 そもそもそんな散らかっているわけじゃないんだが、できればゴミ箱のゴミとか、本棚の上のほこりとか、あらゆる負の要素を取り除きたいところ。


 部屋に入ってくるかはわからない。


 だが、家にメインヒロインが来るのだ。


 そう、犬織は水越(みずごし)に直接家に来るなと言いにいったものの、意外と頑固な水越はまったく聞いてくれなかったらしい。


 残念だね。

 俺としても、メインヒロイン回避作戦が失敗に終わってしまうことに対して、凄くがっかりしているよ……。




 ***




「お邪魔します」


 可憐な声が玄関に響き、爽やかな香りを纏った水越が俺の家に入ってくる。


 さらっとした、流れる髪。


 体育祭のタイミングでバッサリ切ってショートになったわけだが、ロングの時もショートの今も、どちらも最高に似合っている。


 ――って、待て。


 コイツはヤンデレだ。


 デレデレしているわけにはいかない。

 こうして家に来ることになったわけだけど、普通に考えてこれヤバくない? 間違いが起きないように全神経を集中させなくては。


「ここに白狼(しろう)君が住んでるんだね」


「あ、うん」


「白狼君の部屋、良かったら見せてくれないかな?」


 なんと。


 ここでいきなり部屋紹介イベント。

 ちゃんと掃除しておいて良かった。


 というか、もうすぐ犬織が帰ってきそうなので内心ヒヤヒヤだ。


「お姉さんは?」


 心の中を読まれた。


「まだ学校にいると思う」


「珍しいね。いつも一緒に帰ってるみたいだから」


「知ってるんだ」


「もちろん。白狼君の学校でのことなら、なんでも知ってると思うよ」


 超能力でも使ってるのかな。


「そんなに面白くない部屋だけど」


 そう言いながら、自室のドアをゆっくりと開ける俺。


 匂い対策もしっかりしたので、少なくとも臭くはない。


「綺麗な部屋だね」


「そうでもないけど」


 お世辞ってわけでもなさそうだ。

 表情はいつものクールな感じだが、瞳孔は開いていて、興味がありそう。


 水越は本棚と勉強机を確認すると、そのまま俺のベッドの方へと歩みを進めた。


 ベッドに腰掛ける水越。


 ――水越が……俺のベッドに……座ってる……。


 なんとも言えない感情の高揚に興奮を抑えられないでいると――。


「白狼!」


 犬織が帰ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ