第25話 新星ヒロインからのデートのお誘い
「……この前言いそびれたんだけど、今度一緒に映画とか……行く?」
映画以降接点がなかった爽やかボーイッシュ系ヒロイン、空賀栗涼。
なんと直接のデートのお誘いが来ちゃいました。
どうしましょう。
現時点では、猫ヒロインがペット枠に降格、姉ヒロインにヤンデレの恐れありで警戒中という状況。
つまりこれは、栗涼との積極的な接触を促すデートイベント!
このビッグウェーブに乗らないわけにはいかない!
「もちろん行くよ。来週とか空いてる?」
「……いいの?」
「俺、暇なんだ」
「ボクも暇だよ! 一緒だね!」
運命の一致とでもいうかのように興奮する栗涼。
ちょっとした仕草や話し方から、彼女の知能の低さがよくわかる。
「それじゃあ、今度の土曜日とかどうかな? 映画のついでに街のアニマイトにも行きたいと思ってるんだ」
「ああ、アニマイトか。いいよ」
栗涼からの提案はアニメグッズだったりが専門的に売ってある、オタクの巣窟アニマイト。
俺は映画館にこそよく行くものの、アニマイトには行ったことがない。
ちょうどいい体験になりそうだ。ずっと行きたいと思ってたし、ウィンウィンってやつかな。
「実はその日から『ダンラブ』の限定グッズが発売されるらしくて、白狼と行きたいなって思ってたんだ」
「俺と?」
なんかドキドキする話である。
「いやその……『ダンラブ』のことで語り合えるような友達、ボクにはいなくてさ。ていうか、ボク、あんまり友達いないんだよね」
「そうなの? でも女子から凄い人気で――」
「よくわかんないんだけど、キャーキャー言われるだけで話しかけてはくれないんだ」
「あーなるほど」
もしかしたらアレかもしれない。
王子様のような見た目をした同性の栗涼を、推し的な存在として見てしまっているモブ女子生徒たちの仕業かもしれない。
恐れ多すぎて近付くことなんてできませーん、って感じの。
それに、彼女は変人だ。
バレないと思って男子トイレに入り込んだりするわけだし。
「部活とかは入ってないんだっけ?」
「推し活で忙しいから、部活どころじゃないよ。だけど一応帰宅部には入ってる」
それは部活に入ってないってことだ。
「推し活ってアニメキャラとかの?」
「うん、やっぱり1番は龍河様かな。グッズに凄いお金かけてるから、もっとお小遣いが欲しいね」
「それはわかるかも」
誰だってお金は欲しい。
人間だから仕方ないね。
「それと……」
ここで、栗涼が少し口ごもる。
別に言いにくいことだったら言わなくてもいいよ。どうせろくなアドバイスできないから。
「……次のテストは心配だな。ボク、実は頭悪いんだ」
知ってます。
「それで……もし次のテストで赤点取ったら、家庭教師を雇うってお母さんが言い出しちゃって……」
「あらら……」
こういうタイプには家庭教師を雇ったところでどうにもならない気がする。
まあ、それは家庭教師になった人の実力次第だけど。
しかし、その人には相当な苦労がのしかかるであろうことは確実だ。気の毒に。
「正直、家庭教師と1日に2時間とか勉強させられるのは嫌だし、基本的に勉強は大嫌いだから……どうにかして赤点を避けたいんだ」
「切実な願いだね」
だが、俺にはどうすることもできない。
「それでさ、良かったら、白狼がボクに勉強教えてくれない?」
「……え?」
***
応援合戦が始まった。
こうして特等席で観戦していると、チアリーダー感満載の犬織がしっかりと見える。
ていうかこの応援合戦、応援というよりセクシーダンス大会じゃん。
男子はなんかかっこいい感じでカチカチした動きをやっているけど、女子は逆にくねくねしている。
この言い方だと誤解が生まれそうなのでちゃんと言っておくが、応援団ポジションの女子のダンスは凄く上手だ。
くねくねっていうのは、体がしなやかでセクシーなダンスってこと。
1年と2年の若い少年モブたちがヒューヒュー言っている。
俺はそれをどこか悟った表情で見ることで、一味違う感を出していた。
「応援団でもペアダンスとかあるんだね」
「ペアダンス……」
ということは、である。
ということは、犬織はモブ応援団男子と手を繋いだりすることになるのか。
弟としてそれは許せん。
そう思いながら見ていると、ついに男女でイチャイチャダンスをするパートがやってきた。
見て見て、団長の幸せそうな顔。
多分ペアの女の子と付き合ってるな、この感じ。
「犬織は……」
心臓バクバクで犬織を見る。
すると、隣にはそれなりにかっこいいモブ応援団男子が。
もう引退しているとは思うが、多分陽キャの集まる運動部に所属していたな。彼の醸し出す雰囲気でなんとなくわかる。
が――。
――完全に避けている。
驚くことに、犬織はモブ応援団男子から差し出される手を、一切握らず、一定の距離を取り続けていた。
彼が1歩右に近寄れば、犬織は3歩右に離れる。
――残念だったな、モブ応援団男子よ。
俺は謎の満足感に包まれながら、犬織のセクシーソロダンスを見ていた。