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第28話 家に来るヤンデレヒロイン

 圧倒的美少女の水越(みずごし)

 そんなクラスのトップがメイドをやるとなれば、男子は大喜び。


 渋い顔をした陽Bが許可を出すと、たちまちクラスはお祝いムードとなった。


 当然ながら、例の陽キャ女子軍団はまったく祝福してなかったけど。


「メイドって難しいのかな?」


 祝福ムードが落ち着き、再び陽Bの進行が再開した頃。


 隣の席の水越が、耳打ちするようにこそっと聞いてきた。

 突然の囁き声ASMRに脳が破壊される。


「水越さんなら楽勝だと思うよ」


「そう?」


「え、うん」


 最初の「え」がキモい。

 言わないようにしようと心掛けているものの、やっぱり水越に話しかけられると動揺しちゃう系男子だから仕方ない。


 ていうか、いつの間にか水越さんにいいところ見せようってなってない?


 俺の目的はメインヒロインとの恋愛フラグをへし折ること。

 へし折るどころか、標準のシナリオよりずっとメインヒロインに接近しているような気がする。


 だって、いきなりリアルASMRされたらトロトロに溶けるでしょ。

 そういう反則技ズルいよね。


白狼(しろう)君はメイド詳しい?」


「いや、そこまでは」


「少なくとも私よりは詳しいよね」


「そんなことないと思うよ。ほとんど知らないようなもの――」


「私よりは、詳しいよね」


 なんだこの威圧感。


 それを放っているのはトップ・オブ・美少女の水越莉虎(りこ)です。


「あ、うん」


 その重圧に簡単に負けてしまう俺。


 弱いね。


「それなら、今度白狼君の家で練習してもいいかな?」


「……ん?」


 聞き間違いかな。


「今度実際に白狼君の家に行って、メイドの格好で白狼君を接客してみようかなと思って」


「なんで?」


「練習は大事だから」


 それもそうだね。

 練習しないと上達しないし。


 ……って、俺が求めてた答えとは全然違うんだが。


「俺の家に来る意味ある?」


 俺の家に水越が来る……俺の家に水越が来る……。


 ヤバい。

 想像しただけで心臓が破裂しそうだ。


 ここは絶対に阻止しなければならない! だってヤンデレは、危険なのだから! このメインヒロインは、もうヤンデレの扉を開いてしまっているのだから!


「あの人たちとは練習したくないし……」


「ああ、なるほど」


 あの陽キャ女子軍団も、嫌っている水越と練習なんてしたくないだろう。


「でも、俺の家で練習するって結論にはならないと思うんだけど」


 いいぞ、俺。


 なんとかして水越来訪を阻止せねば! 恋愛イベントは回避しないといけないんだろ!


「そうかな?」


「ん?」


「風の噂で、白狼君の家には今、両親がいないって聞いたよ。だとしたら、私を招待しても何の問題もないよね?」


「それはそうなるけど、俺の家に行く理由は――」


「ダメ、かな?」


「ぜひ来てください」


 いかんね、これは。


 クールな美少女が切れ長の瞳をうるうるさせながらこっちを見てくる。


 そんなのに耐えられる男がいるでしょうか。

 (わたくし)には無理でした。




 ***




「……白狼?」


「……」


 その夜。


 俺はパジャマ姿の犬織(いおり)に正座させられていた。


 水曜日に水越が来ることになったことをさらっと伝えると、こうなったのだ。


 適当に流してくれることを望んでいたものの、それには無理があったっぽい。

 犬織の目は完全に冷え切っていて、心配になるレベル。


「水越さんを家に連れてくるって……どういうこと?」


「俺は悪くないんだ」


 本当にその通りである。


「お姉ちゃん思うの。水越さんはあんたにとって良くない影響を与えるわ」


「良くない影響?」


「あんたのことを(もてあそ)んでるのよ。別に嫉妬してるからこんなこと言ってるとかじゃないんだからね」


 完全に嫉妬してる人のセリフだ。


 ほんの少し視線を逸らしながら恥ずかしそうに言うそのセリフが、とにかく尊い。


「水越さんは優しいし、そんな人じゃないと思うよ」


「それは……わたしはそんなにその()のこと知らないけど、家に連れ込むのはダメだから。いい?」


「今さら断れないんだけど」


「……わかった。わたしが本人に言っておいてあげる。感謝しなさいよね!」




 ***




 翌日。火曜日の放課後。


 風野(かぜの)犬織は莉虎が下足室を出るタイミングを見計らい、接触した。


「水越さん、ちょっといい?」


「あなたは……お姉さん?」


「あっ――あんたにお姉さんなんて呼ばれる筋合いはないわよ!」


 お姉さん呼び破壊力に一瞬意識を飛ばしそうになった犬織だったが、相手にぶつかることで平常心を取り戻していく。


 同性である犬織も、水越の美しさは認めていた。


「それで、どんなお話でしょうか?」


「白狼から聞いたの。明日うちに来るってこと。あれ、断らせてもらうから」


「どうしてですか?」


「姉として、わたしが家を守ってるからよ。弟の白狼もね」


「でも、これは白狼君と私の問題であって、お互いに了解し合っているわけですから」


「わたしだってその家に住んでるの。だから断る権利くらいあるはずよ」


「ありません」


「なっ――あんた、本性見せたわね!」


 犬織が嬉しそうに叫ぶ。

 やっと水越の尻尾をつかんだのだ。


「お姉さん、白狼君のこと独占しているつもりかもしれませんが、彼は私のものですよ」


「喧嘩売ってるわけ? 白狼はわたしの所有物なの! 人のものを盗ったらダメって教わらなかった?」


 犬織の問題発言に対し、水越も驚くほどに病んだ(・・・)瞳で答える。


「はい、もちろんです。だからお姉さん、私の白狼君を返してください」

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