第27話 最強メインヒロインとメイド喫茶
体育祭イベントが終わりを告げた。
結果的にはメインヒロインのヤンデレは思っていた以上に早く発現することになり、クラスの陽キャ女子軍団との関係が悪化してしまったが……まあ、いいでしょ。
可愛い猫の予約ができたし、ボーイッシュ系ヒロインとのデートも決まった。
犬織は完全に脈ありだ。
こうして迎える文化祭イベント。
今回こそ完全にヤンデレメインヒロインを振り切り、魅力的なサブヒロインと青春を楽しむぞ!
***
というわけで、2週間後の文化祭に向け、学校全体で目標の切り替えが行われた。
体育祭はメインヒロイン水越様のおかげで優勝することができたし、クラスの雰囲気も結構いい。
陽キャ女子軍団は、優勝できたのが自分たちのおかげだと言い張っているらしいけど。
とにかく、今日から文化祭に向けての話し合いだ。
「みんな文化祭何するー?」
文化祭準備として取られた、月曜最後の授業。
実行委員はなんとあの陽キャ女子軍団の1人、陽キャ女子Bである。
全員に質問を投げかけるような感じだが、実際は後で全てをコントロールつもりだろう。
なんで俺が知ってるのかって?
さっき例の軍団が話してるのを盗み聞きしたから!
「ウチ、メイド喫茶したーい」
「それな!」
今日もソレナは絶好調だ。
「え、もうメイド喫茶で良くない? 誰も反対しないっしょ」
「それな!」
「みんな賛成だよね?」
誰も何も言わない。
絶対メイド喫茶やりたくないって人もいると思うが、そんなの口にできる雰囲気じゃない。
こんな時に先生がいないのも問題だよね。
我らがモブ担任は、自分のクラスに無関心だ。
もう少し役割があってもいいと思うのは俺だけなのか。
「誰も何も言わないし、メイド喫茶で決定ね! それじゃあ、今から――」
陽キャ女子B(次から陽Bと呼ぶことにする)の目がゴミを見るようなものに変わる。
少し前から、生徒の注目を集めている存在がいた。
この状況で、1人静かに手を挙げ続けている猛者だ。
「水越さん、どうしたの?」
表面的には優しく聞く陽B。
「これだとクラス全体の意見が聞けてないから、それぞれ紙か何かに書いて多数決で決めた方がいいと思う」
まったくもってその通り。
俺も大賛成。
こんな時に発言する力も勇気もモブにはないので、匿名で紙に書くというシステムだとありがたいのだ。
さすがはみんなのヒーロー。
「わたしも……それ、いいと思う」
「おれも」
「それだと全員の意見を確認することができるし、より平等で公平な平和的解決だね」
モブクラスメイトたちが次々と発言を増やしていく。
こうやって勢いづけば、モブは調子に乗っちゃうのだ。
そして俺も、その中の1人。
「水越さんに賛成!」
俺の一言はモブ発言の中に埋もれ、目立つことはなかった。
だが、その瞬間だけ、水越からの強烈な視線を感じた……ような気がする。多分気のせいじゃない。気のせいだったら俺が自意識過剰ってことになる。
水越のおかげで、クラスが個人投票の雰囲気に包まれた。
ここで流れに従わなければ、陽Bの立場は悪くなっていくだろう。
最終的には紙じゃなくて匿名サイトへの書き込みでの投票になったが、そんなの些細な問題だ。
そして――。
「1位はメイド喫茶でーす。投票の時間無駄になったねー」
結局、文化祭ではメイド喫茶をやることになった。
俺はモブ&男子なのでそこまで関係ないことか。
陽Bは水越を軽く睨んだが、すぐに取り繕ったような笑顔に戻した。
きっと水越を責めるつもりなんだろう。だが、水越の言ったことは正論であり、結果がどうであれ、陽キャ女子軍団の意向だけで勝手に決めていいものじゃないのは確かだ。
「それじゃあ、メイドやる人決めていくねー。男子は悪いけど全員裏方に回ってもらうとして、女子は可愛い娘何人かよろしくー」
そのまま、陽Bは自分をまずメイドに任命し、いつもの陽キャ女子軍団の名前を呼ぶ。
完全に作られた流れ。
こんなことは言いたくないけど、言わせてもらおう。
――君、そんな可愛くないよ。
頭の中では何度も言ってやった。
「えーウチ全然可愛くないしー」
「それな!」
「ちょっとウチが可愛くないって言ってんの? 喧嘩売ってる?」
「それな!」
ソレナは平常運転すぎて笑えるが、他の陽キャ女子軍団は本当に笑えない。
可愛くないーとか言いながら、自分のこと可愛いと思っているムーブをかましている。
けしからんね。
「私も、メイドやってもいい?」
ここで。
なんとメインヒロインが自らメイドに名乗り出た。
陽キャ女子軍団を除く、クラスのみんなは大喜び。
あのイキりどもに本物の可愛さを見せてやれ。
そう視線で言っているようにも見えた。モブ同士、視線だけで言わんとしていることはわかるのだ。
「……」
陽Bはしばらく何も言わなかった。
だが、このまま拒否してしまえば、クラス全体の反感を買ってしまう。
「わかったー。でも、正直ぃ、メイドって厳しいよー? できるー?」
「できると思う。メイド姿を見せたい人がいるから」
水越はそう言いながら、なぜか俺を見た。