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第21話 髪型を変えるヤンデレ&姉&猫ヒロイン

 体育祭当日。

 天気予報では雨だったのに、なぜか快晴。


 これもメインヒロインの晴れ女パワーだったりするのかな、とか思っていると、犬織(いおり)がなにやらドヤ顔で近付いてきた。


 ちなみに今はまだ家にいる。

 朝ご飯を食べて身支度を済ませ、ちょうど家を出ようとしていた時だった。


「今日のお姉ちゃん、どう?」


「どうって……あ、髪型変えた?」


 素っ気ない感じで対応したものの、実は結構興奮している。


 いつもは下ろしている髪を、今日はポニーテールにしている犬織。

 可愛さを演出しながらも、夏に合った涼しげな雰囲気。


 だが、ここで焦ってはいけない。


 女の子というものは髪型の変化に敏感だ。

 ただ髪型を変えたことに気付いたよ、ということを伝えるだけでは不十分なのだ。


 求められるのは感想。


 可愛いね、というのは愚の骨頂。


 いつも可愛い犬織だ。

 髪型を変えた時に可愛いと言われてしまうと、いつもは可愛くないみたいに聞こえてしまう可能性がある。というか多分そこで俺の評価が下がる。


 よって、ここは無難に褒めることにしよう。


「いつもの姉さんも可愛いけど、今日の姉さんは爽やかで、その……かっこいいよ」


「そう……べっ、別に嬉しいとか思ってないわよ」


 どうやら正解だったらしい。

 犬織は顔を赤らめて、もじもじし始めた。可愛すぎる。付き合いたい。


 というか、まだ犬織呼びの定着化に成功してないな。


 俺がここで『犬織』と名前で呼ぶことによって、俺もしっかりと女性として犬織を見ているんだぞ、というアピールに繋がる。

 純粋に恋愛イベントがこれまで以上に増えることだってあるかもしれないね。


犬織(・・)みたいな美人な姉がいて良かったなぁ」


 ボソッと呟く。


 小さな声ではあるものの、確実に犬織の耳には届いている。


 俺の声をキャッチした犬織は、真っ赤な顔をさらに真っ赤に染めると、ニヤケてしまいそうな口をさっと覆い隠し、睨むようにして俺を見てきた。


「いっ、犬織って――ちょっ、調子に乗らないでよね!」


「はいはい」


 これはいい!


 気の弱そうな陰キャのモブ弟が、姉の前では格上に振る舞う。


 実際に格上かどうかは置いておくとして、今の俺は犬織を転がしている側の人間だ。なにこの強キャラ感。


「ほら、早く準備しなさいよね! 体育祭の準備があるでしょ!」


「はいはい」


 ニヤケてしまいそうなのはこっちの方だ。

 俺は頑張って表情を押し殺し、玄関を出る犬織に続いた。




 ***




 体育祭の準備。

 テントの設置や器具の運搬など、主に体育委員的な存在が行う準備だが、当然一般生徒の俺たちも手伝わなくてはならない。


 モブは舞台を盛り上げるために必要不可欠な存在。

 存在していても忘れられるほど儚いものの、なくてはならないのだ。


「シロ、おはよう」


「あ、おはよう猫音子(ねねこ)さん……って、それ……」


 かつて俺を裏切ったモブ男子生徒らとテント設置をしていると、小さな猫系女子が近付いてきた。


 なんと、そんな猫音子さんの頭には、猫耳がついている……。


「その猫耳、どうしたの?」


()えてきた……と言いたい」


「あ、カチューシャか」


 焦った。

 本当に人間を辞めてしまったのかと思った。


 というか、猫耳の猫音子さん、本領発揮って感じで超可愛いな! ペットにしたい!


「にゃー。家から3分のペットショップで買った」


「売ってあるんだ」


「店員さんに似合うって言われた」


 ドヤ顔が愛おしい。


「本当に生えてるんじゃないかってくらい似合ってるよ」


「にゃー。猫になるんだから当然のこと」


「そうだね」


 なんだか微笑ましいな。


 ――おっと。


 猫音子さんにメロメロになっていたら、モブ男子生徒Aに睨まれてしまった。

 あの人この前俺を裏切った人だし、まあ問題ないだろう。所詮はモブだ。


「今日はそれ1日中つけるの?」


「にゃー。先生に何も言われないならつけ続ける覚悟がある」


「なるほど」


 それは難しいかもしれない。

 さすがに競技の時は外せって言われるだろうね。


 そうこうしているうちに、テントの設置が終わる。


 モブ男子生徒を複数名敵に回した気がするが、やっぱりモブだからそこまで害はない。


 水筒とタオルを置いている応援席に戻り、クラスの一員モブに徹することにしよう。


 今日の体育祭で脳のリソースを割くべきことは、猫音子さんとのペアダンスと、200メートル走。

 200メートル走に関しては水越(みずごし)と何回か放課後に練習したので、難なく走り切ることができるはず。


白狼(しろう)君、準備お疲れ様」


 クラスの応援席にポツンと存在していると、後ろからメインヒロインの声がした。


 もうこの時点で、俺はクラスのモブではない。


「水越さ――ッ!」


 振り返る俺。

 その瞬間、とてつもない衝撃が俺を襲った。


 ――まさか……水越まで……髪型を変えた、だと……。


 それは今朝の犬織のインパクトを遥かに超えていた。

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